研究開発拠点(DISC)の設立によって開発機能が加速!デサントが目指すユーザーサティスファクションの先の感動(1)

研究開発拠点(DISC)の設立によって開発機能が加速!デサントが目指すユーザーサティスファクションの先の感動(1)

野球、ゴルフ、陸上競技、サッカー、競泳用、アルペンスキーなど、複数のスポーツのウエアブランドを持つ株式会社デサント。“基本に忠実なモノ創り”をという思いを表現するとともに、つねに最も優れたものに目を向け、時代の要求を先取りし、積極的に製品化してきた。企業スローガンに「Design for Sports」を掲げていることからも、「デザイン」の価値と役割を強く意識している企業と言ってまちがいない。

「モノを創る力」、すなわち商品の企画開発力を競争力の源泉として強化に努めてきた同社が、スポーツアパレルの研究開発拠点「DISC(DESCENTE INNOVATION STUDIO COMPLEX)OSAKA」(以下、DISC“ディスク”)を大阪府・茨木市に2018年7月19日に開設した。「世界一、速いウエアを創る」をコンセプトにしたDISCは、どのような構想の元に設立されたのか?また同施設ではどのような研究開発が行われているのか?

DISC開設を推進してきた、R&Dセンター機能開発部部長の坪内敬冶さんとR&Dセンター企画開発部部長の渡辺照三さんにお話をうかがった。

開発機能を1カ所に集約、やりたいことをすぐカタチに

——まずはDISC設立の経緯から教えてください。

企画開発部部長・渡辺照三さん(以下、渡辺):DISCができたのは昨年の7月18日、ちょうど丸1年が過ぎたところです。「デサント」ブランドは創業以来、マーチャンダイジングやデザイン、企画などの機能を、ずっと大阪に置いています。それ以外のブランドは東京オフィスを拠点としていて、今後はこのR&Dセンターで機能的な研究の部分から、製品開発に落とし込むというところを増強していこうと考えています。

R&Dセンター企画開発部部長・渡辺照三さん

機能開発部部長・坪内敬冶さん(以下、坪内):当社は、1964年にデザインセンターを設立し、そこで経験値とかノウハウといった技術的なものは培ってきたのですが、計測や製品試験などのハード的な部分は外部の機関と共同研究で行っており、この施設をつくったことでやっと自分たちで出来ることが広がりました。

——「やっと」ということは、やっぱり社内でのスピード感が研究開発していくうえで重要だったということですか?

坪内:そうですね。自分たちですべて出来るようにすることが目的ではなくて、「自分たちがやりたいことをすぐにカタチにできる」、ということを実現するのがいちばんの目的なんですね。モノ創りの発想やアイデアは、情熱的なことも含めて、止めずにすぐ次のステップに進める、これが非常に大事なんですね。そこで迷いが生じたり、時間がかかって停滞が起こると、熱が冷めてしまうと思うんです。

——実際、みなさんの働き方に変化はありましたか?

坪内:ここに移って来るまでは、毎日同じ席に座って、書類の山に埋もれて……というような働き方をしていました。新しい働き方に自分たちで変えていかなければいけないという中で、本当にいい働き方はどういうものなのか、優先順位をつけて考えていったんですね。それは誰か一人が考えたのではなくて、DISCで働くメンバー全員が入ったプロジェクトでした。たとえば、フリーアドレス制を採り入れようとしたときに、僕はもっと抵抗が出るんかなあと思ったんですけど、意外とスムーズに移行できました。みんながDISCの設立を機に変わろうということを強く意識した、そういうタイミングだったのかなと思います。

R&Dセンター 機能開発部部長・坪内敬冶さん

渡辺:モノ創りの中で、研究開発に携わるメンバーとマーチャンダイザー、デザイナーとの共感とか、情報の共有の質は確実に高まったんじゃないかなと思いますね。これはおそらく、これからの成果物の質にいい影響を与えていきそうな手応えを感じています。

——DISCの大きなコンセプト設計から完成まで、どれぐらいの時間をかけてカタチにしていったんですか?

坪内:最初はまったくゼロの状態。どこに建てるかも決まっていないし、どんな組織にしていくのかというところから全て組み立ててきました。逆にゼロからだったことがいい効果もあり、自分たちは何をすべきかということを絞り込んでいく期間でもありました。自分たちのやりたいことはどういうことなんだろうと。ですから、単に施設のことだけを考えたのではなく、組織としての全体の整合性をとるという仕事を足掛け4年間やってきました。

私たちはこれまでに外部とのネットワークもたくさん構築してきました。それはアスリートや指導者を始め、研究機関やメーカーの研究者など。そういった方たちとのコネクションはこれからも大事にしていきたい。逆に外部のみなさんにしても、DISCだからこそできることがあるので、いいパートナーとして開発の取り組みが進められています。だから、全方位につながっていっている組織としてのR&Dセンターの土台ができたかなと。そういうことを強く意識してつくってきました。

DISC外観

DISC外観

——まず外観からしてワクワクさせる雰囲気があると思いました。デサントらしいソリッドさがあって。働いている人たちにとっても誇らしいのではないかなと。ちなみに建築設計はどこの会社がされているんですか?

渡辺:竹中工務店さんです。周辺の建物はいわゆる普通の建造物なのに、ここだけがちょっと独特な形状なので、まずそこからして何かちょっと違うなって感じがしますよね(笑)。

スポーツパフォーマンススタジオ

スポーツパフォーマンススタジオ

——スポーツの先進性みたいなものも感じるし、デサントが目指している未来みたいなものが建物としても表現されている印象がしました。

坪内:そう言ってもらえて非常にうれしいです。虚飾的な造形物やモニュメントがまったくないんですよ。シンプルで、研ぎ澄まされていて、それでいてかっこいい。そういうデサントらしさが上手く表現できている。設計してくれたメンバーにも、デサントの世界観は相当説明しました。ブランドの世界観や歴史、目指している方向性、シャープさとか潔さとかシンプルさとか……それらをしっかり意識してもらってこの形になったので、やり切ってもらったなと感じています。

パフォーマンスの向上と快適性、2軸で機能を開発

——実際ここでは、どういった種目のウエアを研究開発されているんですか?

坪内:冬季の種目でいうと、スキー全般、スイススキーアルペンチームのレーシングスーツ、ドイツのボブスレーやスケルトン、リュージュのレーシングスーツを開発しています。夏季の種目でいうと、オリンピック用の水着の開発をしていますし、あとスイスや英国のトライアスロンの競技ウエアの開発もしています。

新しいところでいくとフェンシング。プロテクターではなく、その下に着ている白いウエアです。フェンシングのサーベルで突かれても穴が空かないという、ちょっと特殊な防刃の機能が必要なので、そういったウエアの開発もしています。それに追随する形で、各ブランドの事業領域での種目というのがついてきます。

スイススキーアルペンチームへのサプライウェア

スイススキーアルペンチームへのサプライウェア

ブリティッシュトライアスロン Sophie Coldwell選手(2019 ITU世界トライアスロン クオリフィケーションイベント 東京プレ大会) <br />Photo:AFLO SPORT

ブリティッシュトライアスロン Sophie Coldwell選手(2019 ITU世界トライアスロン クオリフィケーションイベント 東京プレ大会)
Photo:AFLO SPORT

渡辺:カナダチームのスケートスーツもやっています。

坪内:そうでしたね。カナダのスケートもありました……どんどん増えていくんです(笑)。

——機能開発部と企画開発部の2つの部署は、それぞれどういう役割を持っているんですか?

坪内:機能開発部は文字通り機能を開発するところに比重を置いています。開発対象にしている機能は、パフォーマンスをあげるという機能と、快適性をあげるという機能、この二軸です。私たちがこだわっているのは、動作を解析したり、実際の人を測ったりなどの、リアリティですね。本当に効果があるのかないのかを見極めるというところにこだわっていて、その発想や着眼点がユニークなことが、デサントらしさにつながっていくと信じてます。

また、開発と同様に、「品質」も非常に大切です。アスリートが着用するレーシングスーツと、一般競技で着用するウエアでは求められる品質には違いがあります。その商品が使用される環境において消費性能や機能性をしっかりと発揮するように、品質のコントロールをしています。最近では商品の安心・安全性への要求が強まっており、それに向けた管理規定の設定運用など商品の付加価値を実現しています。

——職能でいうとどういう方が所属されていますか?

坪内:バイオメカトルニクスとか人間生理学の領域で、経験値と専門知識が相当あるメンバーをそろえています。ただ全員が大学院卒の専門家集団かというと意外とそうでもなく、いろいろな経歴を持っているメンバーが集まってきている。研究開発といっても、白衣を着て試験管を振っているようなイメージではなく(笑)、スピード感とか製品化という出口をしっかりと見る、マーケティング的なセンスを持って仕事をしているイノベーティブな開発者たち。そこがいわゆる研究者とは違うところかなと思います。

——では企画開発部はどのようなミッションがありますか?

渡辺:実際は企画開発部と機能開発部はかなりクロスオーバーして、ボーダレスな形で取り組んでいます。企画開発部の役割は、機能開発部で生み出された機能性に対する新たな考え方や、製品の信頼性を高めるエビデンスに基づき、それらを製品化するためのいわば「レシピ作り」と言えます。

当部のみらい製品開発課は、先進的かつ信頼性の高い製品を創造するためのアイデアを出すチームです。そのアイデアを形にし、型紙作成などを設計する業務を製品開発課が担っています。ブランドマーケティング部隊と一つになり、各ブランドのデザイナーと製品のイメージを共有するということが、企画開発部の重要な任務だと考えています。デザイナーが描くデザイン画を先進的で信頼性の高いウエアに形作っていくという工程をこのDISCの中で完結させることを目指しています。

機能開発部といろんなエビデンスを照らし合わせていきながら、機能性・品質を製品に落とし込むために改良を加えていく、そんな役割ですね。各マーケティング部の商品企画という職能の中に当然デザイナーがおり、加えて社外のパタンナーの力も借りてモノ創りをしているのですが、DISCには社員であるパタンナーが勤務しています。社内にいることにより、各ブランドのデザイナーとタイムリーに意思疎通が図りやすく、イメージも共有しやすい。DISCでは製品化に必要な「モノ創りのレシピ」を生み出すまで一気通貫で担うことができ、自社工場や提携する工場に渡す設計書の作成などは、当部のメンバーが担っています。

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