高い芸術性と創造性を持つ優れたメディア芸術作品を顕彰し、受賞作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバル、「文化庁メディア芸術祭」。前回(第23回目)は、世界107の国と地域から3,566点もの作品が集まり、国際的なフェスティバルとして成長を続けている。
アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において作品を募る本芸術祭は、第1回目が開催された1997年から、常に時代の空気を映し出す作品に光をあて続けてきた。24回目の開催を迎える今回の審査委員4名に、同芸術祭の魅力や自身の経験を踏まえた、賞へ応募することの意義、応募者へのメッセージについてお話いただいた。
アート部門審査委員:八谷和彦
Q.メディア芸術祭の魅力は何だと思いますか?
観客の立場で答えますが、本来は異なる表現領域の、メディアアート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの前年度の優秀な作品を一堂に見れることが、この芸術祭の魅力だと思っています。百貨店のようなイメージですね。
Q.八谷さんは、アルスエレクトロニカなど数多くの受賞歴がありますが、過去に作品を応募した経緯について教えてください。
若いうちは知名度を上げるのも大事だと、当時は考えていました。そんな中で、個人的にはアルスエレクトロニカがメディアアートの国際的なアワードであり発表の場だと思っていたので、3年連続で作品を出すことにしました。昨年、「Open Sky」プロジェクトで「EAA AirVenture Oshkosh(世界最大規模のエアショー)」に機体を持っていったのも同じ理由です。いい観客と優秀なつくり手がいるところに自作を持っていくのが大事だと思います。
Q.受賞したことで感じたアーティストとしての変化や、作品を応募することの意義について教えてください。
大きな発表の場に作品を出すと、連鎖的に次の展示の話が来たりします。特にヨーロッパとかでは顕著だと思います。でも、それに飲み込まれないように、自分のペースをもって制作と発表のバランスを保つのが大事。一番大事なのは、つくり続けることとその環境をつくること、そしてそのために発表の機会をうまく使うことだと考えます。
Q.メディア芸術祭は、時代を反映した芸術表現にスポットを当て続けています。アート部門審査委員として、現在の社会情勢の中で求められている表現について、どのように考えていますか?
単に、ポストコロナにがっつり適合した表現、というわけではない気もしています。「そういえば2019年はSDGsとか言ってたな〜」みたいに、あとで振り返ったときに2020年のみに適合した作品になってしまうので。自分としては、2030年や2050年に見ても人間や社会の本質を突いているようなの作品が見たいです。
Q.アート部門の審査委員として応募作品に期待することと、応募者へのメッセージをお聞かせください。
ものすごく世の中の仕組みや習慣が変わっているフェーズでは、柔軟で若い思考が有利になると思います。また、「機材や物量で勝負」ではない世界になっていく気もしてます。とにかくいまは時代の境目であることは事実なので、おそらくこれまでとは違う作品が増えると予想しています。こういう中で審査するのは楽しみでもあり、プレッシャーでもあります。期待しています。
エンターテインメント部門審査委員:長谷川愛
Q.「(IM)POSSIBLE BABY, CASE 01: ASAKO & MORIGA」で第19回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞を受賞されていますが、メディア芸術祭の魅力についてどのように考えていますか?
アートの文脈と交わるメディア作品を評価し、表彰する機会はなかなか少ないので、メディア芸術祭は貴重なチャンスだと思います。
Q.受賞後に感じたアーティストとしての変化や、賞に応募することの意義について教えてください。
受賞すると、巡回展などで国内外さまざまなところで展示する機会にも恵まれますし、作品を多くの人に知ってもらうのにとてもいい機会で、私も大変助かりました。ぜひ応募してキャリアアップに繋げていただけたらと思います。
Q.メディア芸術祭は、時代を反映した芸術表現にスポットを当て続けていますが、現在の社会情勢の中で求められている作品とはどのようなものだと考えますか?
ここで言うメディアとはテクノロジーでもあり、テクノロジーと共に私たちは相互に影響し合いながら生きています。メディアやテクノロジーについて批判的な目を持ち、なぜいまそのメディアやテクノロジーを使い、どのようにそれを使うのか。時代を反映するものは、それらを問いかけながら制作されている作品なのではないかと思います。
Q.長谷川さんは、今回エンターテインメント部門審査委員を務められますが、長谷川さんが考える優れたエンターテインメント作品とはどのようなものでしょうか?
難しい問題ですね。エンターテインメントとは、楽しませるものであり、特に辛い時代にあれば、人々の痛みを一時的に取り去り元気を与えるものかもしれません。ですが、私は優れたエンターテインメント作品は、メディアやテクノロジーの現在の役割やあり方を考えさせつつ、一過的な麻薬やポルノ的な「痛み止め」の効用を超えて、「根治」するにはどうしたらいいのかを問い、根治への希望の道筋を開拓するような力を持ったものだと思います。そのような意味で、いい作品はジャンルやタグ付け、呼び方などは重要な問題ではなくなる気がします。
Q.エンターテインメント部門の審査委員として、応募作品への期待と応募者へのメッセージをお聞かせください。
間口は広くとっつきやすいのに、潜ると深く鋭い作品を楽しみに待っています。
アニメーション部門審査委員:水﨑淳平
Q.水﨑さんは「陽だまりの詩」「EXILE “BOW&ARROWS”」「SOUND & FURY」にてメディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出されていますが、メディア芸術祭の魅力についてどのように考えていますか?
メディア芸術祭はずっとチャレンジしており、自分の監督作である上記3作品と、会社の作品としては第21回に横嶋俊久監督作の「COCOLORS」で優秀賞を受賞させていただきました。審査委員会推薦作品から上位への壁の高さをずっと感じていましたので、「COCOLORS」入賞は本当に嬉しかったです。
芸術祭自体は、安定した目線での作品選出がされていると感じています。また、毎年行われる展示の質の高さも魅力です。日本の公式のコンペティションという印象があるので、これからも最優秀賞を目指してチャレンジしたいと思っています。
Q.過去にメディア芸術祭へ応募した経緯についてお聞かせください。
森本晃司監督の「ハッスル‼︎とき玉くん」というショート作品の衝撃的なビジュアルに惹かれており、それが1998年の第2回開催時に大賞を取ったということで、メディア芸術祭のことを知りました。「とき玉くん」を選んだコンペティションの視点が素晴らしいと感じたことから興味を持ち、「自分もいつか入賞したい」と、メディア芸術祭がひとつの目標となっていきました。
ちなみに、今年の推薦作品に選出していただいた「SOUND & FURY」はオムニバスMV形式なのですが、森本晃司監督にも1作品に参加いただきました。憧れの方とご一緒した作品がまたメディア芸術祭で選ばれるということも、とても運命的だなぁと感じます。
Q.メディア芸術祭での選出や、初めて作ったアニメーション作品が「Wavy Awards」でグランプリを獲得しておりますが、受賞後に感じたアニメーション作家としての変化や、賞に応募することの意義について教えてください。
初めての賞は99年の「WavyAwards」でしたが、当時はまだCGに触れるわずかな人の間でしか認知されていないコンペティションでした。それでも、自分で制作したものが誰かから選ばれたことはとても嬉しく、未知数だった自分の表現手法とそのチャレンジが正解だったのかどうかを知る基準となりました。
何かを制作する時には、自分の感覚だけを信じて業界のスタンダードや流行を意識しすぎないものづくりをしており、あえて「ガラパゴス」というものを意識しています。なので、完成後に賞に応募してみるということで、その「ガラパゴス」な表現は正しかったのかどうかを知ることができ、そして次につなげるというのが、自分の中での賞への応募する意義になっています。
Q.メディア芸術祭は、時代を反映した芸術表現にスポットを当て続けています。アニメーション部門審査委員としての視点から、現在の社会情勢や、アニメーション業界が置かれている状況から求められている表現について、どのように考えていますか?
自分が審査委員として関わる今回の芸術祭は、現在の新型コロナウィルスの情勢のちょうど前後の作品が応募されてくることになります。
この状況下で、作者や審査委員、みんなが同じ時代の中を生きており、ひとりの人間としての感覚からフラットに観ていくことで、何かを感じ取れる作品かどうかが、時代が反映された表現なのだと信じています。その視点が、自分がチャレンジし続けたメディア芸術祭の安定したブランドを保つことになるのだろうと思っています。
いまはリモートワークや人と人が接することのできない中で制作された表現が、どこかしらに出ている作品が多くなってくると予想していますが、観る側としてはその空気に飽きてきている部分も正直あります。もしかしたら、この状況下であることを忘れさせてくれる作品に出会いたいのかもしれませんね。
Q.アニメーション部門審査委員として、応募作品への期待と応募者へのメッセージをお聞かせください。
審査委員の中ではまだ経歴も浅い人間ではありますが、デビュー当時を振り返っても、受賞したことによって自分の足場を固めていけたという思いはあります。若い方に平等なチャンスが行き渡るよう、作品の中での挑戦しようという勢いをしっかりと感じ取りながら、この先の世界を明るく照らしてくれそうな作品を選出したいです。
前向きな、そして今の世界に意義のあるものに出会えることを楽しみにしています。
マンガ部門審査委員:島本和彦
Q.島本さんは『アオイホノオ』にてメディア芸術祭を受賞されていますが、島本さんが考えるメディア芸術祭の魅力とは何でしょうか?
以前、一条ゆかりさんが『プライド』という作品で優秀賞を取られた際のことを、「受賞したときに、島本和彦の漫画のようにドドドドドと涙が出てきた」とエッセイに書かれていて(笑)。「あ、自分のこと書いてる」って嬉しかったので付箋をつけておいたんですが、それがこの賞のことを知ったきっかけですね。
日本という国において漫画は、手塚治虫から世界には類を見ない発展を遂げたという、すごく貴重な歴史的な流れがあります。日本の漫画は、アメリカンコミックとはまた別物ですし、絵解き物語ではなく、映画の絵コンテをそのまま印刷したような、不思議な表現のかたちですよね。一般的に漫画はサブカルチャーとされていますが、それが文化として一本立ちするということが、まず日本から起こって欲しいと思います。そのためには、国が漫画家を応援しないと、そろそろ他の国に抜かされる可能性が出てくると思うんですね。なので、こういったメディア芸術祭のように国が漫画家を応援する機会はとても貴重だと思います。
Q.過去にメディア芸術祭へ応募した経緯について教えてください。
『燃えよペン』は、売れてないマンガ家がマンガを題材にした作品=「マンガ家マンガ」を書くという、恐ろしくて誰もやっていなかったことを、私が恥を忍んでやった作品なんです(笑)。一般的には、藤子不二雄さん『まんが道』が「マンガ家マンガ」だとされていますが、あれは有名人による自伝だと思うんですね。『燃えよペン』は、「売れてないマンガ家が、マンガ家マンガを書いてもいいんだ!」という新しさがあったので、その後の漫画界のひとつの土壌をつくった作品でもあると思います。
ですが、どちらかというとそれは身内から大切にされるというか……(笑)。マンガ家というのは、マンガ表現の歴史を知っているので、あらゆる表現において誰が最初にそれを生み出したのかがわかるんですね。なので、身内であるマンガ家には私の作品には誰もやったことがない表現が多いということに気付いてもらえるんですが、読者の方々にはなかなかその新しさがわかっていただけないということがあって。
そんな時に、メディア芸術祭という場所ならばちゃんと私のつくった「マンガ家マンガ」の流れ(『燃えよペン』〜『アオイホノオ』)の新しさについてもわかった上で評価してくれるだろうと思ったのが応募のきっかけとしてあります。『アオイホノオ』は、同じ年に小学館漫画賞も受賞しているのですが、出版社などが主催するマンガ賞などは、どこか売れたマンガに対しての評価といったイメージもあると思うので、こういった文化庁主催による場であれば、売上に関係なく、このマンガにある表現としての新しさを重要視してくれるんじゃないかと思い、応募した経緯がありました。
Q.メディア芸術祭は、時代を反映した芸術表現にスポットを当て続けています。マンガ部門審査委員としての視点から、現在の社会情勢や、マンガ業界が置かれている状況から求められている表現について、どのように考えていますか?
技術的にエッジの効いた新しい表現は目立つと思いますし、みんながスマホを持つようになってからのマンガの読まれ方の変化を意識したものや、やっぱり紙のマンガならではの表現をしているものなど、さまざまな可能性があるとは思いますが、読む人のこころを震わせる表現には、普遍的な何かがあると思います。私は、そういったものに興味がありますね。
いつの時代も、若い世代のマンガ家は、親の世代がやっていたことはやりたくないといった反骨精神を持つものだと思うので、その時代ごとの新しい表現というものは必ず生まれてくると思いますが、目に見えてわかる新しさだけじゃなくて、“目に見えない新しさ”のある表現が出てきて欲しいなと私は思いますね。一見すると使い古されたようなものであっても新しさを感じるような、そんな作品を見てみたいと思います。
Q.マンガ部門審査委員として、応募作品への期待と応募者へのメッセージをお聞かせください。
売れているとかそうじゃないかは関係ないと思うので、「自分はこんなマンガを読みたいんだ」「自分はこういうことを考えているんだ」といった思いをぶつけてくるような作品がいいと思います。
私が大阪芸術大学に通っていた頃に描いていたマンガは、既存の作品の枠の中で描かなくちゃいけないという変な縛りが、心の中にあったんですね。なんであのときに素直に作品を描かなかったんだろうって、いまでも心残りがあるくらいなので、自分が表現したいことに、もっと素直になった方がいいと思います。
なぜそういった枠に縛られた表現をしてしまうかというと、恥をかきたくないからなんですね。恥をかく覚悟さえできていれば、一番純粋なかたちで表現ができる。自分が描いたものによって自分自身が愕然とし、感動して打ち震えるようなものであれば、おそらくそれは他の人にとっても響くものだと思うんです。なので、まずは自分を感動させる作品をつくってもらいたいなと思います。
第24回文化庁メディア芸術祭
作品提出・募集締切:
2020年09月04日 (金) 18:00まで
募集内容:
メディア芸術の広範な表現による多彩な作品
※2019年10月5日から2020年9月4日までの間に完成、またはすでに完成し同期間内に公開された作品
※更新、リニューアルされた作品で上記期間中に完成、または発表された作品も応募可
※プロ、アマチュアおよび自主制作作品、商業作品を問わず応募可
※複数応募可。ただし、同一の作品を複数の部門に重複して応募することは不可
【アート部門】
インタラクティブアート、メディアインスタレーション、映像作品、映像インスタレーション、グラフィックアート(写真を含む)、ネットアート、メディアパフォーマンス等
【エンターテインメント部門】
ゲーム(テレビゲーム、オンラインゲーム等)、映像・音響作品、空間表現(特殊映像効果・演出、パフォーマンスを含む)、プロダクト(メディアテクノロジーを活用した製品、研究開発デバイス等)、ウェブ・アプリケーション等
【アニメーション部門】
劇場アニメーション、短編アニメーション(オープニング映像、エンディング映像等を含む)、テレビアニメーション、ネット配信動画等
【マンガ部門】
単行本で発行されたマンガ、雑誌等に掲載されたマンガ(連載中の作品を含む)、コンピュータや携帯情報端末等で閲覧可能なマンガ、同人誌等の自主制作のマンガ等
結果発表:
2021年3月(予定)
主催:
第24回 文化庁メディア芸術祭実行委員会
編集・構成:堀合俊博(JDN)