毎年春に東京ビッグサイトにて開催される「インテリア ライフスタイル」は、インテリアやプロダクトデザインに関わる企業やメーカー、デザイナー、バイヤーなどが世界中から集う国際見本市として、過去29回開催されている。昨年は26カ国・地域から770社、21,597名のバイヤー/デザイナーが訪れており、デザインの“いま”を知ることができるプラットフォームとして、大きな役割を担い続けてきた。
毎年デザイナーやクリエイターをディレクターに迎え、その年ごとのテーマを表現する特別企画も本見本市の特徴であり、本年度は「Work-Up」をテーマに、SUPPOSE DESIGN OFFICEの谷尻誠氏と吉田愛氏をディレクターに迎えて実施する予定だったが、COVID-19の感染拡大の影響により、残念ながら開催は中止となった。
JDNでは、毎年デザインの最新の流れを感じるための重要な場である同見本市中止を受け、主催であるメッセフランクフルト ジャパン株式会社の統括マネージャーの小泉恵子氏にインタビューを実施。進めていた企画の背景や、予定されていた出展者の紹介、今回のような未曾有の出来事によって問い直される「見本市」のあり方などについてうかがった。
実施予定だった企画展のテーマは「Work-Up」
––今回の中止の決断にいたるまでに、どのような議論がありましたか?
小泉恵子さん(以下、小泉):新型コロナウィルスが認知されてからは、社内だけでなく、関係各所とも何度も話し合いの場を設けました。見本市は出展者にとって大切なビジネスチャンスのひとつなので、安全に開催するための予防対策を社内一丸となって模索してきました。
残念ながら、話し合いの末に今年の「インテリア ライフスタイル」は中止せざるをえませんでしたが、イベントに関わるすべての人々の健康と安全を最優先事項と考えた結果、苦渋の決断でした。現在、秋に開催される姉妹見本市の「IFFT/インテリア ライフスタイル リビング」の開催を控えていますが、安全対策を講じた上で開催に向けての準備を進めています。
––今回の開催テーマは「Work-Up」を予定していたとのことですが、昨年の「IFFT/インテリア ライフスタイル リビング」での「Office-Up」との連続性を感じています。決定した背景と、その理由についてお聞かせください。
小泉:昨年度の秋に開催された「IFFT/インテリア ライフスタイル リビング(以下IFFT)」では、テーマを「Office-Up」として、SUPPOSE DESIGN OFFICEさんに見本市全体および企画のディレクションをお願いしました。
オフィス環境の変化にとどまらず、在宅、シェアオフィス、ワーケーション、カフェなど、世の中の働き方が多様化しています。昨年に引き続き、これからの新しい働き方を実現するための提案をしたいと考え、今回もSUPPOSE DESIGN OFFICEのお二方をディレクターに迎え、「Work-Up」をテーマにした企画の実施を考えていました。
––毎年パリで開催される国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」でも、昨年のテーマは「WORK!」でした。ホームインテリアの業界におけるオフィス空間のデザインへの関心が高まっているのを感じていますが、その時に「ホーム」と「オフィス」の境界線、またはtoCとtoB(コントラクト)領域の変化について、どのように感じていますか?
小泉:一言でいえば「ボーダレス」でしょうか。前述しましたが、世の中の働き方が多様化していく中で、そのひとつである在宅ワークは、今回のコロナ禍を受けてさらに広がっていくと思います。「Stay Home」から「Enjoy Home」といわれるように、いかに快適に、そして楽しく家での時間を過ごすのかといったことから、多くの方がインテリアに目を向けるきっかけになっていると思います。その時、「暮らすこと」と「働くこと」の領域は曖昧になっていくのではと思います。
昨年のIFFTでの特別企画「Office-Up」では、ホームユース向けはもちろんコントラクト市場に向けたビジネスの場を提供するべく、オフィス向け家具を中心に4社/ブランドから企画展示と併せて、これからのオフィス空間の提案を行いました。企画内にとどまらず企画以外の出展ブースでも家具やインテリア雑貨など、在宅ワークの空間提案をする出展者も多くいらっしゃいましたし、今後も「ホーム」と「オフィス」の空間の境界線は曖昧になってくると思います。
「ホーム」と「オフィス」の境界をまたぐ4つのテーマ
—「Work-Up」をテーマにした展示は、どのような内容を予定していましたか?
小泉:上司や同僚と意見を交わしたり、一人で集中してデスクに向かったり、コーヒーを飲みながら少しおしゃべりしたりと、働くシーンは実にさまざまです。その中で、「ENJOY」「FOCUS」「RELAX」「COMMUNICATION」の4つのテーマに切り分け、それぞれのテーマに沿った商材を紹介するのはどうかと考え、ディレクターと相談して決定しました。
「ENJOY」では、仕事が楽しくなるもの、「FOCUS」は集中力や仕事の効率を高めるもの、「RELAX」は仕事の合間にリラックスできるもの、そして「COMMUNICATION」では、コミュニケーションを活発にする家具や空間提案を行うことを考えていました。
これらの商材は働く際に必要なアイテムではありますが、実は暮らしの中でも普段私たちが使っているものが多く、ここでも「ホーム」と「オフィス」のボーダレスを実感しています。
■「Work-Up」エリアの出展者
アイオン株式会社「suuu 超吸水多孔質体シリーズ」
かねみつ漆器店「TOU」
サカエ金襴株式会社「ZAF zen in the life」
株式会社Cozy Plus Incorporate「&COMPLE」
東京西海株式会社「HASAMI PORCELAIN」