デザインの立ち話-吉岡徳仁がデザインした、イッセイ ミヤケの新しい香水

デザインの立ち話-吉岡徳仁がデザインした、イッセイ ミヤケの新しい香水

こんにちは、JDNの山崎です。東京は少し前まで夏日が続いていましたが、すっかり秋めいてきました。少し前のまだ真夏の頃、「ISSEY MIYAKE PARFUMS(イッセイミヤケ パルファム)」から新しい香水「LE SEL D’ISSEY(ル セルドゥ イッセイ)」が発表され、21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3で展覧会がありました。すでに全国で販売されているので、ご覧になった方もいらっしゃるかと思います。

「LE SEL D’ISSEY」は、香りは調香師のカンタン・ビシュさん、ボトルデザインはデザイナー/アーティストの吉岡徳仁さんが手がけた、イッセイミヤケパルファムの香水です。

©️TOKUJIN YOSHIOKA INC.

©️TOKUJIN YOSHIOKA INC.

三宅一生さんの香水というと、1992年にはじまる「水」をテーマしたシリーズが有名です。今回発表されたシリーズは、新たに「塩」をテーマにした香水です。水もそうですが、塩も人間にとって根源的な物質。三宅一生さんには「一枚の布」という衣服への根源的な問いかけの言葉がありますが、それと通ずるものを感じます。

三宅一生さんから吉岡徳仁さんへの最後のお題

今回、香水のボトルをデザインした吉岡徳仁さん。2022年の春頃、三宅さんから吉岡さんに「思いついたことがある」と電話がありました。話を聞いた吉岡さんは、これを形にするのは簡単なことではないなと最初は感じたそうです。

吉岡徳仁さん、展覧会「ISSEY MIYAKE LE SEL D’ISSEY: Imagination of Salt」にて

吉岡徳仁さん、展覧会「ISSEY MIYAKE LE SEL D’ISSEY: Imagination of Salt」にて

残念ながら、吉岡さんが三宅さんに最終的なデザインをご覧いただくことは叶いませんでした。しかし、30年以上のお付き合いである三宅さんからの最後のお題に対し、いつも以上に「どのように応えようか、自分なら何ができるか」という気持ちが増したそうです。

「LE SEL D’ISSEY」のボトルデザイン

「塩は水と同様に人間に不可欠なもの、シンプルでピュア、海を想起する。そして、日本人にとっては神聖なもの」と考えた吉岡さん。ボトルを考えるにあたって、塩そのものを表現するのではなくて、光に象徴させることとしました。

ボトル形状を試行錯誤した模型。ここにいたるまでにもさまざまなデザイン案があったそう

ボトル形状を試行錯誤した模型。ここにいたるまでにもさまざまなデザイン案があったそう

たくさんのデザイン案から選んだのは、透明なガラスの本体と銀色のキャップによる、一見するとシンプルな円柱に見えるデザイン。もちろん、吉岡さんのデザインなので微細なところに特徴があります。

©️TOKUJIN YOSHIOKA INC.

©️TOKUJIN YOSHIOKA INC.

目を引くのは、ガラスの量感がある厚い底部です。そこには、滴り落ちる水滴にも、浮かび上がろうとする気泡にも見えるかたちがあります。香水を収める中心部はガラスの存在感が薄れ、香水そのものが浮遊感を伴って見えてきます。頭部のシルバーのキャップは、一転して硬質な印象。

ボトルの断面は、下半分は手になじむ楕円型、上部に向かってわずかに形が変化して稜線が生まれ、キャップには2本の直線が引かれています。持ってみると、それが手がかりになり、しっかり握れて開けやすい。

水滴のようなかたちが光を放ち、それを受けて香水が輝き、キャップは周囲を写し込んで反射します。光のさまざまな様子を表現しているように感じました。

香水、一緒に封入される空気、硬質なボトルという「液体」「気体」「固体」の三態を一緒に扱い、それぞれの特徴、特に美しさを引き出すことが求められる香水ボトル。デザインの対象としては珍しい存在かも知れません。

©️TOKUJIN YOSHIOKA INC.

©️TOKUJIN YOSHIOKA INC.

「フレグランスボトルははじめて手がけますが、ミニマルな造形の中に新しさを表現できるのではないかと考えました」と吉岡さん。

吉岡徳仁さん

製品発表を記念した展覧会「ISSEY MIYAKE LE SEL D’ISSEY: Imagination of Salt」は、デザインプロセスの展示、関わったクリエイターのインタビュー上映、香りのインスタレーションなどからなり、その世界観をさまざまに体感できるものでした。残念ながら会期はすでに終了していますが、その様子は三宅デザイン事務所のサイトでご覧いただけます。

そして、2024年12月25日までは、東京・銀座のISSEY MIYAKE GINZA | CUBEと大阪・船場のISSEY MIYAKE SEMBA | CREATION SPACEで「LE SEL D’ISSEY」の特別展示を同時開催しています。

先日のデザインウィーク中に銀座のイッセイ ミヤケを訪問し、「LE SEL D’ISSEY」が店頭に並んでいる様子をはじめて見ました。背景を知っていると、ちょっと違って見えるんですよね。ISSEY MIYAKE PARFUMSのこれまでの香水と比べて、香りはどうなっているか、ボトルはどう違うのか、体験してみるのも面白いと思います。ではまた!

「ISSEY MIYAKE LE SEL D’ISSEY: Imagination of Salt」展 三宅デザイン事務所
https://mds.isseymiyake.com/mds/jp/exhibition/le_sel_imagination_of_salt/

■吉岡徳仁デザイン事務所
https://www.tokujin.com/

■「ISSEY MIYAKE LE SEL D’ISSEY」特別展示
ISSEY MIYAKE GINZA | CUBE
https://www.isseymiyake.com/blogs/cube/17595
ISSEY MIYAKE SEMBA | CREATION SPACE
https://www.isseymiyake.com/blogs/sembacreationspace/17596