変えることよりも変えない勇気。意匠を排して機能を追求した「DESCENTE ALLTERRAIN」(1)

変えることよりも変えない勇気。意匠を排して機能を追求した「DESCENTE ALLTERRAIN」(1)
スポーツウェアで知られるデサントが長年培ったノウハウを活かし、2012年に立ち上げたコレクション「DESCENTE ALLTERRAIN(デサントオルテライン)」(以下、オルテライン)。ダウンジャケットやシェルジャケット、Tシャツといったアイテムをそろえるこのコレクションの最大の特徴は、「Form follows function」のコンセプトのもと機能性を追求したソリッドなデザインだ。

一切の無駄を省いた潔さは、どのようにして生まれているのか。オルテラインのデザイナーの山田満さんと、MD兼海外営業の大田晃輝さんにお話をうかがった。

はじまりは、一着のダウンジャケットから

——「オルテライン」の立ち上げのきっかけを教えてください。

山田満さん(以下、山田):僕がデサントに入社したのは1998年、陸上競技やビーチバレーなど、いろいろな競技ウェアのデザインを担当してきました。オルテラインの誕生の起点になったのは、2008年に開発した「水沢ダウン」です。いまでこそ多くの人に着ていただいていますが、もともとはバンクーバーオリンピックで日本代表の選手に着てもらうためにつくったものでした。バンクーバーは雨や雪が多いので、防水性を備え、かつ高機能なものが求められる。売るためというよりは、選手の方にいちばんいいものを提供したいという思いでつくったんです。

デサントBM グローバルクリエイティブディレクター 山田満さん

——その後、水沢ダウンは商品化されるわけですよね?社内で商品化を提案したときの反応はいかがでしたか?

山田:水沢ダウンは、当時僕が担当していた製品の倍以上の価格でしたので、どのような反応が返ってくるか正直不安な気持ちもありました。でも実際に製品をプレゼンした際、予想以上に多くの方が興味を示してくださって。デザイナーとして改めてモノの価値を認めてもらえることの喜びを感じたことを覚えています。

その後、2012年に、水沢ダウンを扱うカテゴリー「オルテライン」を立ち上げました。もちろん、最初からうまくいったわけではありません。スポーツショップなど既存の流通ではなかなか広がりにくく、思うような成果が出せない時期が2~3年続きました。

——そうした難しい状況から、どうやってファンを獲得していったのですか?

山田:大きなきっかけは、アパレル系のブランドやセレクトショップの方が目を留めてくれたことでした。販売の場が、スポーツショップからアパレル店へと広がったんです。すると、スポーツ分野のお客さまとは違うリアクションが返ってきた。ちょうど2008年に社内でプレゼンしたときと同じような、いい反応でした。「これなら勝負できる!」という確信を肌で感じて、水沢ダウン以外にもプロダクトを増やしていくことにしました。

配色を考える工程を簡素化。意匠性よりも機能性を追求

——山田さんは、デザインがもつ役割をどのように捉えていますか?

山田:デザインという言葉は、デサントブランドのなかでもさまざまな解釈があります。オルテラインでは「Form follows function」、つまり「デザインはすべて機能性に従事したものである」というデザインコンセプトを掲げています。目指しているのは、最小の設計で最大の効果を生むこと。僕らはスポーツブランドなので、機能性をはずして考えることはできません。色や装飾の好みは人によって違う。でも、機能性を追求したものは、すべての人が気に入ってくれる可能性があるんです。そこには国境もなくて、海外の人も評価してくれています。

言い換えれば、機能性にフォーカスして追求していくことが、僕にとってはいいデザインを生むための近道でした。つまり、多くの人に評価してもらうためには、意匠性に凝るよりも機能性を追求したほうが早かった。

それまで担当してきたスポーツウェアのデザイン作業では、配色を考えることに多くの時間を費やしていました。でも、オルテラインは意匠性ではなく機能性で評価してもらいたいので、配色を考えるという工程をできるだけ簡素化しています。毎シーズン、カラー展開を4色に絞っているのも、削った時間をディテールや素材の開発などの機能性の追求、検証にあててるからなんです。

——海外のマーケットにはどのようなアプローチをしているのですか?

大田晃輝さん(以下、大田):海外での商談相手は、ほとんどがファッションブランドを買い続けてきたファッションバイヤーです。スポーツウェアのことはよく知らない人が大半なのですが、デサントが80年以上にわたって高機能なスポーツウェアやパフォーマンスウェアをつくってきたという背景と、水沢ダウンから派生してオルテラインが生まれた流れを説明すると、すごく納得してくれるんですよね。デサントだからこそ、こういうウェアをつくることができたという裏付けがあることが、海外の評価につながっているのだと思います。「機能性は否定されない」というのは全世界共通。僕らは、それを信じてものづくりをしていいんだと感じています。

デサントBM グローバルブランディング ビジネスマネジメント&アスレチック 大田晃輝さん

——シーズンごとのラインナップはどのように決めていますか?

山田:毎シーズン、大田からラインナップのたたき台をもらいます。ただ、僕は森視点ではなく木視点というか、ピンポイントで素材やディテールから着想してアイデアを膨らませ、アイテムに落とし込んでいくことが多い。そうやって考えたものと、たたき台を見比べながら「これはハマるな」「もっとこんなのを出そう」という風に組み立てていきます。計画に沿ってというよりは、つくりたいものを自由にラインナップに入れていくというイメージが近いかもしれません。

大田:オルテラインが強みを発揮できる秋冬シーズンは、水沢ダウンを中心にして、そこからシェルジャケットとか、ジャケットの中に着られるような保温性が高いシャツ、それからパンツと、補完していくように決めていくことが多いですね。デザイナーとMDの関係性はブランドによっていろいろあると思うのですが、新しいものをどんどん出していくために、僕はデザイナーのアイデアを最大限に尊重しています。それを自分が考えているラインナップにうまく組み合わせて編集していく。そんなふうにしてラインナップをつくっています。

——オルテラインでは、新しい素材も積極的に使われていますよね?

山田:挑戦的な商品をつくったり、おもしろい素材を使ったりしていると、メーカーから自然に情報が集まってくるんです。たぶん、「自分たちも新しいことやおもしろいことをやりたいけど、実績のないものを売り込むのは難しい」と思っている素材メーカーは多くて、でもオルテラインなら使ってくれそうだと考えるのかもしれません。僕らは、やりたいと思ったことにはすぐに着手したい。時間をかけると古くなってしまうし、ほかに先を越されるかもしれないので。だから、ぜひうちを実験台にしてほしいです(笑)。

変えることよりも変えないことの勇気

——コンセプトや考え方の部分で、立ち上げ時から変わったこと、逆に変わらないことは?

山田:オルテラインには「Form follows function」という大きなコンセプトはありますが、実はシーズンテーマはありません。やりたいことはずっと機能性の追求だけなので、ほかにテーマをプラスする必要がないんです。そこは立ち上げ時から変わっていません。

デザイナーは本来、変えていくこと、新しいものを出していくことが仕事なので、変えないのは怖いことでもあるんです。でもあるとき、変えない勇気のほうが実は大事だと気づいて。トレンドを追わず、ぶれないデザインを続けることでブランドの色が強くなると思います。シーズンが変わっても商品の写真のテイストを統一しているのも、それを蓄積していくことによって「こういう撮り方はオルテラインっぽいよね」と感じてもらえると思うからです。

大枠のデザインは変えない一方で、細部は常にアップデートしています。たとえば「アンカー」という、ずっと出している水沢ダウンの初期モデルは、フォルムは変えていないのですが頻繁に素材の変更やディテールの追加をしています。歴代のプロダクトを並べたら、変遷が見えてきておもしろいかもしれません。

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