身近なアイデアが、世界に広がる新たな可能性へ – レクサスデザインアワード受賞者インタビュー(2)

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身近なアイデアが、世界に広がる新たな可能性へ – レクサスデザインアワード受賞者インタビュー(2)

常に広い視野を持つことを教えてくれた、
メンターのマックス・ラムとのやりとり

前谷:アワードに応募後、メンターとプロトタイプ制作を行う4組に選ばれた時はとてもうれしかったです。その後すぐに僕たちのメンターである、マックス・ラムさんとメンタリングセッションを行いました。最初のセッション以外はスカイプを使って、コンスタントにこちらの進捗状況を報告するというやり方です。進行具合の報告を終えると、ラムさんはすぐに「じゃあこれはできるのか」と新たなアドバイスや指摘をくれます。それについてまた3人で実験を進め、次のミーティングまでに報告できるようにする。その積み重ねによって、プロトタイプを完成させていきました。

メンタリングセッション中のAMAMの3人と、メンターのマックス・ラム氏

メンタリングセッション中のAMAMの3人と、メンターのマックス・ラム氏

荒木:ラムさんの指摘は常に的を射ていたので、勉強になりましたね。常に広い視野を持つことを示唆してくれたんです。ある時受けたアドバイスですが、「たとえ寒天をごくわずかしか使っていなくても、寒天の働きがその作品の鍵となるのであれば、寒天だけを用いることにこだわらず、 他の素材と混ぜ合わせる実験もしてみるように」と言われました。それが転機となり、寒天の原料であるテングサの残りかすも利用する発想の後押しになったんです。

村岡:寒天作りで必要なのは紅藻から抽出した液だけなので、紅藻自体は煮出し終わるとゴミとして破棄しなければいけません。でも、僕らは実際のお店における紅藻の廃棄量がどのくらいなのか知りませんでした。そこで、寒天を扱う和菓子屋さんに話を聞いてみたところ、なんと1日だけで約54kgも発生するということ。これには本当に驚きました。現状として一部を畑の肥料にしているそうですが、さすがに全部は使いきれない。残りは処理費を払い、ただのゴミとして捨てているそうです。これもゴミ問題の一つ。このことを知って、すぐにテングサのかすを利用したプロトタイプの制作もスタートさせました。

煮出した液だけでなく、テングサの残りかすも使用したタイプの梱包資材

煮出した液だけでなく、テングサの残りかすも使用したタイプの梱包資材

荒木:プロトタイプの完成後、梱包資材としての実用性を検証するために、グラスボトルを収めた寒天製のパッケージを東京から展示会場となるミラノに空輸しましたが特に問題ありませんでした。発泡スチロールをイメージしてもらえると分かりやすいのですが、寒天の梱包資材も同じような構造なんです。内部にたくさんの穴が空いているので、効果的に衝撃を吸収してくれるんですね。

実際に空輸した際の様子。外の容器も中のクッション材も、すべて寒天でできている

実際に空輸した際の様子。外の容器も中のクッション材も、すべて寒天でできている

村岡:ほかにも、花束のようにできたり、ワインを包んだりできるような紙状の梱包資材もあります。いろいろなものに合わせて使用できるよう、バリエーション豊かに展開していきました。

ワインや花を包むのに使えるような紙状だったり、何かを入れておく容器の状態のものもある

ワインや花を包むのに使えるような紙状だったり、何かを入れておく容器の状態のものもある

「LEXUS DESIGN AWARD」を振り返って

村岡:荒木はフリーランスですが、僕と前谷は企業に勤めるインハウスデザイナーです。僕の場合、普段の業務とは次元の異なるチャレンジができました。おかげでデザイナーとしての視野が広がりましたし、通常の業務でも活かせるようにがんばらなきゃと身が引き締まります。

前谷:僕は電化製品のデザイナーなんですが、仕事では大量のプラスチックを使うんです。いくらかは再生プラスチックを使いますが、全部とはいきません。まさしく今回アワードで取り組んだことと直結してくる問題です。簡単にはいきませんが、本業のほうにも繋げていきたいなって思いますね。

荒木:グランプリをいただいた後、国内外のさまざまなメディアから連絡をいただけるようになりました。情報の掲載だけでなく実際に見てもらえる機会も増えてきているので、とてもうれしいです。これもアワードの効果なんだなぁと感じています。

授賞式での様子、メンターのマックス・ラム氏も一緒に受賞を祝った

授賞式での様子、メンターのマックス・ラム氏も一緒に受賞を祝った

僕たちAMAMの今後ですが、「寒天からつくられた梱包資材」をこの先さらに発展させていくために、さらなる実験データの収集が必要になってきます。ただ、個人レベルでの制作なのでデータ収集にも限界があり、品質を向上させるにはより環境を整えていかないといけません。新たな制作の依頼もいただいているものの、いまはまだすべて手作りでお応えしている状況です。

前谷:最終的には、なんとか製品化を目指したいですね。そのためにも、どうすれば寒天を工業素材として運用していけるのかが、当面の大きな課題です。

誰にでもアワードにチャレンジする道はある

前谷:アワードの応募には多少なりとも英語を話せることが必要になってくるので、人によっては躊躇するかもしれません。でも、「これはいいぞ」というアイデアを持っているとしたら、恐れずに挑戦してみるべきだと思います。それくらいアワードで得られるものは大きいです。英語が堪能でないという理由で応募を踏み止まってしまうのはもったいない。たとえば、応募するだけなら通訳に任せるとか、外部の力を借りることもありだと思います。

荒木:ただ、メンターとのやりとりもそうですが、受賞すると海外からもインタビューや仕事の依頼を受けるようになります。ゆくゆくは海外でも活動したいと考えるなら、アワードは英語を学ぶいいきっかけだと思って、少しずつ勉強してみるのもいいかもしれません。

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真剣に語りながらも、時に楽しそうな様子を見せる荒木さん、前谷さん、村岡さん。その話や考え方はデザイナーというよりも、もはや研究者のようだった。「Anticipation(予見)」という制作テーマからスタートし、いまや大きく形になりはじめた「寒天からつくられた梱包資材」。上手くいけばひとつの環境問題の解決策となるかもしれない。新たな可能性を感じさせるAMAMのプロジェクトの、さらなる発展を期待しよう。また、AMAMに続く若手デザイナーを発掘する「LEXUS DESIGN AWARD 2017」の募集も、現在受付け中だ。

■LEXUS DESIGN AWARD 2017
募集期間:2016年8月10日(水)〜10月16日(日)
募集テーマ:YET(二律双生)
公式サイト:http://www.lexus-int.com/jp/lexus-design/lexus-design-award/

取材場所:INTERSECT BY LEXUS – TOKYO http://www.lexus-int.com/jp/intersect/tokyo/
インタビュー:小松原康江/青山竜也(株式会社フレア)
撮影:丸山尚(有限会社アーネスト)

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