Shed Inc. の「個」が強い組織づくりとカルチャー(2)

[PR]
Shed Inc. の「個」が強い組織づくりとカルチャー(2)
個を強くすることで、「感性のジャンプ」を生む組織へ

ーーShedでは、新卒のデザイナーたちとどのように接しているのですか?

橘:Shedには、人材育成のための教育カリキュラムがあるのですが、それらを通して共通のものさしのようなものを身につけてもらうようにしています。我々が持っているメソッドやノウハウは惜しげなく提供するようにしていますが、基本的にここで身につけたものをどう使うかは個人の自由だと考えていますし、実際にShedで働く中で自分がやりたいことが見つかり、他の道に進んでいった人もいます。

ーーまだデザイナーとしての色や癖がついていない若いスタッフに一からデザインの考え方やスキルを教育していくことは、「いいデザインとは何か?」ということを組織内で共有していく作業でもあるかと思います。

橘:そうですね。私たちはお金を頂いてものをつくっているわけですから、確実に結果を出すということを何よりも重視しています。その前提に立った上で、Shedのデザイン哲学として大切にしていることは、全体の90%をロジカルで組み立て、残りの10%を感覚的な要素によって飛躍させる「感性のジャンプ」で驚きや感動を生むということです。デザインとプログラミングに特化した小規模な制作会社に何が求められるのかということを考えた時に、ひたすらクオリティを高めていくだけではなかなか差別化が図りにくいからこそ、残り10%の感性というのが大切になると思っているんです。

ーー感性というのは個人に依るものだというイメージがありますが、「感性のジャンプ」をチームとして実現させるために意識していることはありますか?

橘:やはり基本的には組織というよりも、個人個人がどうしていくかだと考えています。デザイン組織では、いかにチームとしての集合知を精緻化していくかというところにフォーカスがあたりがちですが、Shedでは個を強くすることを意識していますし、少人数でやっているからこそ、それが結果的に組織としての強さに直結すると思っています。

ーー個を強くしていくために、スタッフにはどんなことを伝えていますか?

橘:いざ案件が目の前に来た時に「感性のジャンプ」をひねり出そうとしても難しいところがあるので、普段から世の中をとらえる視点を養うことを意識づけています。具体的には、物事をひとつの「点」として捉えるのではなく、過去からの文脈など「線」としてのつながりを意識することの大切さを伝えるようにしています。スタッフにデザインのフィードバックをする時などにも、ただ答えを提示するのではなく、なぜそうする必要があるのかという背景の文脈とともに伝えるようにしています。

いまの若い世代というのは、明確な答えがあるものに対しては非常に早く反応できるのですが、一方で、答えがひとつに定まっていないものや、あいまいなものに対してアプローチしていくことは苦手だと感じています。感性のジャンプは、無限の可能性の中から自らの感覚でひとつを拾い上げることが何よりも大切で、Shedのスタッフにはそうした力を身につけてほしいと思っています。

「デザイン業界に恩返しがしたい」

ーー橘さんが考える「いい組織」というのは、どんなものですか?

橘:デザイナーとして、また、社会人として、倫理観やプライドを持ち続けられる集団でありたいと思っています。例えば、立場上あまり良くないのかもしれませんが、クライアントとのやり取りの中で納得がいかないことがあったら、あえて自分の感情などをスタッフたちに見せることもあります。そうすることによって、自分たちがどんなプライドを持って仕事をしているのか、どのような決断をしているのかということを組織全体にシェアするようにしているんです。

もっと大きな会社であれば、会社のフィロソフィーを高らかに掲げて、メンバーを引っ張っていくようなやり方もあると思いますが、我々はお互いの顔が見える小規模なチームで仕事をしているからこそ、自分たちが何を目指しているのかということを肌で感じられるような機会をつくっていくというのも、ひとつのやり方かなと考えています。

ーーこれまで培ってきた経験を、若い世代へと伝えていきたいと考える背景には、どんな思いがあるのでしょうか?

橘:デザイン業界に恩返しがしたいというのもあると思います。WebやUI/UXデザイン業界は30代が空白の世代で、そこには自分たち世代の責任もあると感じています。Flash全盛期に一線でやってきた世代というのは、ツールや技術の進化についていくことに精一杯で、自分たちの仕事を周りに伝えるという視点が欠けていたんじゃないかと思っているんですね。どこか職人的な考え方があって、背中を見て学べという感覚を持っていたのかもしれませんが、気がつけば後ろには誰もいなかった(笑)。僕らが若かった頃はクリエイターの未来像として、「あの席に座れたら良さそうだ」という業界内でのポジションというものがまだなんとなくあったのですが、いまの若い世代からすると、その席は埋まってしまっているか、あるいは座ること自体にあまり価値がないと思われているかもしれない。自分が仕事をする場所はここではないと思って、デザインの道から外れてしまった人も少なからずいるような気がしているんです。

ーーだからこそ橘さんは、組織というかたちを通じて人材の採用や育成に力を入れているのですね。

橘:はい。最近は、我々世代におけるヒーローのようなクリエイターが大学などで教え始めていて、それは素晴らしいことだと思っていますし、いまのこの状況に対してまずいと感じている人は少なくない気がします。私たちは、教育機関としてではなく、一制作会社としてこの問題意識と向き合っていきたい。有名な美大でエリート教育を受けて活躍するクリエイターもたくさんいますが、そうではないルートからデザインを学び、バリバリ現場で活躍するような、ある種“バグ”的な人がもっといても面白いですし、そうした人材を育てていくことが業界の多様性にもつながると思っています。

Shed Inc. 代表取締役 橘友希さん

取材:瀬尾陽 文:原田優輝 撮影:高木亜麗 編集:堀合俊博(JDN)