デザインのチカラ

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何度でもリサイクル可能な新素材が、環境負荷を軽減する―株式会社TBM 坂井宏成×黒木重樹(2)

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何度でもリサイクル可能な新素材が、環境負荷を軽減する―株式会社TBM 坂井宏成×黒木重樹(2)

そもそも、なぜ“石”だったのか――?

2012年頃、同社にて「LIMEX」の原型ができあがるが、依然、課題は山積み。「石なのに紙と同じように扱える使い勝手のよい素材」を目指し、従来のストーンペーパーとはまったく違う“紙代替品”の開発に取り組んだ。

坂井:一般的な紙の製造過程には、大量の木と水が使われます。たとえば紙を1tつくるには、約20本の木と、約100tの水が消費されるんです。森林伐採や水危機リスクは地球規模で問題となっていることからもわかるように、このままではいつか、木と水資源が枯渇してしまうことは明らかです。

石灰石

そんな状況だからこそ、“石”を使うのがいい。どこの国でも普遍的にある資源ですし、将来的にみてもなくなることはまずないでしょう。日本でも約240億tの埋蔵量があり、つねに安価で入手できる、とても安定した素材なんです。

つまり木や水の資源が少ない国や地域でも、自国内で簡単に製造できるようになる。材料を輸入するための輸送費もかからないので、将来的には紙よりも低コストでつくることが可能だという。

黒木:弊社で開発が始まったころのコンセプトも“発展途上国の子どもたちに、本を読んだりノートを使ったりしてもらいたい”というものでした。いまもその志はブレていませんね。だから、世界中に大量に存在し、かつ安価に手に入る石灰石を使うことは、企業にとっても大切なミッションなんです。

素材を加えることなくリサイクルできる、エコロジーな素材

主原料が石。これだけで、原材料は大幅なコストダウンになるが、「安い値段でつくる」ことが、いちばんの目標ではないという。ここが、従来のストーンペーパーとは一線を画すポイントだ。

坂井:以前からストーンペーパーはいろいろなところで開発されていましたが、そのほとんどが「少しでも多くの石を使って、もっと安い製品をつくろう」という方向性だったと思います。でも、弊社が目指しているものは少し違います。もちろん、製品の値段を安くすることもひとつの目的ではありますが、ベースになっている意識は「環境負荷を軽減させる」ことが一番なんです。

消費者の意識も変わってきましたよね。以前は「良いものを安く買う」ことが評価されましたが、いまは「環境に配慮した商品を買う」ことがひとつの判断基準になっています。

株式会社TBM 坂井さん

さらに、「紙やプラスチックに『石灰石80%』、もしくはそれ以上含ませることで、世の中に大きなインパクトを与えることができるはず」と語る坂井さん。では、その衝撃はどのくらいの大きさだったのだろうか。

坂井:たとえば、LIMEXで紙代替品をつくる原料に水は含まれません。加工時にほんの少量使うだけなので、一般的な印刷用紙と比較して、水の使用量はたったの2%まで抑えることができます。98%も水の使用量を減らせるばかりか、同時に、製造過程で生み出される二酸化炭素の量も3%削減できます。さらに、LIMEXのプラスチック代替品であれば、従来のプラスチックにくらべて二酸化炭素の排出量は37%も減らすことができるんです。今後、LIMEX製品の量産化と素材改良が進めば、さらに削減できるはずです。

黒木:弊社の製品は経年変化に強く、リサイクルすれば、半永久的に何度でもそのままの状態で繰り返し使うことができるのも大きな強みです。

リサイクル製品といって真っ先に思いつくのが、再生紙。でも再生紙は、リサイクルするたびに少しずつ新しいパルプを加えていく必要があって、何度も何度も無限に再生し続けることはできません。ですが、LIMEXは何回でも、何の素材を加えることもなく、そのままの状態で成形し直して、再生することができるんですね。この差はかなり大きいと思います。

株式会社TBM 黒木さん

重量との戦いにある程度の目途が立った現在、LIMEX普及に向けて、今後はどのような改良が進められていくのだろうか。

黒木:比重を軽くすることに加えて、いまのいちばんの課題は、ストレスなく印刷できる素材にすること。LIMEXはもともと水をはじく性質を持っているので、そのままの状態だと印刷で使うインクがかなり乗りにくいんです。インクを定着させるには、素材の表面を加工しなければいけないんですよね。

撥水の性質を持つ、LIMEXの紙代替品

撥水の性質を持つ、LIMEXの紙代替品

坂井:もちろん、この加工にも環境にやさしい素材を使うのが大前提。せっかく「安い石」を使って商品価格を抑えているので、この加工にもあまり高価な素材は使いたくない。いくら「環境に良い」といっても、「1枚1万円します」では、誰も使ってくれませんよね。

黒木:そういったことも踏まえて、紙に遜色なく、キレイに印刷するための技術を開発中です。ひと口に印刷といってもいろいろな種類がありますが……印刷会社に依頼してオフセット印刷で大量に刷ることもあるし、家庭や会社にあるプリンターで印刷することもある。まだそれらすべてに対応できているわけではないので、「汎用性をもたせるにはどうしたらいいのか?」と、日々、格闘しているところです。

2010年から本格的に開発をスタートさせ、特許を出願したのが2012年。その後、経済産業省のイノベーション拠点立地推進事業として「先端技術実証・評価整備費等補助金」に採択された。

坂井:宮城県・白石蔵王に第一プラントを建てたのが、2015年2月です。量産というよりはパイロットプラントという役割で、おもに実証・試作を繰り返し行うための工場です。一般向けのLIMEX製品第一弾となる名刺の販売を開始したのが2016年6月ですから、開発スタートから6年ほどかけて商品化にこぎつけたことになります。

第一プラントの様子

今後は量産化を考えていて宮城県多賀城市に国内第二量産プラントを建設予定です。生産量は、第一プラントの5倍となる年間約3万tとなる見込みです。

黒木:そのくらいの量が生産できるようになればコストも一気に下がって、素材の優位性が高まるのではないかなと思っています。

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