LEXUS DESIGN AWARDファイナリストに訊く、メンタリングを通して感じたデザイナーとしての成長

LEXUS DESIGN AWARD インタビュー(前編)

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LEXUS DESIGN AWARDファイナリストに訊く、メンタリングを通して感じたデザイナーとしての成長

「Design for a Better Tomorrow(より良い未来のためのデザイン)」をテーマに、クリエイターの発掘・支援を目的として毎年開催されているLEXUS DESIGN AWARD(以下、LDA)。9回目の開催となったLDA2021では、世界66カ国・地域から2,079作品が集まった。

同アワードは、選出された6組のファイナリストが、世界的に活躍する4名のクリエイターによるメンタリングを受けることができ、作品のブラッシュアップを実施した上で最終審査に臨むことができるのが大きな特徴だ。受賞者である阿部憲嗣さんに、メンタリングで得た貴重な経験についてお話をうかがった。

また、インタビュー後編ではLDA2022の審査員を務めるサイモン・ハンフリーズさんに、アワード開催に向けての想いや、応募者へのメッセージをお話いただいた。

【インタビュー後編】LEXUS DESIGN AWARD審査員が語る、変化の時代におけるデザインの可能性とデザイナーへの期待

自然や生物から着想を得た受賞作「CY-BO」

―これまでの経歴と現在のおもな活動について教えてください。

国内企業でプロダクトデザイン業務に従事しています。同時に個人でのデザイン活動もしていて、自主制作でつくりたいものをかたちにして、コンペに応募したり、展示に参加したりしています。

<strong>阿部憲嗣</strong> 多摩美術大学多摩美術大学でプロダクトデザインを専攻し、2013年に卒業。東京を拠点に活動するプロダクトデザイナー。映像製品のデザインの仕事を行うかたわら、個人的なデザイン活動も展開。海洋生物を中心に生物の観察や、生態を調べる事に興味関心を持つ。<a href="https://kenjiabe.com/">https://kenjiabe.com/</a>

阿部憲嗣 多摩美術大学多摩美術大学でプロダクトデザインを専攻し、2013年に卒業。東京を拠点に活動するプロダクトデザイナー。映像製品のデザインの仕事を行うかたわら、個人的なデザイン活動も展開。海洋生物を中心に生物の観察や、生態を調べる事に興味関心を持つ。https://kenjiabe.com/

―LDAに応募したきっかけを教えてください。

第1回受賞者の五十嵐瞳さんが大学の同級生で、彼女の受賞を通してアワードを知ったのが最初のきっかけでした。受賞者の方々にはすでに活躍している方も多いですし、受賞をきっかけにさらに活躍する方も多いので、いつか自分も応募したいとは思っていて、今回ついに初めて挑戦しました。

―LDAに対してどのような印象がありましたか?

ほかのコンペでは、アイデアや作品の魅力がもちろん大事ではあるものの、製品化に向けた実現性が重視されているように感じていたのですが、LDAは、いますぐ商品にならなくても、将来性を評価してくれるのではという期待がありました。今回受賞した「CY-BO」も、なかなかすぐに商品にならないアイデアだと思っていたんですが、LDAなら評価してくれるのではないかと。

LEXUS DESIGN AWARD 2021 入賞作品「CY-BO」

LEXUS DESIGN AWARD 2021 入賞作品「CY-BO」

―受賞作品「CY-BO」は、小さなピースを組み上げることで、さまざまかたちをつくることができ、再利用可能な梱包材のアイデアですが、どのように生まれたのでしょうか?

最初にアイデアが浮かんだのは数年前で、応募する2年前くらいに個人制作として改めてつくった作品です。アイデアを温めている期間は長かったですね。

もともと自然や生物が好きで、デザインにおいても、生き物の生態やかたち、進化の過程などからインスピレーションをもらうことが多いです。最初のアイデアは、ひとつのパーツが増えていくことで、いろいろな形状に進化していくというものでした。細胞は、単細胞から始まって多細胞へと進化することで、さまざまな生物になりますよね。人間の体も、最初は1個の細胞だったのものが、どんどんと細胞分裂していくことで手足や肝臓といったそれぞれの器官に分化する。そういった、ひとつの細胞のような小さな単位から、いろいろなものへと変化していく道具がつくれないかなというアイデアが起点となっています。

―具体的なデザインのプロセスについて教えてください。

具体的なかたちを考えながら、同時に生き物がどうやって「くっつく」のかをリサーチしました。くっつき虫やコバンザメ、タコの吸盤などは、さまざまな方法でものや他の生物とくっついたり、離れたりしているんです。たとえば、ヤモリの手足は極細の毛によって凹凸のない壁にくっつくことができます。これは「ファンデルワース力」(分子間で働く引力)と呼ばれる現象です。コバンザメの場合は、頭にある小判型の吸盤によって大きな生き物にピタッとくっついていて、相手が泳いでコバンザメが後ろに引っ張られることで、吸盤内の水圧が小さくなり、更に強く吸着するそうなんです。

リサーチに際して描き溜めていったという阿部さんのドローイング

リサーチに際して描き溜めていったという阿部さんのドローイング

そのような、生物の「くっつく」構造が何かに使えないかなと、あらゆる生物をリサーチしていく中で、先端をドーナツ状にすれば、別のピースの先端をその穴に入れることで、組み合わせやすく、同時に離れやすい構造がつくれるのではないかと考えました。これはオナモミなどのいわゆるくっつき虫にヒントを得ました。その後、厚さやバランスなどを研究して試行錯誤した結果、応募時のデザインに辿り着きました。

「この作品は無限の可能性を秘めている」

––LDAでは、ファイナリストに対してメンタリングが実施されますが、実際に受けてみていかがでしたか?

メンタリングを受ける中で、感動したことがたくさんありました。全体を通して印象的だったのは、作品に対して減点法ではなく、どこが魅力の軸なのか、ここからどう良くすることができるかを一緒に考えていただけて、ブラッシュアップに取り組むための自信を持つことができたことです。

これまでも、この作品を他の方に見てもらったことがあったのですが、「いろいろなものに変化するけれど、結局なにがしたいのかわからない」「耐久性に問題がある」などと、ダメ出しをされることが多くて。でも、最初のメンタリングセッションで、マリアム・カマラさんやジョー・ドーセットさんに「この作品は無限の使い道と再利用の可能性を秘めている。それがこの作品のもっとも大きな価値だ」と言ってもらえて、救われる思いがしました。

他にも、地球規模の視点で考えた上でのアドバイスをいただいたりして、視点を変えることで捉え方やアイデアの可能性が変わるんだなと希望が持てましたね。良いと言ってくれる人に巡り合うことで、次に進められるんだなと感じました。

––アドバイスを受けて具体的にどのようにブラッシュアップされたのかをお聞かせください。

かたちに関してはかなりブラッシュアップしました。いまは間違いなくこれがいいと思っているのですが、応募する以前に試行錯誤して完成させたものだったので、かたちを変えることに実は抵抗があったんです。「CY-BO」では、社会課題の解決がテーマにありつつ、自分の中での審美性によってかたちを考えていきたい気持ちが強かったので、かたちを変えることによってそれが崩れてしまうことが怖かったんだと思います。

メンタリングにて、機能性や効率性と、自分が思っている美しさはどちらを優先すべきなのか相談してみると、「間違いなく機能。機能を突き詰めたら、結果的に美しくなるんだよ」とおっしゃっていただけて。いま考えればデザイナーとして当たり前のことだと思うんですが、アドバイスをいただけたことで、ブラッシュアップしていく上での迷いもなくなりました。

試行錯誤の中で検討されたかたちのバリエーション

試行錯誤の中で検討されたかたちのバリエーション

メンタリングを通して生まれたスペシャルパーツ

メンタリングを通して生まれたスペシャルパーツ

––デザインはどのように変化したのでしょうか?

最初は1種類のかたちから組み上げていくことにこだわっていたのですが、サビーヌ・マルセリスさんから、「可能性をもっと広げるためには、スペシャルパーツが必要。小さいものの組み合わせだけではなくて、もっと別の可能性もあるんじゃないか」と提案してもらい、パーツの種類と展開パターンが応募時より格段に増えました。

最終的なピースは4種類で、プラスでスペシャルパーツをつくりました。五角形のピースは、サッカーボウルが六角形のピースに五角形のピースが加わることによってできているのと同じ原理で、球体をつくる時に役立ちます。大きなピースは、カーテンやパーテンションといった大きいものをつくる時に組み立てやすいですし、バッグのかたちにするときに底として使えます。長いパーツはハンドルなどをつくるために使えるパーツで、どれも展開の種類を拡張させるためのスペシャルパーツです。

「CY-BO」

インタビュー後編:LEXUS DESIGN AWARD審査員が語る、変化の時代におけるデザインの可能性とデザイナーへの期待