海洋ゴミがテーマのインスタレーション「うみのハンモック」―永山祐子が表現するサステナビリティ(2)

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うみのハンモック

一番サスティナブルなものづくりは、愛されるものをつくること。

──建築家のみなさんは、素材の選択をはじめ、考えなければいけない課題がたくさんありますよね。

少し前まで建築家が関わるのは、設計からお渡しまでというケースが多かったのですが、ちょっとずつそのスパンの前後が長くなってきた感じがします。いまもいろんなプロジェクトに携わっていますが、ものによっては依頼を受ける前のコンセプトづくりから関わっていますし、「こういうプロジェクトにしよう」とみんなでゴールを決めてから、「じゃあ、建築はこうしよう」と逆算して建築を考えていくことも多くなっています。

永山祐子

──インスタレーションや建築をつくるうえで、サスティナブルというテーマとどのように向き合っているのでしょうか。

モニュメントやパビリオンは、メッセージ性を打ち出す象徴的なものなので、あえてそうしたテーマを掲げていますが、本質的なサスティナブルってすごく難しいなと、いつも感じます。リサイクルすることで過度なエネルギーがかかることもありますし、実質的なエネルギー消費量を比べたとき、はたしてどちらが正なのかわからなくなることがあります。

そこを見極めながら、最も効率のいい選択をするためにいろんな角度から検証しなくてはいけません。それに究極的には、「大切に使えばいいんじゃない?」とも思ってしまうんですよね。プロダクトでも建築でもそうですが、わざわざ廃材を再利用しなくても、最初からいいデザインで愛着を持ってもらえるものをつくれば、直しながら長く使ってもらえる。それが一番、サスティナブルなんじゃないかとも思います。

──使う側も経年変化を楽しみつつ、いま使っているものを大切にしようという意識が必要ですね。

そうですね。建築の検査でも、日本は「ちょっと傷があるので交換」みたいなことがよくあり、海外の人から細かすぎると言われることがあります。私たちがプロダクトを買うときも、そういうことってありますよね。でも、もうちょっとゆるやかに、すべてが真新しくなきゃいけないという意識を変えて、古びたものの美しさを味わうことができれば、難しく考えなくても、自然にサスティナブルになっていくのかもしれません。

いまは過渡期なので、多くの人に意識してもらうためにもSDGsというストーリーで伝えることは大事なことだと思いますが、将来的にはSDGsという言葉がいらなくなるくらい、そうした意識がスタンダードになっていけばいいなと思っています。

疑問から発想を広げて、新しい視点を提案する

──「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH」は今年で15周年を迎えます。参加されるにあたって、イベントの印象をお聞かせください。

まず15年も続いているところが素晴らしいなと思います。ミッドタウンのさまざまな場所で作品を楽しめるのはもちろん、トークイベントやアワードが連動していたり、周辺にギャラリーやミュージアムも多いので、いろんな入口から入ってこられる、というおもしろさもありますよね。

うみのハンモック

特にミッドタウンは、「21_21 DESIGN SIGHT」や日本デザイン振興会もあり、デザインに特化したエリアというイメージが定着しているので、今年の「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH」もデザインの祭典のひとつとして、東京を楽しい場所にできたらいいなと思っています。

──次世代を担うクリエイターを発掘する「TOKYO MIDTOWN AWARD」も今年で15回目です。永山さんは、昨年からアートコンペの審査員も担当されていますよね。

「TOKYO MIDTOWN AWARD」の審査は今年で2回目ですが本当に難しいですね。最初の書類審査では見えてこなかったのに、「立体になったらめちゃくちゃカッコいい!」というようなことが起きるので、まったく想像がつかないんです。そのギャップが建築と正反対なんですよ。建築のコンペでは、企画書やプレゼンではガシッと決まっているのに、模型になったら「あれ?」みたいなことがよくあるので……(苦笑)。

TOKYO MIDTOWN AWARD 2022

TOKYO MIDTOWN AWARD 2022

あとこのアワードは、入選者には制作補助金が支給されるなど、ほかにはないような充実したサポートがあるのも魅力ですよね。若手が本気で目指しているアワードなので、最終審査ではハイレベルな作品がそろい、審査の現場は白熱した議論になることもあります。

──コンペ作品が、ミッドタウン内に展示されるのも特色ですね。

そうなんです。いま夫と一緒に、空きテナントを活用してアーティストが作品制作をおこなう「ソノ アイダ」というプロジェクトをやっているんですね。このプロジェクトは、都心の一等地にあるオフィス街にアーティストの制作現場をつくり、制作の様子が公開されたりすることで、まちにどんなハレーションが起きるかという実験場にもなっているんです。「TOKYO MIDTOWN AWARD」も、商業施設の中にアートが展示されているだけではなく、アーティストが制作する場所にもなっているところが、画期的だなと思っていて。

ホワイトキューブや大学の展示室と違って、公共の場所で多くの人の目に触れながら制作することは、アーティストにとって、アートが目的でない人にもちゃんと作品を届けられるかという挑戦になる。そうした経験が、その先の未来につながってくれるといいなと思っています。

──永山さんの日常でも、アートは身近な存在なのでしょうか。

自宅にもアートはありますし、アートを飾れる空間にしていきたいとも思っています。家の中でふと目を向けたとき、自分が生きている時間軸や文脈とは全然無関係なものがあることが、私にとってはすごく大事なんです。もしかするとそれは草花など植物にも当てはまるかもしれませんが、自分と違う時間軸を持つものと共存する豊かさが、アートには象徴されているように思います。

──現在もたくさんのプロジェクトを抱えていらっしゃいますが、これからやってみたい建築はありますか?

子育てをしてはじめて気づいたこともあるので、保育園や幼稚園など、子どもの施設はやってみたいなと思います。ただ、基本的にはどんなプロジェクトでもおもしろがってやるほうなんです。これまで手がけてきたものも、住宅もあれば超高層ビルもあり、小さなプロダクトもつくったりと、多岐にわたっていますしね。バリエーションは広く、来たものはなんでも楽しみながらやっています。

「うみのハンモック」に座りながら作品説明をおこなう永山祐子さん

私は建築を考えるとき、疑問から発想していきます。たとえば駅をつくるとしたら、「従来の駅はこうだったけど、なんでこういうふうに決まってるんだろう?」「もうちょっと楽しくならないかな?」と、考えていくのがおもしろくて。はじめてのプロジェクトのほうが疑問に思うことが多いので、考えを深めやすいところがあるのだと思います。

最近では大規模開発のプロジェクトにも参加していますが、そこでも疑問に思ったことを投げかけて、チームに入っていくことが多いです。デベロッパーの方々と私たちのような建築事務所では、ものの見方が少し違うので、いままでと違う問いかけができるのだと思います。組織の中からはなかなか言いにくい、ということもあると思うので、私は「空気を読まない」ことをあえて大切にしていて(笑)。そうしてこれまでのやり方に疑問を投げかけ、新しい視点を提案することが、私の役割だと思っています。

■Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2022
https://www.tokyo-midtown.com/jp/event/designtouch/

永山祐子

文:矢部智子 撮影:井手勇貴 取材・編集:石田織座(JDN)