
石灰石を主な原材料とした紙代替品「LIMEX」
自給率100%の原料から、紙やプラスチックをつくる
近年『カンブリア宮殿』や『ワールドビジネスサテライト』など、テレビ番組でも多く取り上げられている「LIMEX」。注目の新素材はどういう特徴をもつのだろうか。
坂井宏成さん(以下、坂井):「LIMEX」というネーミングの由来は、主成分である「石灰石=Limestone」から来ています。世界中にほぼ無尽蔵に存在する石灰石は、日本においても自給率100%を超える資源なんです。

坂井宏成:2011年東京大学大学院化学生命工学専攻修士課程修了。株式会社三菱総合研究所に入社し、2016年より現職。前職ではコンサルタントとして顧客のマーケティング戦略や、知財分析に基づくメーカーの事業戦略・研究開発戦略等を立案。現在は研究開発戦略策定、知財管理、生産管理等の業務に従事。新工場の立上げにも関与
黒木重樹さん(以下、黒木):石灰石を使えば水や木を使うことなく紙代替品を製造でき、石油由来成分を抑えたプラスチック代替品の製造も可能となります。名刺などの紙代替品は、見た目ではさらっとした紙のような印象なのですが、石灰石が6~8割も含まれています(ほか2~4割はポリオレフィン樹脂)。しかも主成分が石なので、水をはじく耐水性と、折ってもあまりシワがつきにくいという耐久性もありますね。
紙に替わる素材を日本に広めたい
「LIMEX」を開発したのは、株式会社TBM。実は同社が開発を手がける以前から、「ストーンペーパー」と呼ばれる、石を原料とした紙の代替素材は存在していたという。ただ、石であるがゆえに重く、厚みが均一ではなく、流通もしていなかったため非常に高価だった。
坂井:弊社は台湾のストーンペーパーの輸入元からスタートしたベンチャー企業です。当時、弊社の社長・山﨑(敦義)がストーンペーパーの存在を知って、「この素材を日本に広めよう」と、日本国内の総販売代理店となるために起業したのがすべてのはじまりです。
会社設立は2011年。当時、ストーンペーパーは世の中にまったく広まっていませんでした。紙と比べてとても高価でしたし、石灰石を主成分としているので比重が重い。おまけに厚みも一定ではなかったため、普及させるには相当改良をしないといけない状態でした。
そんな状況の中でも、日本国内での販売を決めた株式会社TBM。環境問題について、誰よりも危機感を抱いていたことも、事業の拡大を後押しした。
坂井:起業の動機は、純粋に「ストーンペーパーを日本に広めたい」という熱意だったと思います。ですが、お客様から「もっと軽くしてほしい」「均一に、薄くしてほしい」などのご意見をいただいたにも関わらず、いっこうにメーカーでの改良が進む気配がなく……。「ならば、自分たちで開発したらいいじゃないか!」という考えにいたりました。
紙でないものを、紙以上に価値ある素材に
エコロジーの観点からみても、「使わない手はない」と思わせるほどのポテンシャルをもつ「LIMEX」。だが一方で、開発には多くの苦労があった。

黒木重樹:1994年、東京工業大学大学院理工学研究科高分子工学専攻博士課程修了。コロラド州立大学化学科博士研究員、NEDO産業技術研究員などを経て、2008年、東工大有機・高分子工学専攻特任准教授。15年4月より、TBM開発本部にてポリオレフィンと高充填フィラーからなる新材料LIMEXの研究開発に従事
黒木:紙代替品についていえば、最初は純粋に、均一に薄くて軽い素材にすることを目指しました。ただ、紙よりも比重が大きい石を使っているので、そのままだとどうしても重くなってしまう。これを解消するために、かなりの試行錯誤が必要でした。
石灰石とポリオレフィン樹脂の比率や、混ぜるときの条件などによって仕上がりが変わってくるので、何度も何度も試作品をつくりながら、最もよい組み合わせを探っていくという作業をひたすら繰り返しましたね。いまは、ノートに使われるような紙に比べるとまだ少し重いですが、上質紙と呼ばれる厚手の紙とはほぼ同じ重量というぐらいまでに改良は進んでいます。