クリエイターの「わ」第4回:吉田真也

クリエイターの「わ」第4回:吉田真也

クリエイターからクリエイターへと、インタビューのバトンをつないでいく新連載「クリエイターの『わ』」。編集部がお話をうかがったクリエイターに次のインタビューイを紹介してもらうことで、クリエイター同士のつながりや、ひとつのクリエイションが別のクリエイションへと連鎖していくこと=「わ」の結びつきを辿っていくインタビューシリーズです。

前回の大野友資さんからバトンを受け、今回はプロダクトデザイナーの吉田真也さんにお話をうかがいました。オリンピックのメダルケースを手がけられたことでも大きく注目を集めた吉田さんですが、自動車整備士といったバックグラウンドから、昨年に自ら工事された仕事場へのこだわりなどについてお聞きしました。

作品紹介

「Geometria Glass Speaker」

Geometria Glass Speaker

2019年のミラノサローネサテリテで展示した、ガラススピーカーのプロトタイプです。これまでさまざまなガラスを扱ってきた中でも特におもしろい設計で、まだ世の中にはない構造だと思います。

ガラスの円盤が浮いているようなかたちになっていますが、これは「振動子スピーカー」というものを使っていて、ガラスを振るわせることで音を伝える構造になっています。そしてガラス自体が振動子によって宙に浮いた状態で保持されているという特殊な内部構造です。

Geometria Glass Speaker

このスピーカーが実現できたのは、1mmのとても薄く強いガラスを使用しているからなんです。通常薄いガラスはとても繊細ですが、このガラスは化学処理によって強化されています。ガラスメーカーであるAGCさんの「Dragontrail」という、携帯電話などの表面に使われるガラスを使用しているのですが、たわんだりモノが軽く当たっても割れない素材のため、それ自体を振動させるスピーカーという構造が実現できています。

世の中には、ローテクからハイテクまでさまざまなスピーカーがあり、最近ではハイレゾなどといったハイスペックな高級オーディオも流行していますが、必ずしも万人がすべての空間でそういったものを必要としているわけではないと思うんですよね。すべての音域が完璧ではなくても、機能としてもっとライトなスピーカーがあってもいいかなと思っていたことが、デザインのきっかけとしてありました。

このスピーカーは、ガラスという素材の組成上、高音にフィットするので、鐘や風鈴などといった音が綺麗に出せるんです。逆に言うと、薄いので大きく空気を振動させることは苦手なのですが、環境音やアンビエントミュージックのような、心地のいい癒しの空間をつくるスピーカーとして使うことができます。また、ハーフミラーの処理をしているので、鏡としても使うことができ、一見してスピーカーだとわからないようなものから音が紡がれるという、新しいスタイルのスピーカーです。

Geometria Glass Speaker

ミラノサローネで発表した際の海外の方の反応も、普通のスピーカーとは全く違うデザインなので、まずはビジュアルに惹かれて近づいて来て、ここから音楽が流れていることに気づいて驚かれているようでした。多くの方に「何でできているの?」と、とても興味を持っていただけましたね。いつかはどこかの企業さんと一緒に製品化ができればと考えています。佇まいも綺麗なので、店舗やギャラリーなどに置いていただいて、スピーカーの存在を意識させない商品が実現できればいいなと思っています。

「MUJI アクリル シェードライト」

MUJI アクリル シェードライト

とてもわかりやすい見たことのあるようなかたちで、柔らかくてやさしいあかりを追求した無印良品のシェードライトです。

照明と言われて誰もが思い浮かべるような、丸や台形といった原型的なかたちに対して、少しの新しさを加えるにはどうしたらいいんだろうと考えていたときに、台形の傘の中の電球がすごく大きかったら単純に美しいだろうなと思い、デザインしました。シンプルなので、デザインする上でどのあたりを詰めているのかがなかなか伝わりにくいとは思うのですが、かなり細かい調整を加えています。

MUJI アクリル シェードライト

最も特徴的なところは、台形の傘のどの角度から球を覗いても、光源である球が吊ってある部品が見えないようになっているところです。なので、球が浮いているような、どこか不思議で美しい印象が生まれるんです。プロダクトとしての美しさと、光源のやわらかさをとにかく考えてつくり上げています。台形と球だけなので簡単なデザインに見えてしまうんですが、部品の構成と配置をかなり細かくミリ単位で調整しているので、開発には結構長い時間がかかっています。お客様の手の届く高品質を目指し、色や質感も良品計画の方と一緒に作り上げた照明です。

僕のデザインの取り組み方は、機能を軸に考えていくので、幾何学的なかたちがベースになっています。はじめから感性でラインを引いていくというよりは、目的を達成するための最適解としてのかたちとはなにかという、数学的な答えを探すような感覚に近いのかもしれません。デザインはいろいろなものを整理して要素を減らし、凝縮していく作業が多いと思うのですが、その上で、合理的な幾何学的形状を柔らかいかたちでマージしていくところに、僕らしいかたちがあるのではないかなと思います。

そういった造形定義の仕方には、僕がもともと自動車整備士をしていた影響もあるのかもしれません。整備士時代には整備はもちろんのこと自分で板金などもやっていたんですが、車の連続性の高いボディ曲面と、徹底した工学によって導き出された内部構造をずっと見てきたことで、身体的な造形感覚がすんなりとデザインの作業の中で融合していったんだと最近では思っています。

お仕事クエスチョン

Q.なくてはならない仕事道具はありますか?

KOVAXというメーカーの「スーパーアシレックス スカイ」というサンドペーパーがとにかく好きで、いまではなくてはならない仕事道具ですね。整備士時代に、板金屋の友人に教えてもらった時の衝撃がすごくて、ずっと愛用しています。

KOVAXのサンドペーパー「スーパーアシレックス スカイ」

KOVAXのサンドペーパー「スーパーアシレックス スカイ」

このサンドペーパーは、自動車の板金向けにつくられているので、一般的に売られているものではなく業務用です。柔らかく布のような質感で、指に巻いて使ったり、マジックテープで吸着もできます。入り組んだ曲面への追従性を徹底的に追求したサンドペーパーなので、これで削るときれいなかたちがつくれるんです。プロトタイプをつくる際に、3Dプリンターでつくったものを手で削って滑らかにしていき、それをまたデータ化するという作業も多いのですが、このサンドペーパーがかなり貢献してくれています。耐久性もありとても長持ちするので、もう普通のペーパーは使えないですね。

Q.あなたの仕事場とそのこだわりについて教えてください。

昨年作業場の制作をしたんですが、タイルを自分で敷くなど、やったことがないことをすべてやってみようと思い、内装ができる友だちにいろいろと教えてもらいながら、合板を貼ったり、パテ埋め、塗装など、内装のプロセスのすべてを自分で体験しました。合間合間で進めていたこともあり数か月かかってしまいました……(笑)。一連のプロセスを通して、建築家や現場の方の大変さを体感できた部分もあり、とても勉強になりましたね。ものづくりはすべてがつながっているので、自分でやってみることはとても大事だと思っています。

一つだけこだわりとしては、長い机の上で作業をするところです。同時にいろんな要素を視界に入るようにすることで、さまざまな発想の結びつきが起きるようにしています。すぐに素材に触れて実験ができるということが、プロダクトデザインにおいてとても重要だと思うで、アイデアの種になるような、いろいろな素材のストックも並べています。形状や素材感などを目からインプットして発想していくためには、広いデスクが快適なんです。

作業空間

また、机を横に長くすることで、つくっているものをプロセスごとに置いておくことが、僕が仕事を進める上でとても大事です。幅が5.3mもありかなり長い机なのですが、何件かの仕事を同時に進めるために、つくっているプロセスや、忘れてはいけないことを机に並べて仕事をしています。時には机の左から右に進むごとに組み上がっていくような、この机の上が工場のラインのようになったりもしています。

Q.クリエイティブな仕事をする上で、大切にしている日課はありますか?

仕事をする中で、世の中にないものをつくるときには、その製法から考えないといけない場面が多いですよね。そういった、あまり引用できるものがないもののデザインを考えていくために、アイデアの引き出しを常に補填していく必要があると思います。生活していく中で何でもモノを見たときには、素材は何でできていて、どうやってつくられているかに注目するようにしています。

そして、いまでもわからないものがいっぱいある。わからないものがあれば、とにかく調べる。インターネットからはじまって、いろんな職人さんや技術者の方に電話をしたり、「あれってどうやってできているんですか?」と質問攻めをする(笑)。それで理解できたときの「なるほど」が、いつか必ず仕事につながってくるんです。何かを設計するときには、そういった知識の蓄積がもっとも重要だと思うので、普段からものを観察するようにしています。

「考えた人に会ってみたい!!」と思うほど、優れた設計のものは世の中に数えきれないほどあります。人類の歴史の中で様々な分野の道具の進化について考えてみると、毎日目にするものでも意外とまだ発見があると感じています。

あなたのクリエイターの「わ」

◯影響を受けたデザイナーやクリエイター

2006年あたりに、KDDIが「neon」という携帯電話を発表したんですが、整備士の時代にその開発秘話の記事を読んだんです。積むことができるくらい真四角で水平垂直な携帯電話なんですが、普通金型でつくられる製品は、形状が直角だと引っかかってしまうので通常は勾配をつけるところを、その携帯電話では抜き勾配をゼロにすることにトライしていて。さらに、まったく透過しなさそうな不透明な質感の素材なのに、ディスプレイが透過性になっているんです。当時、その記事を読みながら、「デザインって、テクノロジーの延長にあるんだな」と、なんとなく自分の中で理解して、初めてデザインという言葉に興味を持ちました。

整備士の仕事をしていた中でも、自動車に使われている数万点の部品の、どれひとつをとっても一切無駄がなく設計されていることに、「設計者ってすごいな」と憧れるようになりました。小さな部品の細部にまで設計者の思想が詰まっていることに気づいて、それが琴線に触れたというか。

その後、脱サラしてデザイナーを目指して学び直して、紆余曲折ありながら今に至ります。抜き勾配ゼロという、一般的にはあまり知られることのない技術に技術者が情熱を注ぎこんで取り組んでいることに、とてもグッときたのをいまでも覚えています。

◯前回の大野さんからの質問:吉田さんが手がけるものは、かたちはもちろんですが、世界観のつくり方がすごく独特だなと思っています。ひとつのものの完成度だけではなく、それが群や風景になった時に醸し出される空気感は、どのように考えていますか?また、そういった完成したものの世界観というのは最初からイメージしているのでしょうか?

最初から最終的なビジュアルからディテールまで浮かぶ時もあれば、あんまりそういったイメージがない時もあり、結構まちまちですね。あんまり自分の思考プロセスを見つめたことがありませんでした(笑)。

かたちだけ先行していて、マテリアルが決まってくることで、世界観やそのビジュアルの展開方法が後から湧いてくることもあります。それ以外にも、ブランド側からの提案があって、自分では思ってもいなかったアイデアが付け加えられていくこともあります。ニューヨークのブランド「GOODTIHING」から発売された「G3Vessel」はまさにそうでした。

G3 Vessel

「G3 Vessel」

プロダクトが出来てからいろいろ試してみて、カメラマンに依頼しています。開発段階ではそういったイメージがない時もあるし、最初からビジュアルをイメージしてプロダクトをつくっている時もあって、それらは半々くらいじゃないかなと思います。

色に関して言えば、北欧のセンスは合うなぁと思っていて、僕がデザインしたものが、「北欧っぽいね」と北欧のデザイナーに言われたこともあります。淡く、彩度の低いマットな色と質感が好きで、ミラノサローネでも、興味を持ってくれる企業の9割が北欧だったりします(笑)。

◯ご紹介したいクリエイター

吉田さんにご紹介いただくクリエイターは、浜田晶則さんです。

◯浜田さんへのメッセージと質問

浜田さんとは、チームラボのプロジェクトでご一緒したのがきっかけで知り合いました。その仕事では、浜田さんが空間設計の担当で、数百台という光る車両がコースを走る設計をされていて、僕はLED光源の設計を担当しました。

こういった設計は、人間の頭ではシミュレーションしきれないような情報量を処理する必要があると思うんです。浜田さんは、コンピューテショナルデザインと呼ばれる、パラメトリックな手法を応用されてると思うんですが、そのプロセス自体にとても興味があります。浜田さんは、そういった複雑な条件設計を要するデザインを、どのように実践されているのでしょうか?特に、チームラボの「Microcosmoses」という三次元空間の中で設計されたレールを光の玉が走る作品など、とにかく情報量の多い設計をどのようにこなしているのかを教えてください。

プロダクトデザインの分野では、表面の凹凸や加飾のような表層でしかパラメトリックな手法は取り入れられていないのですが、僕自身も実験的にプログラマーとデザインツールを開発したりもしているので、浜田さん独自の設計手法をおうかがいしたいなと思っています。

次回のクリエイターの「わ」は、浜田晶則さんにお話をお聞きします。

聞き手・文:堀合俊博(JDN)

吉田真也

吉田真也

1984年生まれ。2012年にSHINYA YOSHIDA DESIGNを設立。元自動車のメカニックの経歴を活かし、日用品のプロダクトデザインからエンジニアリングまで幅広いプロジェクトに参加。2015年よりチームラボのプロダクト開発パートナーとしてデザインから製造まで、チームラボのさまざまなプロダクト制作に関わる。iF DESIGN賞、GOOD DESIGN賞、HUBLOT DESIGN PRIZE 2017ノミネートなど。

http://www.sydesign.jp/

(PHOTO : Yukihide Nakano)