JDN編集部の「そういえば、」2019年10月

JDN編集部の「そういえば、」2019年10月

ニュースのネタを探したり、取材に向けた打ち合わせ、企画会議など、編集部では日々いろいろな話をしていますが、なんてことない雑談やこれといって落としどころのない話というのが案外盛り上がるし、あとあとなにかの役に立ったりするんじゃないかなあと思うんです。

どうしても言いたいわけではなく、特別伝えたいわけでもない。そんな、余談以上コンテンツ未満な読み物としてお届けする、JDN編集部の「そういえば、」。デザインに関係ある話、あんまりない話、ひっくるめてどうぞ。

『キャロル&チューズデイ』が描く、音楽の力と希望

そういえば、渡部信一郎監督の新作アニメ『キャロル&チューズデイ』を観て、大号泣しました……。

渡部監督といえば、国内外でも熱狂的なファンを多く持ち、監督の代名詞とも言える『カウボーイビバップ』が有名ですが、ほかにも全編にNujabesの楽曲を使用し、ヒップホップカルチャーを取り入れた、江戸時代が舞台のアニメ『サムライチャンプルー』や、大友克洋や湯浅政明、円城塔をはじめとした豪華なスタッフを迎え、音楽では岡村靖幸や向井秀徳など多数のアーティストが参加した、ゆるゆる(?)SFコメディ『スペース☆ダンディ』など、他のアニメとは一線画すような演出がなされた音楽性の高い作品を世に送り出してきました。

『ブレードランナー』から『ブレードランナー2049』までの30年間の出来事を描いた『ブレードライナー ブラックアウト2022』もとても話題になりましたね。

『キャロル&チューズデイ』は、スペース☆ダンディより5年ぶりのオリジナルアニメ。Netflixにて全世界独占配信も行われています。

言わずもがな、音楽へのこだわりはハンパじゃないのですが、今回は国内だけではなく、海外からも多数のアーティストが参加しています。国内ではCorneliusやceroの高城晶平ら、海外からはBenny SingsやE. Kidd Bogart、Lidoなどが楽曲提供しました。作中歌は全編英語歌詞で歌われており、主人公のふたりは声優とは別に全世界オーディションで選ばれた、キャロル役のNai Br.XXとチューデイ役のCeleina Annが担当しています。

舞台は人類が火星に移住してからの50年後、多くのカルチャーがAIによって作られ、人はそれを享楽する側になった時代。ストーリーは、ふたりの少女の出会いからはじまります。田舎生まれのチューズデイは家出をし、都会に暮らすキャロルと出会います。チューズデイはキャロルの歌声に惚れ、ふたりは意気投合し、一緒に曲づくりをはじめ、やがてミュージシャンを目指します。

知事の母を持ち、裕福な家庭で育ったチューズデイとは対照的に、キャロルは難民キャンプで育ち、ひとりアルバイトで生計を立てています。バックボーンはまったく異なるふたりですが、そんなことなど気にかけず、“音楽”という共通項で絆を深めていきます。物語の後半では政治的な要素も加わり、いまの社会における音楽とも通じるようなところが描かれています。

物語の冒頭から繰り返される、最終回の“奇跡の7分間”を観て、思わず大号泣してしまいました。音楽の力を信じて、人びとの心に届ける、それは世の中を動かすこともあるんだと、そんなキャロルとチューズデイのピュアな姿に心うたれました。どんな状況であっても、音楽ひいては、文化はわたしたちに力を与え、そして希望を与えてくれるものだと、強く強く感じました。全世界の大人からこどもまですべての人に全力でおすすめしたい、やさしくあたたかいアニメです。

(荒木瑠里香)

映画を伝えるデザイン

そういえば、先月発売された『時代と作品で読み解く 映画ポスターの歴史』(玄光社刊、イアン・ヘイドン・スミス著、岡田秀則監修、プレシ南日子翻訳)がとてもおもしろかったです。映画の歴史を辿りながら、それを伝えるためのポスターデザインが経てきた変遷を豊富なビジュアルとともに一望できる本で、映画館へ大きなポスターを観に行きたくなってしまいます。

映画は、発明されてから戦争やプロパガンダ、高度経済成長など、20世紀の激動の中で巨大な産業として発展してきたので、その歴史はそのまま広告におけるグラフィックデザインの歴史と併走しているのだなと、読んでいてあらためて感じました。

ついでと言ってはなんですが、映画のポスターデザインのおもしろさ感じる英『Vanitiy Fair』による動画を紹介します。同誌はYouTubeチャンネルにて、俳優がキャリアを振り返る動画や、監督自身による作品解説など、映画にまつわるコンテンツを豊富に配信していますが、『パルプ・フィクション』や『17歳のカルテ』などのポスターデザインを手がけるJames Verdesotoが映画のポスターデザインを解説する動画がおもしろいんです。

まずは、マーベルシネマティックユニバースのポスターデザインを解説している動画がこちら。原作コミックの表紙や、過去のアクション映画のポスターデザインに用いられていたデザインやアイデアとの比較など、似たような印象を感じかねないアクション映画のポスターの仕組みについて語られています。先述の本ではわりとアメコミ映画のポスターデザインに対して否定的に書かれていますが、こうやって語られているのをみると、少し立ち止まってディテールに目を凝らしたくなります。ちなみにぼくがいちばん好きなマーベル映画は『キャプテン・アメリカ/ウィンターソルジャー』です。関係ないですね。

こちらはリメイクされた映画のポスターを比較して語るというもの。映画が公開された時代の空気や、ポスターデザインのリファレンスについても解説されいて、ふむふむとうなずきながら観てしまいます。

最後にこちらは映画ポスターのカラーデザインについて。グラフィックにおける色の使い方の基本についても知ることができますし、映画を伝えるにあたっての登場人物やストーリー、世界観をどうビジュアルで表現していくかについて考えさせられる動画でもあります。

さいきんはPCやスマホからNetlixなどで映画を観るひとも増えてきた中で、画面に表示されるビジュアルでいかにユーザーの鑑賞欲をそそるか、ということが考えられているんじゃないかなと思います。以前は映画館の中を歩くだけでさまざまなポスターが一望できたので、そこに訪れたひとに対して、Webでいうところの“インプレッション”は稼げたと思うのですが、すぐに離脱できてしまうブラウザ越しのポスターでユーザーの興味をひくには、これまでとは違った考え方で映画を伝えるデザインが生まれなくちゃいけないのかなと。VODのホーム画面って、なんとなく場面写真にタイトルが載っているだけのサムネイルが多いような気がして、ちょっと味気ない感じがなくもないんですよね。映画を伝えるこれからのデザインに期待です。

(堀合俊博)

minnaのハッピーくまで

そういえば、先日、縁起物で有名な「熊手」をはじめて買いました。

この何ともカラフルで賑やかな熊手は、デザインチーム「minna(ミンナ)」によるイベント「minnaとみんなのハッピー祭~10th anniversary event~」で販売していたものです。

ハッピーくまで

ハッピーくまで

“デザインをみんなの力にすること、ハッピーなデザインでみんなをつなぐこと”を掲げ、活動してきたminna。本イベントは設立10周年に際し、これまでのつながりと縁に対する感謝祭です。会場では「ハッピー祭」にちなんだ新作プロダクトやプロトタイプの発表、過去10年分のアーカイブ展示、今まで手がけた商品の販売がおこなわれています。

そんなイベントで出会ったこの「ハッピーくまで」は、minnaとつながりのある23組のクリエイターのコラボレーションによってつくられた、世の中がハッピーになることを願うものの。各クリエイターは、それぞれが縁起物のシールデザインをするという形で参加しています。

シールデザインをおこなったのは、秋山花さんや鈴木マサルさん、氷室友里さん、三星安澄さん、tupera tuperaなどさまざまな分野で活躍する23組。

シールデザインは、秋山花さんや鈴木マサルさん、氷室友里さん、三星安澄さん、tupera tuperaなどさまざまな分野で活躍する23組。

キットにはシール紙、台紙、ハンドルパーツ、小判カード、ひし形カードが封入されています。まずはハンドルパーツを台紙に貼り付け、そのあとは台紙に好きなようにシールを貼っていくだけ。簡単なように見えますが、バランスや色合いなどを考え出すと長考に入ってしまいます(笑)。

台紙の折りスジを手前に持ち上げて起伏をつくり、好きなようにシールをペタペタ貼っていきます。

台紙の折りスジを手前に持ち上げて起伏をつくり、好きなようにシールをペタペタ貼っていきます。

小一時間ほどで完成し、最初は迷ったものの気付いたら没頭。センスがあれば、もっとバランスよく貼れたかも…!と、多少の後悔はありますが、自分で熊手をつくる機会なんてなかなかないし、とてもクリエイティブな楽しいひとときが味わえました!

そんな「ハッピーくまで」が販売しているイベントも10月27日まで!ぜひ足を運んでみてください。

■minnaとみんなのハッピー祭~10th anniversary event~
日時:2019年10月21日(月)~27日(日)11:00~20:00(最終日~18:00)
場所:渋谷ヒカリエ 8/ CUBE1.2.3
https://minna-design.com/news/5389/

(石田織座)