研究開発拠点(DISC)の設立によって開発機能が加速!デサントが目指すユーザーサティスファクションの先の感動(2)

研究開発拠点(DISC)の設立によって開発機能が加速!デサントが目指すユーザーサティスファクションの先の感動(2)
最適なフィッティングから機能を最大化させる

——アスリートもここに訪れて、自分の身体のデータを客観的に見ることができます。情報をシェアすることによって、得るものと与えられるものがお互いにあると思うのですが、そうした関係性を開発にどのように活用していきたいと考えていますか?

DISCを訪れた際の、Jリーグ・ガンバ大阪 遠藤保仁選手

DISCを訪れた際の、Jリーグ・ガンバ大阪 遠藤保仁選手

DISCのスポーツパフォーマンススタジオで実際におこなう動きをしてもらうことで、商品の開発に生かしている

DISCのスポーツパフォーマンススタジオで実際におこなう動きをしてもらうことで、商品の開発に生かしている

坪内:高性能なウエアがその機能を発揮できる環境というか条件がいくつかあります。実際にオールマイティに機能を発揮できる環境というのは実はあまりないんですけど、その中で最低限必要なことはフィッティングなんです。選手の体にきっちりとフィットするウエアをつくっていくことを昔から目指していますが、実はなかなかこれが難しいんです。

「寸法」ではなくて「形を測る」3Dスキャン技術をどのようにフィッティングに応用していくか。これはトップ選手もそうだし、一般の方に対してもそう。マスパーソナライゼーションというのか、一人一人に個別に合わせてつくるわけではないのですが、計測したデータの全体像から見えてくる、ある程度一般的なシェイプがあるんですよね。それにフィットするものがつくれれば、より多くの人によりフィットするウェアが作れ、そのフィットしたウエアが発揮する機能というのは、いままで以上に効果的じゃないかと思っています。

フィッティングというものに、ウエアをつくるうえでこだわり続ける。そのためのパターン技術であったり、立体裁断であったり、どのポーズに着目して開発するかという視点であったり、あるいは選手とのコミュニケーションであったり……単に技術的なことだけではなく、どう使われるのかを汲み取る。きちんと使用者のニーズを聞き出して、パートナーシップも持って開発をしていくことが大切なんじゃないかと考えています。

渡辺:アスリートともそうですし、一般のお客様もそうなんですけど、信頼性みたいなところだと思うんですね。機能性のエビデンスが必要になったりとか、あるいはこれだけ研究を積み重ねて作られているからというようなことを、ちゃんと伝えて理解してもらう必要がある。単にこんなものを分析してますよ、というだけの話ではなく、つまるところ共感を得られるかという話になると思うんです。

坪内:そこが「デザインの力」なんですよね。フィッティングがものすごく必要な世界と、そうでもない世界があったら、フィッティングがいる世界ではフィッティングのことを「デザイン」と言ってもいいし。もっとラフなシルエットでいい世界では、厳密なフィッティングがいらないわけだから、そういうことよりも別の価値を提供していくことが大切ですよね。

アスリートの声だけでなく、周囲の声も拾っていく

——アスリートとの開発で大事にしていることは?

坪内:トップアスリートはたいていとても真摯。我々の開発を信頼していただいているというスタンスなので、こうしてほしい、ああしてほしいというようなニーズはあまり出てこないです。僕たちがオリンピックに向けたウエアを開発していく中で、チームのマネージャーやコーチの方からの問題提起や要望は非常に重要な情報です。選手を勝たせるためにどうしたらいいかということを一生懸命考えていて、そのためにいろいろな選手の生活環境から、ウエア、身体のケアなどあらゆることを最適化していくことに取り組まれていますから。

——すごく近いところで客観的に見ているからこそ、足りないことも的確にとらえてるんでしょうね。

坪内:そうですね。やっぱりコーチからの一言っていうのは影響力があるからこそ、感覚論だけでものを言わないですからね。僕たちにとっても非常に注意して聞かないといけない情報ですね。

渡辺:私たちの選手との関係性のつくり方は、「多数の方に」ではなくて、「信頼関係を築ける選手たちと深く」という考え方です。選手は単なる広告塔ではなく、一緒にものをつくっていってくれる方、つまり私たちにとってのアドバイザーやアンバサダーみたいな方と契約しているんです。それだから選手のパフォーマンスを引き出すウエアの開発が出来る。そこが他社と違うと自負している点でもあります。

メンタルサティスファクションの先にある感動を目指して

——ちょっと視点が大きい質問になってしまいますが、おふたりにとって「デザイン」という言葉はどういう意味や価値を持っていますか?

坪内:深いですね…(笑)。僕はDISCを建てるとき一番考えたのはそこでした。自分たちが何のために仕事してるのかと考えた先に行き着いたのは、ユーザーの「メンタルサティスファクション」でしょうと。メンタルサティスファクションがあって、その先に感動がある。

メンタルサティスファクションをつくるために機能開発をしている、「いらない機能」はいらないものでしかないので、ちゃんと使う人のことを考えて「いる機能」を汲み上げることが、僕らにとっての「デザイン」ということを指すものという考えに落ち着きました。

ここの施設にはコンセプトがあって、それは「世界一、速いウエアを創る」なんです。「世界一、速いウエア」をつくるために、「デザイン」というフィルターを通して技術開発に力を注ぎ、メンタルサティスファクションにつなげていく、それが皆さんの感動につながったらいいなと。

渡辺:私にとってデザインとは、創業者である石本他家男氏が言ってた話に近い内容で、ずっと僕らも叩き込まれてきたことなんですが、大事にしているのは「機能美」です。それをどこまで追求できるのかという話だと思います。研ぎ澄まされたものからは余計なものはだんだん省かれていく、100メートルを9秒台で走る人の走り方は絶対的に美しい。そういう話と近くて、そぎ落とされた機能的なものは絶対に美しく見えると。そういうことがデザインなんでしょうね。

——ある種の絶対的な美しさに対して、機能が機能としてきちんと成立している状態が感動を呼びますよね。

渡辺:信頼性と創造性、この2つが盛り込まれてないといけないですね。創業時代に最初につくられ、現在は「デサント オルテライン」のコンセプトにもなっている「Form follows function」というコピー、これは長く僕らの心に刻まれてきており、「世界一、速いウエアを創る」というのは、そのコンセプトを実現することと同義やと思うんですよね。

10年後も変わらない姿であるために

——では、最後にDISCの未来の話をうかがえたらと思ってます。

坪内:いま、まさに僕たちがもう一回ビジョンを見据えなおして、「5年後10年後にDISCがどうなっていたいか」というビジョンを描こうとしているところです。いろいろな方向性や、やりたいことがそれぞれのセクションから出てくるんですけど、やっぱりここのメンバーが生き生きと開発できるような職場環境であったり、アウトプットの舞台であったり、そういったことを会社の仕組みとしてつくったうえで、良いものをお客さんに提供し続けたいですね。

メンバーがきゅうきゅうとして仕事をしていると、あまりイノベーティブなものは生まれない。無理をして開発を続けると、「開発のための開発」みたいなことになってしまうので。メンバーが楽しく仕事をできるような出口を見つけて、それをしっかりと形にしていくことですね。それができれば、これだけの舞台があるのでユニークなものは出てくると確信しています。

渡辺:こういう施設をつくるときにものすごいエネルギーをかけてつくって、できあがったら骨抜きみたいになることも往々にしてあるので(笑)、ここからが勝負やと。DISCをつくったときのコンセプトとか思いを絶対忘れないようにして、それをどうやって具現化していくかいう話ですよね。

この建物も、無駄を省いた機能的なものという言い方をしましたが、10年経っても印象ってそんなに変わらないんじゃないかと思うんです。時間が経過すると陳腐化したりするんですが、そういう意味ではシンプルで機能的、本質的な建物で簡単にはすたれない施設が完成したのだと思っています。その上で、最も重要なのはその施設の価値を決める僕たちが5年10年経ったときに陳腐化せず、むしろ活性化されていかないといけないということ。ここからが難しいところで、成果を出して達成感を味わっていく、そしてそれが会社に大きく貢献をしていけることを追求し続けたい。

坪内:僕もこの建物大好きでね。確かに10年経っても同じ印象を感じるんじゃないでしょうか。本当に余計なものがなくて、シンプルで機能的な施設になっています。研究開発拠点としてもユニークでなかなか他にはないのではと思います。自慢になってしまいますね(笑)。

ここの定礎に設立時のR&Dセンターメンバーの名前が全員入ってるんですけど、この建設に関わってくれた竹中工務店さんのメンバーの名前も全員入ってるんですよ。

——そうなんですか!それはあまり聞かない話ですよね。

坪内:こういうことは初めてですって言われました(笑)。でも、単に施主と施工者ではなく、一緒のチームとしてどのような施設をつくっていくかを考え、形にしたわけですし。竣工して一年経ちましたけど、いまでもいろいろと竹中工務店さんとはウエアの話や開発の話など、研究者同士で話をしたりしていて、いいパートナーになれたなあと思ってます。

渡辺:大手の竹中工務店だけど仲間だよね(笑)。でも、竹中工務店さんの中でも、やっぱりDISCは思いのこもった建物のひとつや、言うてはりましたね。

——企業の技術の粋を集積させた場所をつくるって、施工側にとっても熱の入る仕事ですよね。クライアントの意図をちゃんと汲んで、かつ求められていること以上を提案しなくてはならないと思うので。

渡辺:設計する人たちが魂を込めてやっていただいたと思います。我々の服創り、モノ創りも魂込めてお客様が価値を感じてくださる商品を生み出し続けていきます!

撮影:衣笠奈津美  取材・編集:瀬尾陽(JDN)

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