「パッケージ強化」のために立ち上げた新チーム
金子知生さん(以下、金子):2016年の4月、パッケージの領域を強化しようということで、「パッケージング・コミュニケーションセンター」という部署を新設しました。「SPOPS(スポップス)」はこの部署内で取り組んでいる開発テーマのひとつです。日本製紙は印刷用紙を中心に製造してきた会社ですが、電子媒体の登場で印刷業界は右肩下がり。現状に対応するためには、新たな領域を攻める必要がありました。
新たな領域のひとつとしてパッケージ分野、という経営方針が掲げられており、パッケージに特化した専門の部署を立ち上げたのです。立ち上げは今年の4月ですが、始動は昨年の10月から。半年間かけて、社内で「パッケージ強化のためにはどのような組織が必要か」を考えるミッションがあり、僕がプロジェクトの責任者でした。そこから組織のビジョンを描き、どんな技術や能力をもった人材が必要かを社内の人間に当てはめていきました。パッケージング・コミュニケーションセンターは、もとはバラバラの部署にいた数名を指名してできた、選抜チームというわけです。野田はもともと研究所で紙素材の開発をしていました。奥出はパッケージング・コミュニケーションセンターのメンバーではありませんが、紙パック事業本部というところで液体飲料に使う紙パックの開発をしており、SPOPSの開発チームに参加しています。
シャンプー詰め替え時のイライラを解消したい!
野田貴治さん(以下、野田):ちょっと複雑な話なのですが、SPOPSの原案の誕生については開発チームが発足する前に遡ります。当社には通常の業務とは別に、「小集団活動」というものがあります。業務効率を改善したり、普段の業務では取り組みにくいテーマにチャレンジする自主活動です。僕がメンバーに入っていたグループで、普段の生活で不便なことはなんだろう?と考えていた時に、「シャンプーの詰め替えって面倒だよね」という話が出て。準備のいい人は前もって詰め替えるのでしょうが、たいていの人は入浴中に切らしてしまい、洗面所の下からパウチを取り出し、封を切って、容器のふたを開けてシャンプーを移し替える。濡れた手でパウチを開けようとすると、これがまた滑るんです(笑)。
加えてふにゃふにゃしているから、こぼれそうで移しにくい。だいたいこの作業に2分くらいかかります。非常にストレスなので、これをなんとかできないかと考えはじめたのがきっかけです。当初はパウチを強化する方向で考えていたのですが、それでも面倒なことに変わりはない。ある日湯船に浸かりながらふと、「詰め替え自体をやめればいいじゃん!」と思いついたんです。そのアイデアをグループで話したところ、手先の器用なメンバーが100円ショップで部品を買いあさってサンプルをつくって。それが2013年頃です。
金子:有志が頑張って開発に向けて動いていたので、4月にパッケージング・コミュニケーションセンターができたことでこれを会社公認のプロジェクトにしました。それまではプロトタイプも手弁当でなかなか思うように進まなかったのですが、4月から資金もちゃんと投資することで、発展した活動ができるようになりました。
既存技術を駆使して新たな技術も融合
野田:使い終わった古いシャンプーを抜いて新しいシャンプーをセットする。このシンプルな仕組みができれば……。そう考えついたものの、どのように自分たちのもっている技術と組み合わせるのか。そこがひとつポイントでした。当社には、紙パック事業本部という、紙パックのスペシャリスト集団がいましたので、まずはそこに相談しました。
奥出秀樹さん(以下、奥出):差し替え式の案を相談された時、紙パック事本業部がもっている技術を使えばおそらくできるだろうという感覚はありました。いくつかの案の中から、市販の屋根型紙パックにシャンプーを入れる案を試してみたところ、漏れることも紙がふにゃふにゃになることもなかったので、紙パック式の案を進化させる方向に決まったんです。
野田:このパックをつくる上で大きな課題になったのが、天面部分(底)でした。通常の屋根型紙パックは、折り方の都合でどうしても真ん中に紙の重なりができます。そうなると穴を開けるのが非常に難しいんです。でも、真ん中に穴がないとふたの向きが限定されてしまい、使い勝手がよくない。言い換えれば、真ん中の紙の重なりをどうなくして1枚にするか。奥出と2人でハサミと紙を持ち出して、ああでもないこうでもないと折り方を試しているうちに、ピッタリと合うベストな位置を発見したんです。その時はうれしかったですね。
奥出:あとは外側のディスペンサーとの組み合わせですが、お風呂場で使うので、紙のままむき出しではやはり不安です。そこで単純にプラスチックのケースに入れて使う形にしました。ただ、ノズルをカートリッジ(紙パック)本体に差す時に力がいるんじゃないかという意見も多く出たので、程よい力加減で差せるように改良を重ねました。カートリッジの大きさもパウチに比べてコンパクトな印象を受けるかもしれませんが、容量は変わりません。カートリッジ、ディスペンサーともに細身なので、子どもには少し大きいかもしれませんが、女性でも片手に収まります。こうして徐々に完成形に近づいていきました。ちなみに消費者の方が最初にSPOPSを購入する時には、カートリッジとディスペンサーをセットで購入することになります。
金子:開発を進めていくなかで、やはり私達だけでは能力不足だと感じる部分もありました。SPOPSの技術的な面は問題なくても、それをどのようにお客様に訴求して、どうやってシャンプーメーカーさんと知り合い、さらにその人たちに最適な宣伝媒体は何かを考えるには限界があります。僕はいろんなテーマのセミナーを聞いて回りました。ある時「探していたのはこの人だ!」という人に巡り合い、こちらから声をかけさせていただいたのが、今やランニングメイトとして一緒に走っていただいている博報堂さんです。博報堂のデザイナーの高嶋さんには開発チームにも入ってもらい、ロゴデザインなども手がけていただきました。
高嶋紀男さん(以下、高嶋):僕は博報堂で広告のブランディングやロゴデザインをやっていますが、SPOPSがある程度形になった段階で開発チームに入りました。
SPOPSを市場に流通させるにあたり、チームがどんなメーカーと組んでいけばいいのか。そこから一緒に考えました。こちらが一方的に提案するのではなく、パッケージが過去にどのように世の中に普及してきたかなどを互いに勉強しあい、博報堂の知見やつながりも活かしながら最適な道を模索しました。まさに協働で走ってきた感じです。
(*)紙パックとしては世界初
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