外出困難な方の社会参加を実現する、「分身ロボットカフェ」が生み出す新しい将来の働き方(2)

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外出困難な方の社会参加を実現する、「分身ロボットカフェ」が生み出す新しい将来の働き方(2)

「俺たちには世界を変える理由がある」

――先日noteにて、番田さまとの会話がきっかけとなってはじまった分身ロボットカフェのプロジェクトが、現在のようにカフェとしてオープンするまでの過程について発信されていましたが、プロジェクトのスタートから現在にいたるまで、吉藤さんの中で考え方や心境の変化はありましたか?

20代の頃は、「孤独の解消」といいながら、何をするにも一人でやった方が早いと思っていました。でも、カフェをやっていく中で自分一人では限界かもしれないと思ったとき、助けてくれる仲間たちと出会いました。以前は成功しても「おめでとう」と言われるのは自分1人でしたが、いまは隣で一緒にその喜びを分かち合える人たちがいる。これは自分の中では大きな変化でした。

吉藤オリィさん

以前、あるALSの患者さんが「自分は食べることができなくなったけれど、目の前でご飯を食べて喜んでいる人を見るのが、自分にとっては美味しいという感覚なんです」と言っていて、その意味をいまはわかる感覚があります。

人は生きていく中で築く関係性が多いほど感性が拡張されていき、そのことが豊かさにつながっていくと思うんです。たとえば、関係性のある誰かが評価されることを自分のことのように喜べるようになる。いつか身体が動かなくなってしまう将来に向けて、誰もが関係性を蓄積し、感性を拡張していくためにはどうすればいいのか。そういったことを考えながら分身ロボットカフェを運営していく中で、コミュニティそのものをデザインしたいなと思うようになりました。

――第24回文化庁メディア芸術祭のエンターテインメント部門で、「分身ロボットカフェ」はソーシャル・インパクト賞を受賞しました。メディア論やテクノロジーの文脈では、身体の拡張や未来社会におけるロボットについて議論されることが多いですが、寝たきりの方の社会参加という目の前にある現実的な課題解決のためにロボットを開発されているオリィ研究所の活動に、審査員の方をはじめ、受賞作品展に訪れた方ははっとさせられたのではないかと思います。吉藤さんはこれまでにさまざまなコンテストなども受賞されていますが、今回のメディア芸術祭受賞についてどのように感じましたか?

私にとってオリヒメや分身ロボットカフェは、あくまで社会と接するインターフェースとしてのメディアだと思っているので、今回メディア芸術祭で評価していただけたことを嬉しく思います。ソーシャル・インパクト賞も、私たちの活動が世の中にきちんと干渉できているという評価をいただけということだと思うので、大変意味のあることだと感じていますし、パイロットたちも喜んでいると思います。

2021年9月23日から10月3日まで日本科学未来館にて行われた第24回文化庁メディア芸術祭受賞作品展の様子

2021年9月23日から10月3日まで日本科学未来館にて行われた第24回文化庁メディア芸術祭受賞作品展の様子

展示期間中は「分身ロボット『OriHime』とめぐる受賞作品展鑑賞」を実施。家族や友人がオリヒメを持って会場内をめぐることで、自宅や病院など遠隔地からでも鑑賞することができるプログラムとなった。

展示期間中は「分身ロボット『OriHime』とめぐる受賞作品展鑑賞」を実施。家族や友人がオリヒメを持って会場内をめぐることで、自宅や病院など遠隔地からでも鑑賞することができるプログラムとなった。

私はドラえもんもガンダムも見ていない人間なので、ロボットに憧れたわけではないし、SF映画もあんまり観たことがない。オリヒメの開発こそしましたが、ロボットクリエイターになりたいわけではなく、研究論文を書くことやアートが目的でもありません。年齢を重ねることで病気や寝たきりになってしまうという、誰にでも起こりうる辛い将来を、できる限り回避できる方法を考えたいと思っているんです。

「分身ロボットカフェ」のアイデアを一緒に考えた番田は、残念ながら2017年に亡くなってしまいましたが、「俺たちには世界を変える理由がある」と言っていました。いまこうやって“寝たきりの先輩”たちと仕事をすることで、寝たきりの先に憧れを抱けるような世界がつくれるかもしれません。「分身ロボットカフェ」に来たお客さんが、ここで働くパイロットたちやオリヒメに喜ぶ子どもたちの姿を見て、誰もが寝たきりになるかもしれない将来において、「あんな風に働きたい」と思っていただけたり、こんな場所があってもいいかもと感じていただければと思っています。そのためにいままさにいろいろな失敗を重ねながら、みんなで試行錯誤しているところです。

分身ロボットカフェ

「分身ロボットカフェ」は、カフェであると同時に公開実験の場でもあって、常設店ではなく「常設実験店」です。「DAWN(ドーン)=夜明け」という名前には、寝たきりの先にある新しい将来のはじまりであり、「ver.β(バージョンベータ)」とつけることで変化し続けるというメッセージを込めています。

パイロットの「居場所」となり、新しい働き方や生き方をつくり出していく

――最後に、オリィ研究所と「分身ロボットカフェ」の展望についてお聞かせください。

「分身ロボットカフェ」には企業の人事の方などもたまにいらっしゃるのですが、パイロットたちと話をしている中で、「うちの会社に紹介してくれませんか?」という引き抜きが起こることがあります。普通の会社なら困ると思いますが、私たちはむしろ推奨しています。なぜなら、オリヒメは肉体労働のためのテレワークツールであり、遠隔で操作するパイロットは”瞬間移動”できるからです。たとえば島根に住んでいる人が午前中は大阪のカフェで働いて、午後は東京のカフェで働くといったことができる。現在約70人のパイロットのうち、すでに30人ほどが他の企業とつながっていていて、これからもっと増やせるのではないかと考えています。

ちなみに、「オリィ」という名前は折り紙が趣味だった私に大学の友人があだ名をつけたのが始まりで、「折り紙王子」が「折り紙くん」「オリ」になって、最終的に「オリィ」になった(笑)。それがなんだか気に入ってオリィと名乗るようになったのですが、ラボラトリー(laboratory)やファクトリー(factory)の語尾「ory」には「場所」という意味があります。「オリィ研究所」という社名は、もちろん私の名前からとっているのもありますが、「場所についての研究所」という意味も込めているんです。

昔から自分の中で「場所」が一つのキーワードだったのですが、人が集まりやすい状態や、心地いい空間の条件ってなんだろうということは、30代になって改めて考えはじめた私のテーマでもあります。「なぜ自分はここにいるんだろう?」「ここにいていいのかな?」という違和感を感じないのが「居場所」であり、そんな状態をつくりたいとずっと思ってきました。

分身ロボットカフェで働くパイロットの方々には、ここを一つのホームとしてどんどん巣立っていってほしいですね。ここは、瞬間移動することでいつでも帰ってこられる居場所であり、実験店として新しい働き方や生き方をつくり出していける場所でもありたいと思っています。

文:開洋美 写真:加藤麻希 取材・編集:堀合俊博(JDN)

【関連情報】エンターテインメント部門ソーシャル・インパクト賞「分⾝ロボットカフェ DAWN ver.β」トークセッション〜Vo.1

出演:
吉藤 オリィ(株式会社オリィ研究所共同創設者代表取締役CEO/ロボットコミュニケーター)
南澤 孝太(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)
長谷川 愛(エンターテインメント部門審査委員/アーティスト)
さやわか(エンターテインメント部門審査委員/ライター/物語評論家)

9月24日に「分⾝ロボットカフェ DAWN ver.β」にて行われたトークセッションの様子が、第24回文化庁メディア芸術祭スペシャルサイトにて公開されています。期間限定で公開されている同サイトでは、受賞者等によるトークセッションをはじめ、過去3回分の受賞作品や審査委員会推薦作品のアーカイブの一部をご覧いただけます。

詳細:https://www.online24th.j-mediaarts.jp/
公開期間:2021年12月24日17:00まで