「何がコンテンツになりうるか」発想法

「何がコンテンツになりうるか」発想法

こんにちは、佐藤ねじと申します。デザイナー・プランナーとして活動しています。面白法人カヤックというデジタルコンテンツの制作会社を独立し、2016年7月にブルーパドルという会社を設立しました。

このコラムでは、僕の偏った“変な”発想法をシリーズ化して、ご紹介したいと思います。

最近『超ノート術』(日経BP社)という情報収集・発想法に関する本を出す機会がありました。こちらは広い層の方が読む本なので、偏っていない“まともな”ノート術や発想法についてまとめたつもりですが、JDNの読者層はクリエイター関連の方が多いので、もう少し尖った話にしていきたいと思います。

ブルーパドル思考って何?

ビジネスの世界では、新しい市場のことを「ブルーオーシャン(海)」と表現しますが、それは簡単に見つけられるものではありません。それに対して僕たちは、「小さいけど新しいアイデア」をたくさん見つけていこうと考えています。

海サイズの発見は無理でも、水たまりサイズの発見なら見つかるだろうと。水たまりは英語で「パドル」ということから、その発想法を「ブルーパドル」と命名しました。もうやり尽くされたと思われているレッドオーシャンの中にも、まだまだブルーパドルは隠れているのです。

小さなアイデアって意味あるの?

僕が探しているアイデアは、ビジネスに直結しないものも多いです。しかし、それがどんなに小さいアイデアだとしても「新しいこと」には価値があると考えています。ラーメンズ・小林賢太郎さんのこんな名言があります。 

「0から1は作れなくっても、もがき苦しめば0.1くらいは作れるんですよ。必死になってやれば。それを10回繰り返せばいいんです。」

素敵な言葉です。まさに「0→0.1」の発見こそ、僕にとって「ブルーパドル」のことです。そして僕らはそこに、テクノロジーやデザインを駆使して、コンテンツに仕上げることをやっています。

そして僕の発想法は言い換えると、ブルーパドルの探し方です。その中で、よく使っている手法の1つが「何がコンテンツになりうるか発想法」です。

「何がコンテンツになりうるか」発想法

僕らはついつい「コンテンツの範囲」を限定してしまいます。例えば“恋”や“愛”はデザインの対象だけど、“ゲロを吐く行為”は対象外。でもゲロをコンテンツの対象と捉え、それについて深く考えると「まだこの世にない、画期的なゲロ袋」があるかもしれないし、ゲロを吐くというネガティブな行為を、少しだけポジティブにできる方法があるかもしれません。

例えば「ゲロを吐く」という言い方が邪悪なので、“除霊する”とか“デトックスする”と再定義したらどうでしょう?僕は吐くことが極端に嫌いで、吐いたら楽になるのは分かっていても、ギリギリまで吐かない方法を模索してしまいます。それで余計に気持ち悪くなって、無駄に辛い時間を過ごしてしまいます。しかし、“吐くとは体内の邪悪なものを除霊する行為”と定義すると、少しポジティブに感じ、とっとと霊を出して楽になってしまおうと思えるかもしれません。「出て行け!忘年会で取り憑かれた霊たちよ!」と叫びながら吐く姿は、ちょっと格好いい気もします。

商品に転がして考えると、バスの中に「ゲロ袋」があると余計に気分が悪くなりますが、「除霊袋」が設置されていたら、少し違う気持ちになりそうです。

すみません……例えが汚かったですね。

しかし、みんなが「コンテンツの対象外」と見過ごしてるものに光をあてると、けっこう面白くなることが多い。しかも、それは世の中に腐るほどある、ということをお伝えしたいのです。

だから常に「何がコンテンツになりうるか」というアンテナを張って日常生活を送ってみることをおすすめします。ふと違和感を覚えたたこと、無意味なもの、大嫌いなものも自分のなかの「コンテンツチェック機能」を通す癖をつけると、意外な発見があるかもしれません。

見つかるとドキッとする紙メディア「レシート」

2015年に発表した『レシートレター』という作品があります。これはまさに、この発想法から生まれたものです。

ある時、奥さんが「洗濯物の中からレシート出てきたよ」とクシャクシャになったレシートを渡してくれました。特にやましいこともなかったのですが、何となく一瞬ドキッとしました。もしエロ本買っていて、それがバレたらすごく恥ずかしい……。

僕はこういう「心が動いた瞬間」を大切にしています。ドキッとするものには、コンテンツになる可能性があるのです。

この場合、レシートは「妻に見つかるとドキッとするメディア」「ネガティブな情報を発信することが多いメディア」だなと思いました。それならば逆に「夫のレシートを見つけた妻が、HAPPYになるレシート」があったら面白いのではないか……?

そこでつくったのがレシートの商品名のところが、メッセージになっている「レシートのふりをした手紙」です。

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メッセージの行に合わせて、右に値段もつけました。
・「アリガトウ」には、「¥39」。
・「餃子ノ鍋」には、かかった値段の「¥598」。
・「イイ夫婦ノ日」には、「¥1,122」。

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実際にこれを11月22日(いい夫婦の日)に、さりげなく机の上に置いておきました。そして妻がこのレシートに気付きツイートしたものが、SNSで4万RT・4万ファボほどのバズを生み、フジテレビ『とくダネ!』やTBS『リア10』で放送されるなど、話題になりました。

もし日本にすでに「面白いレシートをつくる」という文化が根付いていて、過去にたくさんの名作レシートがあったら、レシートレターは注目されなかったでしょう。この作品は、Webサイト制作も含めて、6時間くらいしかかけていません。レシートがブルーパドルだったため、少ない制作時間でも話題をつくることができました。

■レシートレター
http://receipt.nezihiko.com/

「何がコンテンツになりうるか」の系譜

この発想法を拡大解釈すると、千利休とつながります。ただの“茶を飲む行為”を茶道という“道”レベルにまで昇格させたのです。人が軽視していたものに「でも俺はイイと思う」と光を当てることで、新しいコンテンツは生まれるし、それを突き詰めると“芸術”や“道”になることもあるのです。

僕の敬愛するアーティストの赤瀬川原平さんの有名な「超芸術トマソン」も、この系譜で語ることができます。

さらに現代でいえば、みうらじゅんさん。「マイブーム」や「ゆるキャラ」という概念を定着させたことで有名ですね。いまでは当たり前になってしまいましたが、地方にある変なマスコットキャラクターに光を当て収集し、文化レベルにまで発展させたことは本当に素晴らしいことです。

生活の全てをアイデアに活かす、ポジティブ思考

赤瀬川原平さんやみうらじゅんさんのようになりたい!と思っても、あんなセンス、僕は持ち合わせていません。しかし、自分にしか見つけられないブルーパドルは必ず存在します。失恋して辛いときにしか気付けない違和感があるはずだし、こうやって記事を書いているときにしか発見できないこともあります。人間の脳は基本シングルタスクなので、森羅万象ある対象の一つひとつを深く考える機会は、人生において案外少ないものです。

デザイナーは、仕事で“問題”や“課題”をもらうので、それについては深く考えますが、それ以外についても同じように考えてみることは悪くありません。

人間の数だけ生活があるわけで、その生活の数だけコンテンツのヒントは潜んでいます。何がコンテンツになりうるかセンサーをうっすら起動させて生活することで、アイデアはもっと見つかるはずです。

そう考えると、生活していて嫌なことがあっても、それをポジティブに捉えることができます。「何がコンテンツになりうるか」発想法は、究極のポジティブ思考なのです。ぜひ、お試しください!

佐藤ねじ

佐藤ねじ(株式会社ブルーパドル代表)

株式会社ブルーパドル代表。アートディレクター/プランナー。
1982年生まれ。愛知県出身。名古屋芸術大学デザイン科卒業。デザイン事務所を経て、2010年に面白法人カヤック入社。2016年7月に独立し、株式会社ブルーパドルを設立。デジタルコンテンツの企画・デザイン・PRを仕事にしつつ、「空いてる土俵」を探すというスタイルで、様々なジャンルの「ブルーパドル」を発見することを使命としている。代表作に『ハイブリッド黒板アプリKocri』『貞子3D2 スマ4D』『しゃべる名刺』『Sound of TapBoard』など。文化庁メディア芸術祭、Yahoo!インターネットクリエイティブアワード、グッドデザイン・ベスト100など受賞多数。
https://blue-puddle.com/