天井に張りめぐらされた巨大オブジェを生かし、
ロフトのコンセプトと融合
渡部智宏さん(以下、渡部):バンコクの中心地にある大型商業施設のリニューアルに際し、ロフト Siam Discovery店のインテリアデザインを担当しました。私たちが2012年に手がけた、ロフト渋谷店の文具売り場をタイロフトの代表が気に入ってくださり、店舗を担当させていただくことになったんです。
担当するにあたり、ロフトの区画には大きな条件がありました。それは、もともと天井に環境デザインとしてしつらえたオブジェを使った上で店をデザインしてほしいというもの。建物全体の環境デザインのコンセプトが「化学反応」ということで、オブジェは八角形の化学結合をモチーフにした、造作的にもインパクトのあるものでした。ロフトブランドとの関連性も希薄だったので、コンセプトとどのように関連付けていくかが最大のポイントとなりました。
平綿久晃さん(以下、平綿):実際にロフトへ提案した内容は以下です。
・ロフトのブランドカラーのイエローを「面」ではなく、ポールに使うことで「線」で表現
・従来の什器の配置を変えることで「空間体験」を高める
・什器に「間(ま)」という概念を持たせる
・歩き回ることで、探す楽しみや迷う楽しみを生ませる=「路地」を歩くワクワク感
平綿:最大のポイントとなるオブジェについては、Vectorworksであり方を探っていきました。まずすべての八角形の内側をグレーで塗り、面を作成(下図2)。すると、穴が開いているところが等間隔で出現しました。そこにロフトのブランドカラーであるイエローのポールを串刺しにしていくと、等ピッチのグリッドの空間が出来上がる(下図3)。そしてポールとポールを結んでいき、陳列台で囲んで小部屋をつくりました(下図4)。
小部屋の中と外ができたことで、出たり入ったりしながら買い物をすることになり、フラットに店内を歩くというよりは冒険的な部分に繋がっていくと考え、この構成が「楽しく迷える売場創り」に結びつくと提案をしました。
ロフトの陳列台はゴンドラ什器と呼ばれる集積感を出すためのもので、長年ロフトの歴史の中で培われてきた完成している什器です。そのゴンドラ什器を小部屋を囲う部分にそのままの形で使用し、余計なものは一切つくりませんでした。言ってしまえば、私たちはポールをつくっただけなんです(笑)。ただ、お客様に内と外を感じていただくために什器の内側は黒く、外側は明るいグレーに塗り分けてリズムを付けました。
ブランドの解釈を再設定、店内を回るワクワク感を創出
渡部:それともう一つ、施主から「ロフトはジャパンブランドだということをタイの人々に知ってもらいたい」との注文がありました。そこで日本特有の「間(ま)」というコンセプトを提案。ゴンドラ什器で囲んだところに「間」の概念を持たせました。ほかには、外光が柔らかく入るように格子の感覚を取り入れ、昼と夜で風景が変わって見えるようにもしました。ロフトの解釈を再設定して、さらに日本の解釈を取り入れたつもりです。
また、店内がとても広いため、お客様が退屈しないように床に段差を付け、アップダウンを味わってもらうことにしました。高いところに上がった時は広い空間が見渡せ、丘から町を見下ろす感覚になります。これも、買い物をするときのワクワク感を高めてもらうための工夫です。一歩お店に足を踏み入れたら、店内中を歩きたくなってしまうような感じをつくり出したかったんです。
渡部:通常のロフトは、什器が並列に配置されています。見やすくて分かりやすく、商品にもすぐリーチしやすいという利点があります。ですが、行くたびに新しい商品が見つけられる体験ができるのかという疑問点もありました。新しい解釈のロフトのコンセプトなら、路地を歩くワクワク感で、お店への新鮮さを長持ちさせることができると考えました。
プレゼンシートにも相当し、すべての要望に応えてくれるVectorworks
平綿:設計にあたっては、概念図的なものも、全部Vectorworksで作成しました。海外での仕事なので、工事会社と頻繁に会って打ち合わせをすることがほとんどできません。詳細レベルの図面を細かく描くより、Vectorworksで簡単な3Dを見せる方がスピーディーで伝わりやすいメリットがありました。
渡部:Vectorworksで描いたアイソメ図(立体を斜めから見た図を表示する方法)は一目でわかりやすく、お客様に見せる際に重要です。図面で細かく指定するより、すぐに理解してもらえるので、Vectorworksでつくった画面がそのままプレゼンシートに相当するくらい。また、今回の店舗のように店内の大きなパーツだけでなく、什器の中に入る小さなパーツまで横断して使えるということもすごく便利ですね。
決まったものを清書するためにVectorworksを活用するということもありますが、アドリブというかセッションみたいにガイドラインだけ引き、スタディ模型をつくるところから活用しています。最初から最後まで、プロジェクトの中のタームに、ずっと関わりを持ってくれる心強いソフトだと思います。
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