「Design for a Better Tomorrow(より良い未来のためのデザイン)」をテーマに、クリエイターの発掘・支援を目的として毎年開催されているLEXUS DESIGN AWARD(以下、LDA)。LDA2021受賞者の阿部憲嗣さんにお話をうかがうインタビュー後編では、受賞作「CY-BO」の社会実装への構想や、デザイナーとしての展望についてお話いただいた。また、記事末ではLDA2022の審査員を務めるサイモン・ハンフリーズさんからの応募者へのメッセージをお届けする。
【インタビュー前編】LEXUS DESIGN AWARDファイナリストに訊く、メンタリングを通して感じたデザイナーとしての成長
社会実装を視野に広がっていく可能性
––かたちの展開パターンはどのように考えていったのでしょうか?
これもメンタリングのアドバイスのおかげで、組み上がるアイテムの種類や可能性が広がりました。ずっと自分でサンプルを組んでいたのですが、「他の人にも組んでみてもらったらいいよ。君が思いつかないかたちができると思うから」と言われて、知り合いのクリエイターたちにお願いしてみたんです。自分では通常の編み方の延長のものしか思いつかなかったんですが、彼らは1つの穴にパーツを何個も差し込んだりしていて、鳥の巣のような卵ケースや立体的なテクスチャーのあるタペストリーのようなもの、または子どもが遊ぶためのおもちゃとして組み合わせたブロックのようなものなど、予想外のかたちがたくさん生まれました。
––素材については、どのようにブラッシュアップされましたか?
はじめはCO2の排出量が木と同じくらいのレベルのポリオレフィン系の発泡素材を使用していましたが、メンタリングの中で、マリアムさんやジョーさんから「これは素材がキーになるから、しっかり考えるべきだ」「土に戻る素材がいいんじゃないか」というアドバイスをいただき、植物性のデンプンからできたプラスチックを使って、土に戻せるようなプラスチックが使用できたらいいなと考えていきました。デンプンからプラスチックがつくれるのであれば、廃棄された野菜からデンプンを取り出すこともできるのではないかという話も出たので、将来実現できるといいなと思っています。
––ほかに印象的なアドバイスはありましたか?
スプツニ子!さんにも、かなり背中を押してもらいましたね。作品をみて、「手で編むのは大変でしょ。自動で編めないとダメじゃない?」と言われて、自分でも薄々感じていたんですが……。これが自動化できたら、オンラインショップや配送業者などに売り込めるし、社会に実装できるよねと。そこで「(自動で編める機械を)設計しちゃいなよ」と言われて、正直とんでもない無茶振りをされたなと思ったのですが(笑)、やるしかないなと。
そこから大学や設計会社さんにメールを送りまくったところ、1社だけ返信をくれて、協力してくれたんです。携帯電話の部品などの自動化機械をつくっている会社なのですが、「楽しそうだからやってあげるよ」と言ってくれて。
また、最初はレンタルスペースみたいなところでレーザーカッターを使って1個1個カットしていたのですが、量産を勧めてもらったことをきっかけに、発注することにしました。これまで個人制作では、多方面に発注することはしたことがなかったのですが、LDAでは資金をしっかりとサポートしていただけるので制作の幅も広がりますし、たくさんの人を巻き込んだコラボレーションが実現することで、自分のチャレンジの幅が格段に広がって、この経験は自信にもつながりましたね。
––今後この作品が社会の中で実装されたときのイメージはありますか?
これが大手の配送業者から個人の手に渡ることで、荷物を送る時などに再利用されることを目指しています。梱包材は、実際に使用する頻度も人によってまちまちですし、東京は部屋が狭いから置き場に困るので、再利用されずに捨てられてしまうことも多いですが、「CY-BO」ならほかの道具にもなるし、おもちゃとしても楽しめるので、いざ荷物を梱包して出すまでの間の期間でも使うことができるということを想定していました。
今後は、これが配送システムの中で循環していき、配送業者に戻るためのシステムも考えることで、捨てられる梱包材をゼロにできる仕組みがつくれるといいなと思います。
自然からもらったものを還せるような美しいものづくりを
––LDAでは、「Anticipate 予見する」「Innovate 革新をもたらす」「Captivate 魅了する」という審査基準が設定されています。これらのテーマに対してどのように向き合いましたか?
「CY-BO」はアワードのためにデザインしたものではなかったので、応募に向けてテーマに合わせていくというよりは、自分の作品がLDAのテーマに対して、どのように捉えていただけるのかと、挑戦するような気持ちで応募しました。この作品の可能性を活かすためにはどのコンペに応募するのがいいだろうと考えた時に、受賞作品のラインアップが幅広いLDAのことが浮かんだんです。
この3つのテーマに関しては、メンタリングのプロセスでより意識してブラッシュアップに取り組むことができていたと思います。「Anticipate 予見する」に関しては、土に還る素材の使用を検討するプロセスにおいて、現在のプラスチックの廃棄問題と、コロナ禍によって増えているeコマースが、今後公害問題にどのように影響していくのかということを考えたことで深掘りできました。
「Innovate 革新をもたらす」は、自動化のプロセスを考える上での機械の開発において考えることができましたし、「Captivate 魅了する」は、機能性を追求する中での美しいかたちをデザインするというプロセスの中で取り組むことができたと思います。それぞれ、メンタリングを受けていく中で輪郭が徐々にはっきりしていった感覚がありましたね。
––「Design for a Better Tomorrow」というLDAのテーマについてはどのように考えていますか?
デザイナーに限らず、全人類が社会を良くしたい、自分の明日の暮らしを良くしたいという考えを持っているだろうし、それに取り組んでいると思っています。そんな中で、デザイナーができることってなんだろうって考えた時に、直面している問題の解決策を押し付けるんじゃなくて、「これならやってみたい」「これをすると快適だな」というようなことをデザインの力で提示することで、自然と解決へと導いていくようなものではないかと思います。
それは美しさであったり、自然と「したくなる」と動機づけられるようなモノや心地いいシステムをデザインすることだと思うので、デザイナーとして良い社会や明日を実現できればいいなと感じています。
––受賞を経て、今後の活動や展望についてどう考えていますか?
これからは日本だけでなく、海外へと自分の作品を発信していけたらいいなと思っています。今回の経験から、日本と海外の反応の違いについて興味が湧きましたし、発信していくことで自分の立ち位置を知りたいという気持ちもあります。
僕はこれまで自然からインスピレーションを得てきましたが、今回の作品のように、環境問題に対して提案ができたことで、自然からもらったものを還せたのかなと感じています。これからもデザインを通してそういうことができたらと思います。
––最後に、応募を検討しているデザイナーへのメッセージをお願いします。
僕と同じようにインハウスデザイナーとして働いている方にとっては、こういったアワードにチャレンジすることは、仕事とは別の筋肉を使うような体験になるので、普段の仕事の範囲に囚われない発想が培われる気がしています。本業の刺激にもなると思いますし、デザインの振り幅も増えるのではないかと思います。
LDAはとにかく懐が広いので、まずはあまり考えすぎずに応募してみていいと思います。たとえ自信がなかったとしても、自分でも気づかなかった作品の魅力を見つけ出してくれるかもしれません。それが、LDAの魅力だと思います。
応募者へのメッセージ:サイモン・ハンフリーズさん(LEXUS DESIGN AWARD 2022 審査員)
LDAの最大の魅力は、応募者の方々にとって、自分のデザインを広く世界に知ってもらう機会になることだと考えています。年齢や国籍、プロや学生を問わず、世界中の応募者にとって平等にチャンスがあるLDAが、さまざまなチャレンジを続ける次世代のクリエイターたちが世界へと発信していくことをサポートしていきたいと思っています。
前例のない環境の変化が起きている現在の状況において、デザイナーが果たすべき役割はさらに重要になってきています。人々はより良いライフスタイルのための答えを求めており、このような状況を乗り越えていくためには、さまざまな領域においてクリエイティビティが発揮されることが必要です。
LEXUSが展開しているモビリティ領域においても、物理的な移動というソリューションだけでは不十分な時代です。未来へと進むために、従来の既成概念を超えた発想が必要だと感じています。
デザインは 人々を幸せにする力を持っています。それはさまざまなかたちで人や社会、そして世界へと拡がっていくものです。私たちデザイナーの役割は、問題を解決するための答えを提示し、新しいアイデアを創出することではないでしょうか。LDAを通して、クリエイティビティ溢れるたくさんのアイデアに出会うことを期待しています。
LEXUS DESIGN AWARD 2022
募集テーマ:Design for a Better Tomorrow(より良い未来のためのデザイン)
入賞:ファイナリスト6組、うちグランプリ1組
入賞者賞典:
・様々な分野で活躍するメンターとのメンターシップ制度
・キャリアアップのサポートとなる、グローバルメディアでの露出
・プロトタイプ制作費の支援(最大300万円)
・4名の審査員との面談機会
※賞典の内容や開催場所は変更になる可能性があります。
審査員:
パオラ・アントネッリ(ニューヨーク近代美術館 (MoMA)建築・デザイン部門シニア・キュレーター)
アナパマ・クンドゥ(建築家/アナパマ・クンドゥ・アーキテクツ創設者)
ブルース・マウ(Co-Founder & CEO, Massive Change Network)
サイモン・ハンフリーズ(Head of Toyota & Lexus Global Design)
審査基準:
・アイデアがいかに人々に幸せをもたらすか
・下記の基本原則をいかに具現化しているか
– Anticipate(予見する)
コンセプトやデザインがよりよい未来の社会のために取り組むべき世界的課題を予見するものであるか
– Innovate(革新をもたらす)
新規性と独創性を有しているか
– Captivate(魅了する)
コンセプトならびに作品としてのアウトプットが 人々の興味をかきたて、心をつかむものであるか
応募締切:2021年10月11日(月)AM6:59
文:高野瞳 写真:西田香織 取材・編集:堀合俊博(JDN)
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