クリエイターの「わ」第3回:大野友資

クリエイターの「わ」第3回:大野友資

クリエイターからクリエイターへと、インタビューのバトンをつないでいく新連載「クリエイターの『わ』」。編集部がお話をうかがったクリエイターに次のインタビューイを紹介してもらうことで、クリエイター同士のつながりや、ひとつのクリエイションが別のクリエイションへと連鎖していくこと=「わ」の結びつきを辿っていくインタビューシリーズです。

前回の武井祥平さんからバトンを受け、今回お話をうかがったのは、DOMINO ARCHITECTS代表の大野友資さん。建築という枠にとらわれず、3DCADを使った本のデザインや巨大なニットでつくられたクリスマスツリーのインスタレーションなど、多岐にわたる仕事を手がけています。ドイツ出身、ポルトガルの建築事務所での設計歴などのバックグラウンドも持つ大野さんに、ご自身の作品や欠かせない仕事道具などをお聞きしました。

作品紹介

「SHIBUYA QWS」

QWS(キューズ)は昨年の11月にオープンした、渋谷スクランブルスクエア15階にある会員制の協創施設です。どういうプログラムで運営をするかなど企画の初期段階から関わらせてもらっていたんですが、当時はコワーキングスペースが乱立していた時期だったので、この敷地の特徴をどう生かすかということを話しながら進めていきました。スクランブル交差点が真下に見える位置にイベントスペースを持ってこようとか、そういった場所に特色を与えられることを考えていきました。

SHIBUYA QWS

Untitled (A co-working Space in Shibuya #201), 2019 © Gottingham
Image courtesy of Domino Architects and Studio Gottingham

SHIBUYA QWS

Untitled (A co-working Space in Shibuya #43), 2019 © Gottingham
Image courtesy of Domino Architects and Studio Gottingham

QWSは商業フロアとオフィスフロアに挟まれていて、いろいろな階のダクトやエレベーターがちょうど切り替わるエリアのため、天井高が地形のように最初から決まっていたんです。なので、そういった元々あった段差などをきっかけとした設計をしています。たとえば低い天井のところはリラックスできる雰囲気にしたり、窓に近いエリアは天井高が取れるようになっていたので、そこに入ると視界が開けるようにコントラストをつけて解放感を出そうとか。天井高の違いで空間の性格を切り分けました。

SHIBUYA QWS

Untitled (A co-working Space in Shibuya #763), 2019 © Gottingham
Image courtesy of Domino Architects and Studio Gottingham

写真を見てもらうとわかるのですが、いろいろな種類の空間がありそうなのに、部屋同士を区分けする壁をほとんどつくらなかったところが特徴のひとつです。壁で仕切らずに、カーテンやスクリーンなどの可動間仕切りでフレキシブルに対応したり、コアと呼ばれる動かせないボリュームを利用して視覚的に空間を仕切っています。また、昔から標準的にオフィスで使用されているのに、古臭く感じるなどの理由からネガティブなイメージがあるような素材を、色や取り合いを精査しながら積極的に使用したことも特徴です。たとえば、ホームセンターで売っているようなガチャ柱を壁材の見切りとして使ったり、床材で使われるOAフロアにカーペットを敷かずに素地で使ったり。

もともとオフィスでよく見かける素材は吸音性や耐久性があったり、水はけがよかったり、長く使われてきただけあって理にかなっているものが多いんです。現代の働き方に合わせて設計した新しい空間に対して、昔ながらの親しまれた素材や仕上げを用いることで、オフィス空間におけるこれからのスタンダードの提案を行いました。施工の人たちも使い慣れている素材なので話がしやすいというのも大事なポイントです。

このプロジェクトにおける僕の仕事は、何をデザインして何をデザインしないのかを精査するということでした。今まで使っていたものの良さを再発見するとことはとてもおもしろいですし、それがプロジェクトのオリジナリティにも繋がっていくのかなと思います。

「BABEL」

ARCH-ABLE(アーカブル)」というWebサイトのために「BABEL」という架空のホームセンターを設計したプロジェクトです。BABELのデータ内には、古今東西のあらゆる金物の実測3Dデータが陳列されていて、設計の資料として使ったり、3Dプリントして実際に使用したりできるようになっています。

BABEL

Ficciones, “BABEL #9 (salmon)”
©DOMINO ARCHITECTS + SUNJUNJIE + Gottingham
(Licensed under CC-BY-ND 4.0)

「ARCH-ABLE」は建築家が生み出したデザインのデジタルデータをアーカイブし、CCライセンスの下に公開するプラットホームです。ローンチのタイミングで建築家6組がキュレーションされて、そのうちの1組として作品を公開しました。家具などプロダクトのデジタルデータをつくることも検討しましたが、こういったデータは意外とダウンロードしてもらいづらいという経験があったので、少しちがう方向性を考えました。

建築家は設計する段階で、既製品の金物やパーツのことを考えながら扉の厚みを考えたり家具をつくりますが、ふと、僕は既製品の金物データをストックとして大量に持っているなと思って、それを公開すると便利なんじゃないかなと。JISのWebサイトなどで金物のデータはダウンロードできますが、ボルトやナットの3Dデータは1データにつき1金物だったりして、ひとつひとつダウンロードしてまとめるのは地味に大変で……(苦笑)。ひとつのファイルの中にデータがそろっていれば、金物同士の大きさやデザインの比較もできるし、ホームセンターにいる感覚で品物を選べるんじゃないかなと思ったんです。

BABEL

Ficciones, “BABEL #22 (rose quartz)”
©DOMINO ARCHITECTS + SUNJUNJIE + Gottingham
(Licensed under CC-BY-ND 4.0)

「BABEL」は金物が増えていっても収納できるように、ひとつの閉じた空間ではなくて拡張性のある部屋が無限につながっていくような空間にしました。六角形の部屋を組み合わせていくような平面計画になっていて、これは小説家のホルヘ・ルイス・ボルヘスの短編小説『バベルの図書館』を参照しています。小説の中の空間描写が「六角形の部屋が上下左右につながっている」という表現になっていて、それを僕の中で再解釈したものがこの空間なんです。

この「BABEL」の竣工写真は写真家のGotthinghamと3DアーティストのSUNJUNJIEと協働で制作しました。これがすごく体験としておもしろくて、DOMINO ARCHITECTSという枠を超えて、3人で今後も架空の建築のビジュアルをつくっていこうと話していて、いくつか具体的なお話もいただいています。

お仕事クエスチョン

Q.なくてはならない仕事道具はありますか?

仕事を始めてからずーっと同じロジクールのマウス「MX518」を使い続けていて、たぶん20個くらい同じものを持っています(笑)。3Dソフトのいろはを教えてくれた先輩が使っていたマウスで、型が一度廃版になった時もあったんですが、最近復刻したんです。無くなると本当に困るので、いまは売っているのを見かけると買うようにしています(笑)。たぶんマウスはこれじゃないと3分の1くらいの設計速度になりますし、手で持った時の道具の感覚や手触りはやっぱり大事です。

ロジクールのマウス

ロジクールのマウス「MX518」

触れることやリアリティのあることが建築の中で僕が楽しいなと思うポイントで、「BABEL」のような、架空の建築をつくる時なども“目触り”ということを考えていますね。視覚による触覚というか。どんな仕事でも触感は大事にしていて、「ふわふわ」とか「もっちり」とか、最終的にそのくらいの形容詞で作品が伝えられることに興味があります。

Q.あなたの仕事場とそのこだわりについて教えてください。

仕事場はマンションの一室ですが、最近隣の部屋も新たに借りました。もともとあった部屋ではおもに執務や打ち合わせを行って、隣の部屋はワークショップとして模型やモックアップをつくったりする場所として使っています。

ダミーダミーダミー

執務を行う部屋の壁には、Gottinghamさんの作品がかかっています

大空間とか倉庫みたいな場所よりは、場所ごとに区切られた空間のほうが仕事場として落ち着きます。ポルトガルの事務所にいたときもメインのオフィスのほかにアネックスがあって、そこで模型をつくっていたので、ここでもそういった切り替えができるように部屋を分けています。

Q.クリエイティブな仕事をする上で、大切にしている日課はありますか?

毎日ではありませんが、何かデザインをする時や「今日はこれをやるぞ!」という日は1日それだけに時間をあてるようにしていますね。その日は早起きして始発とかでオフィスに来て、メールも見ずに自分のペースでやれるようにしています。ほかにも、アイデアや考えたことは手書きでメモに残すことが多いですね。プレゼンを考える時も絵コンテは必ず描いて流れを考えています。

あなたのクリエイターの「わ」

◯影響を受けたデザイナーやクリエイター

ポルトガルの建築家のアルヴァロ・シザがずっと好きで、修士論文も彼の作品について書きました。90歳近いんですけど現役で、ずっと自分で手を動かしながら仕事をしている生き方も尊敬しています。シザの設計は写真で見るとすごく新しいモダンな建築に見えますが、実際に訪れると「どこにあるんだろう?」ってわからなくなるくらい風景に馴染んでいるんです。

それは、もともとある素材をうまく使う引き継ぎ方だったり、視線を巧みに利用して威圧感がないようにしたり、いろいろな情報をテキスタイルみたいに織り込んでいくようなデザインをやっているからなんですよね。QWSの話にも通じますが、昔から良いとされていたものを排除せずに再発掘したり、できるだけ使う人も運営する人も自然な状態がキープできるようにするとか、もともとここにあってもおかしくないねって思えるものを僕もつくりたいです。

あとは、ボルヘスのような作家からも多くのインスピレーションを受けていますが、中でも寺田寅彦の書く随筆文が好きです。作家ではなくて物理学者なのですが、彼の書く文章がとても美しくて、情緒的だけど理性的なんです。科学とエンジニアリングと表現の部分が体の中で真に融合している感じがして、その存在感がいいなと思っています。

◯前回の武井さんからの質問:ご家族と過ごす時間をとても大切にされていることも大野さんの奥深さを感じるひとつの側面ですが、仕事とプライベートのバランスを保つために意識していることはありますか?

直接の答えになるかはわかりませんが、少し前に長野県の御代田に5家族で大きい土地を購入して、そこに住宅を5つ建てるというプライベートプロジェクトが進行中です。ゆくゆくは二拠点での生活になると思うんですが、そこがあることで切り替えができるようになるのはいいなと思っています。竣工後もずっとライフワークみたいな感じで増築などを行っていく予定です。

◯ご紹介したいクリエイター

大野さんにご紹介いただくクリエイターは、吉田真也さんです。

いま台湾のプロジェクトで一緒に仕事をしているんですが、作品ももちろん、同世代ということもあって、ずっと気になっていた方です。仕事をご一緒していて、進め方がとても丁寧で、一つ一つのことに対して実験と仮説を繰り返しながら、着実に仕事を行ってくれる人だと感じています。それでいて素材などに関しては発想の仕方や仕上がりにジャンプがあるというか、あまり見たことのないようなテクスチャーで仕上げをする方なので、そういう面白いところがいいなぁって。

◯吉田さんへのメッセージと質問

吉田さんが手がけるものは形はもちろんですが、世界観のつくり方がすごく独特だなと思っています。たとえば吉田さんがデザインしたシリコン製の器「G3 Vessle」は、文房具を置くものとして映しているものもあれば、食品が入っていたりと不思議なスタイリングをしています。

吉田さんはひとつのものの完成度だけではなく、それが群や風景になった時に醸し出される空気感はどのように考えていますか?また、そういった完成したものの世界観というのは最初からイメージしているのでしょうか?

次回のクリエイターの「わ」は、吉田真也さんにお話をお聞きします。

タイトル画像:金田遼平 聞き手:石田織座(JDN)

大野友資

大野友資

1983年ドイツ生まれ。DOMINO ARCHITECTS代表。東京大学工学部建築学科卒業、東京大学大学院修士課程修了。カヒーリョ・ダ・グラサ・アルキテットス(リスボン)、ノイズ(東京/台北)を経て2016年独立。2011年より東京芸術大学非常勤講師を兼任。

DOMINO ARCHITECTS

大野友資によって2016年に設立されたプラットフォーム。デザインの実践と理論の両面から歴史や文脈への接続を試み、情報と物質、デジタルとアナログ、ハイテクとローテクを相対化するような設計を手がける。その活動はさまざまなチームとの協働によって形作られ、建築、インテリア、プロダクトデザイン、リサーチや企画開発まで多岐にわたる。

http://www.dominoarchitects.com/