クリエイションの発火点

minna / デザインチーム

できるだけ大勢を巻き込んで長く続けていく-minnaインタビュー(2)

いちどチームがつくれれば、本気で話すことができる

聞き手:瀬尾陽(JDN編集部) 構成・文:齋藤あきこ 撮影:葛西亜理沙

目指すは日本を代表するアップサイクルのパイオニア
「NEWSED」のアツいゴール設定

― それでは具体的なプロジェクトについて伺います。廃材を使ったデザインプロダクトの「NEWSED」は、どういう経緯でスタートしたんですか?

長谷川:僕らに来た依頼は、「1つでいいから、なにか売れる商品をつくって欲しい」というものでした。以前僕らがやった廃材のプロダクトを見ていただいたみたいで。その依頼も、「2か月後の東京デザイナーズウイーク(現・東京デザインウィーク)に出展できるものが欲しい」という裏事情があったんです。依頼を頂いた時点の「NEWSED」には、廃材を使ったプロダクトを売る、というコンセプトはありましたが、魅力的なものはつくれていなかった。それで「なにか1つでいいから売れる商品をつくりたい」ということだったんです。

― けっこうざっくりした状態で依頼が来るんですね。

長谷川:でもなにかひとつをつくったからといって、オセロのようにブランドそのものが変わるわけではない。そういう話を社長さんと腹を割って話していたら、実はブランドを存続させるかどうかの崖っぷちだということを知りました。そして「最終的には日本を代表するブランドにしたい」という目標があることも、「FREITAGを超えろ!」みたいなアツいゴールが設定されていることも知ったんです。

「古くなってしまったものを、新たな視点でみることで、新しいものとして蘇らせる」がコンセプトのプロダクトブランド「NEWSED(ニューズド)」

「古くなってしまったものを、新たな視点でみることで、新しいものとして蘇らせる」がコンセプトのプロダクトブランド「NEWSED(ニューズド)」

角田:私たちが関わる前の「NEWSED」には、明確な軸が無く、「ブランド」や「デザイン」という考えが弱かった。だからブランディングとはどういうことなのか、デザインはどういうメッセージを持たなければいけないのか、ということをコンセプトからつくり直していきました。

長谷川:でも全部変えるわけではないんです。「NEW(ニュー)」と「USED(ユーズド)」という言葉を組み合わせたブランド名はすごく素敵なので、それに合わせてロゴのフォントも昔っぽい要素とデジタルっぽい要素を組み合わせています。それで最終的に「なにか売れるもの」ということでつくったのが、廃材のアクリルを使ったバッチ「Re:Acryl badge」でした。これがうれしいこととに、東京デザイナーズウイークで良い反応があり、取引先が広がって本格的に「NEWSED」を継続させようということになりました。

「NEW(ニュー)」と「USED(ユーズド)」という言葉を組み合わせたブランド名に合わせて、ロゴのフォントも昔っぽい要素とデジタルっぽい要素を組み合わせている

「NEW(ニュー)」と「USED(ユーズド)」という言葉を組み合わせたブランド名に合わせて、ロゴのフォントも昔っぽい要素とデジタルっぽい要素を組み合わせている

― 具体的にはどういったところから反響があったんですか?

長谷川:アート系の本屋さんなどからはじまり、いまでは六本木ヒルズアート&デザインストアや直島のベネッセハウスミュージアムショップなどで販売されています。このシリーズが累計で三万個ぐらい売れて、いまもロングセラーで売れています。それ以前に「NEWSED」のラインナップは、「これ、廃材を使っているから面白いでしょ?」というのが前面に出て、デザイン性に欠けるものだった。でも、大事なのはそこじゃなくて、プロダクトを見た時に、最初に「かわいい!」とか「何これ!?」と思えるもの。モノを買う時に「気になる」という気持ちがあったうえで、実は「廃材だったんだ」と思うものでないと、拡がらないし、購入にも繋がらないというのが僕らの考えだったんです。

角田:まずは手に取ってもらうこと。そこから廃材というストーリーが心に響いて、ようやく買ってもらえるという段階になるので。そういう意味では、廃材というのはプロダクトの弱点ではなく強みなんですよね。少し前だと、「世の中に対して良いことをしているから売れる」という風潮もありましたが、いまはもう違うので。

ショップオリジナルの什器やアクセサリーなど、特注の色柄のアクリル板の波材を組み合わせてつくられた、ほぼ1点物のバッジ「Re:Acryl badge」

ショップオリジナルの什器やアクセサリーなど、特注の色柄のアクリル板の波材を組み合わせてつくられた、ほぼ1点物のバッジ「Re:Acryl badge」

長谷川:彼らの「日本を代表するブランドになりたい」という目標を実現するためには、売り上げはもちろんなのですが、それ以上にブランドイメージを意識しなければならないということは言い続けています。そのために、何度も何度も話し合いを重ねてきています。

角田:いちどチームがつくれれば、本気で話すことができる。「こうじゃないと本当に良くならない」と考えをお互いに話せる間柄になっているので、これだけ長くお仕事させてもらえているのだと思っています。単にふたりともおせっかいなんだと思うんですけどね(笑)。だから結果そうなっちゃう。

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長谷川:最近では、自分たち以外のデザイナーを起用してブランドに迎えたり、商品数やバリエーションを増やす工夫をしています。また、途中からブランドに「アップサイクル」という、素材の可能性を引き出して、新しいものに生まれ変わらせるという、リサイクルに替わる概念が出てきた。「NEWSED」はこれのパイオニアになるべきだという新しい目標ができたんです。そのためには商品開発のフローも、もっと多様であるべき思い、廃材を使ったプロダクトのアイデアを募集するコンテストを3年前からひらいています。その受賞作品をブランドとして吸い上げて、商品化するという流れも定着しはじめて、今年も6月頃から募集を開始する予定です。

“残業できるぐらい忙しくなりたい”
和紙職人たちの願いに応えるブランド「FIVE」

富山県の深い山々に囲まれた秘境五箇山で作られる和紙のプロジェクト「FIVE」。ブランド立ち上げから、コンセプトメイク、プロダクト、グラフィック、パッケージ、ウェブなどトータルでデザインを手がけている。

― ブランドの立ち上げから関わられている「FIVE」は、どのようにしてスタートしたんですか?

長谷川:「FIVE」は、富山県の世界遺産である合掌造りの建物にほど近い場所にある「五箇山和紙の里」との共同プロジェクトです。ここには400年に渡る手漉き和紙の歴史があるんですが、最近は需要の変化で生産量がすごく減っています。そこで「道の駅で売れる商品を作って欲しい」という補助金事業の依頼があったんです。でもよくよくお話を聞いてみると、職人さんたちには「残業したい」という思いがあった。残業というものができるぐらい忙しくなりたいというのが彼らの願いでした。

紙づくりの豊富な知識と経験を持つ「五箇山和紙の里」と「minna」による、既存の和紙の感覚にとらわれないブランド「FIVE」。

紙づくりの豊富な知識と経験を持つ「五箇山和紙の里」と「minna」による、既存の和紙の感覚にとらわれないブランド「FIVE」。

角田:わたしたちとしても、補助金で何かを作るにしても、一過性で終わらせたくない。そして何より、道の駅だけのために商品をつくっても「残業したい」には応えられない。じゃあブランドをつくって、日本中、世界中に発信していこうよ、と提案したのが「FIVE」のはじまりです。

長谷川:補助金は厳密に対象が決まっているから、商品開発はよくても展示会はダメ、など、実は出来る範囲が狭いんですよね。だから彼らも尻込みしてしまうんだけど、僕らはそれを気にせずにいろいろ提案して実現できるようバックアップしました。

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― 実際にはどんな提案をされたんですか?

長谷川:400年の歴史はあるけれども、他の有名な和紙産地と比べると生産量やネームバリューでは、太刀打ちできない。そこで僕らはそれを逆手にとって、小さな産地だからこそできる「和紙のタブー」を犯そうと提案したんです。和紙の良さとされている生成りを隠して、ネオンカラーと黒と白とグレーで塗装した、蛍光色の和紙のシリーズをはじめました。技法としてはまったく新しいことをしておらず、色を変えただけなんです。それだったら、産地の方にも無理にならず、期日と費用にも見合うものでした。

「minna」は、ブランド立ち上げから、コンセプトメイク、プロダクト、グラフィック、パッケージ、ウェブなどトータルでデザイン。和紙の良さとされている生成りを隠して、ネオンカラーと黒と白とグレーで塗装

「minna」は、ブランド立ち上げから、コンセプトメイク、プロダクト、グラフィック、パッケージ、ウェブなどトータルでデザイン。和紙の良さとされている生成りを隠して、ネオンカラーと黒と白とグレーで塗装

― 目的のためなら、「和紙のタブー」に挑戦するあたりがminnaらしさですね(笑)。

長谷川:ギフトショーやメゾン・エ・オブジェに出展したところすごく反響があり、海外のポール・スミスや日本のMOMAでも取り扱われました。最初「ブランドって何?」と懐疑的だった村の人達にも受け入れてもらえるようになりましたね。

角田:いまはペンケースやノートなどバリエーションも増やしています。道の駅のレジでおばちゃんが、障子紙のロールをメモ帳代わりに使っていたのをヒントにしたメモロールも人気商品です。

障子紙のロールをメモ帳代わりに使っていたのをヒントにして生まれたメモロール。全て天然素材のみでつくる障子紙の技法を活かしてつくられている

障子紙のロールをメモ帳代わりに使っていたのをヒントにして生まれたメモロール。全て天然素材のみでつくる障子紙の技法を活かしてつくられている

― そういうちょっとしたヒントをカタチにするしても、よそ者が入っていかないと変えられない部分があるんでしょうね。

角田:最初は「見積もりの項目がカタカナだとわからないから、全部縦書きにして欲しい」という要望からはじまるんですよ。そこを丁寧に説明して歩み寄り、時にはリードして、上から引っ張りあげるように強行的な部分もつくって攻めないとブランドというのはなかなか成長しない。「FIVE」というブランド名にしたのは、今後の展望も考え、五箇山和紙に関わる他の方も巻き込んでいけるようにとの狙いからです。そして、売れるものをつくれれば、技術も継承することができます。

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