フルCGアニメーションの限界に挑戦!TVアニメ『宝石の国』スタッフが語る、かつてない意欲作ができ上がるまで(1)

フルCGアニメーションの限界に挑戦!TVアニメ『宝石の国』スタッフが語る、かつてない意欲作ができ上がるまで(1)

アニメーションの制作現場といえば、セル画に手描きをするスタジオの風景を思い起す方が多いかも知れない。しかし近年はCGアニメーションの技術が格段に進化し、セル画とのハイブリット作品だけでなく、本編すべてがCGで制作された作品も増えている。わかりやすいところでは、映画『トイ・ストーリー』を世に出したスタジオ、ピクサーが先駆者として有名だ。そこからの進化は国内にも影響を与えている。

今回取材をしたのは、アニメーションに特化したCG制作を行う有限会社オレンジ。市川春子の人気マンガを原作にしたTVアニメ『宝石の国』は、日本アニメ界のCGを牽引してきた井野元英二さん率いるオレンジにとって、かつてないほど大きなプロジェクトとなった。社内の制作現場は、パソコンがずらりと並び、アナログ機材はほぼ見当たらない。取材時は残り3話分の公開を控えたタイミングで、スタッフはディスプレイに向かってモデリングツールなどを操作し、黙々と作業をしている。まさに現代ならではの光景だ。

この『宝石の国』は、CGならではの特性を活かした作品として、アニメ業界だけでなくCGクリエイターも巻き込み、2017年の話題作となった。まずはプロモーション動画をYoutube側の解像度の設定を1080pにしたうえで観賞してほしい。実際の宝石の質感を模した主人公たちのきめ細かな髪質など、他にはない視覚体験に挑戦していることがわかるはずだ。

そこで、このCG表現での創造性の限界に挑んだ4名に集まってもらった。オレンジ代表でCGチーフディレクターの井野元英二さん、同じくオレンジの制作プロデューサーの和氣澄賢さん、東宝の製作プロデューサーの武井克弘さん。そしてオープニングアニメーション企画・制作を担当した面白法人カヤックのクリエイティブ・ディレクターの天野清之さん。彼らに制作に至るまでの過程から作品への想いを伺った。

有限会社オレンジ代表 井野元英二さん

有限会社オレンジ代表 井野元英二さん

異色作を全編フルCGでのアニメ化に挑戦

――まずは、『宝石の国』がアニメ化に至った経緯から教えてください

武井克弘さん(以下、東宝・武井):原作者である市川春子さんの短編集がもともと好きなので、『月刊アフタヌーン』2012年12月号の連載開始時から読んでいました。当初アニメ化は難しいかなと思いつつ、読み進めるうちに少年漫画的な要素を意図的に差し込んでいることを推測しました。講談社さんに話を伺いに行くと、担当編集さんも同じことを仰っていて。

世界観の説明が難しい作品でしたが、出資社さんにプレゼンする際などは、「フォスの成長(努力)」「シンシャとの友情」「月人とのバトル(勝利)」という少年漫画の醍醐味を押し出して、エンターテインメントとして成立するんだということを強調していました。

東宝株式会社 武井克弘さん

東宝株式会社 武井克弘さん

――そこからオレンジと一緒に仕事をするようになる経緯は?

東宝・武井:弊社映像事業部内にアニメ事業室(現・映像企画室)ができたばかりのTOHO animationによる、こけら落とし作品が2013年の4月から放送した『銀河機攻隊 マジェスティックプリンス』でした。作画パートを動画工房さん、CGパートをオレンジさんが制作したハイブリットの作品で、その頃からオレンジの技術力は知っていて。放送終了後、井野元社長が「もっとやりたいことがある」と仰っていたことが、今回のきっかけです。

――やりたいことの目標が、結果的にフルCGになったんですね。

東宝・武井:やりたい内容(原作の漫画)とやりたい表現(CGアニメという形式)、両方の道筋から考えていて、あるとき自分の中でふたつが合流した感じでしょうか。「宝石の国」という素晴らしい漫画をたくさんの方に知ってもらいたい、そのためにどういうかたちでアニメ化すれば、最も原作の良さを引き出せるのか、ということをずっと考えていました。2Dアニメで、原作のグラフィカルな魅力を追求するやり方もあったと思うんです。ただ、望むと望まざるにかかわらず、その方向は難しくなってしまって。どのみちCGの必要性は感じていましたし、フルCGでやってみてはどうかという意見もありましたが、実際に「フルCGで行こう!」と思い切るまでには時間がかかりました。ずっとフルCGアニメはやりたいと思っていたのですが、4年前はCGがなかなかテレビアニメで商業に乗りづらい段階でした。当初、オレンジさんは下請けのスタジオで、アニメ全体の進行を管理する制作さんが1人もいなかったんです。そこで和氣さんに制作を手伝ってくださる方を探していることを相談をしたら、なんとご本人にやってもらえることになりました。

――制作プロデューサーの和氣さんは、もともとどういったお仕事をされていましたか?

和氣澄賢さん(以下、オレンジ・和氣):最初はマッドハウスという制作会社でテレビシリーズの制作進行や制作デスクを4年半やっていて。プロデューサーの齋藤(優一郎)が独立したスタジオ地図に一緒に着いて行って『おおかみこどもの雨と雪』と『バケモノの子』を担当しました。それが落ち着いた時期にお話をいただいて。2016年4月からオレンジの社員になりました。

有限会社オレンジ 和氣澄賢さん

有限会社オレンジ 和氣澄賢さん

――最初はどういった作業からはじめられたんですか?

オレンジ・和氣:最初は監督の京極尚彦さんと相談しながら、スタッフィング、ビジュアルやアニメーションの方向性などの設定を決めました。1番大きい問題は、自分がCGを手掛けた経験がないことです。そこで、CGでの制作方法や見栄えの良さを、監督や武井さんと相談しながら経験者に声をかけていきました。

ただ、CGの制作フローが決まっていませんでした。作画のアニメは制作フローが確立されているので、動画の仕上げ、美術など依頼できる外注の会社が明確です。まだそれがCGでは確立されていなかったので、みんなで1年くらい模索しました……(笑)。実はCGならではのつくり方を、CGアニメーション制作会社さんなどに勉強させてもらったんですよ。CGアニメーターに任せてつくると演出の意図が伝わらない場合があるので、ほかのスタジオではどう演出の意図を伝える工程を踏んでいるのか、最終的なビジュアルをつくるためにはどの段階で絵をつくっていくのかなど、つくり手の指針が知りたかったんです。

――他の会社に教えてもらえるんですか(笑)!

東宝・武井:アニメ業界は、そういった相互扶助的な文化があるんです。人材も紹介しあうし、いつかどこかで自分も助けられるという思いがあって。それとCGアニメがもっと増えたらいいと、CG制作会社さんみんなが思っていることもありますね。

――では、CGチーフディレクターの井野元さんが担当されたことを教えてください。

井野元英二さん(以下、オレンジ・井野元):私はかんたんにいうとなんでも屋ですね。各話ごとにディレクターを立てて指示を出したり、モーションキャプチャーを自分で撮って修正したり。作品全体のクオリティを保ち、そこからさらに持ち上げる役です。脚本周りはすべて和氣に任せて、私自身は絵づくり全般です。

――今回、どのような点に苦労されましたか?

オレンジ・井野元:フルCGで作品をつくることは弊社として初の試みでした。いままでは他社の戦闘パートを制作して、1話あたり300カットのうちの100カット程度を手がけていました。ただ、今回は1話丸ごとで約280でカット。それを全12話を手がけるのは弊社としてはかつてないボリュームでしたね。

それをどうフルCGで制作するか知恵を絞って、従来のやり方では不可能というところからスタートしてます。社内環境を整備して、スタッフの人数を増やしたり、あとは今回モーションキャプチャを使っているのもその一環です。いかに効率化をしてクオリティを上げていくかという作業ですね。予算には限りがありますから、スタッフ増員だけでなくソフトウェアの開発含めて数年前から動いてます。キャラクターの表情周りは、従来の手作業では間に合わないので、多少半自動化できるソフトウェアをいくつか開発しました。

――表情がすごく豊かですよね。

オレンジ・井野元:せっかくつくるならばCGでしかできない、CGならではの作品をつくりたいと思っていました。私は昔のアニメが好きで、『AKIRA』などの古き良きアニメは本当よく動いてたんですね。“動き”に魅了されていたので、どうしても動かしたい欲求があって。それがオレンジの作風のような部分があります。当然、難易度は上がりますが常に意識しているところですね。

フルCGアニメの成立条件

――逆に武井さんから作品への注文はありましたか?

東宝・武井:宝石たちの髪を、宝石の質感そのものにしてほしいと伝えたら、井野元さんはすごくのってくださって。いま思うと井野元さんは、当時メインの受注仕事だったロボットアニメ以外もオレンジで制作したい想いがあって、今回みたいな提案が嬉しかったのかなと。

――オレンジとして新しいチャレンジができる機会になったんですね。

東宝・武井:当時の技術レベルにおいて、CGアニメの成立条件はいくつかあると思っていました。CGでは人間そのものを描くのが難しいことと、背景があまり変わらない限定空間だとCGの良さが活きるというのが、その条件です。例えば、ポリゴンピクチュアズさんのつくられたフルCGアニメの『シドニアの騎士』では、登場人物がヒトのようでヒトではなく、舞台は宇宙です。『宝石の国』も、登場するキャラが生身のヒトではなく、舞台も離島で完結しています。それからもうひとつ切り札があって、宝石の体(首から下の体型)は全部同じという原作の設定があったので、体のモデルを使いまわせたんです。その設定を担当編集さんから聞いたときに、今回のCGアニメ化の“勝ち”を確信しました(笑)。

――シーンやキャラクターが違うとアセットをつくらないといけない。そこをCGの利点を生かして流用したんですね。

東宝・武井:かつてアニメにおいて、CGは手描き表現の補助というイメージを持たれていました。人間の柔らかい質感や細かい芝居ができないと思われていたので、メカなどが中心に描かれていたんですが、今回はそこから一歩でも出られたらと目論んでいました。

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© 2017 市川春子・講談社/「宝石の国」製作委員会