クリエイションの発火点

石浦克 / TGB design.

土地の記憶や思いから”未来”の「日本のカタチ」を探す-石浦克インタビュー(3)

自分たちの足元を見た時におもしろいものがあると気づいたんです

構成・文:瀬尾陽(JDN編集部) 撮影:葛西亜里沙

デザインは主観だけではつくれない

グラフィックデザインに関して言えば、デザイナーの主観だけのデザインする時代ではなく、そのカタチの裏付けをちゃんと考えるつくりかたになっていくと思います。いま、「TGB lab」には元GK TECH代表の岩政(隆一)さんとか、ソニーから独立したARチーム「A440(エーヨンヨンマル)」など、色々な人が関わってくれています。ひとつのデザインをするにあたって、民俗学的なアプローチだったりとか、科学的なアプローチだったりとか、さまざまな角度のシュミレーションからカタチが出せるないか?そういうことをやりはじめています。

声紋からカタチを出せるかも知れない、その土地の海の音からカタチが出せるかも知れない、そういうことをやったらおもしろいなと以前から思っていて。例えば、「A440」ロゴデザインをつくる時に、彼らのチーム名は基準周波数の”440Hz”からとっているんですけど、物体の固有振動の節を可視化できるグラド二図形で”440Hz”を出して、それをグラフィックデザインに落としこんでいくという作業をしました。

グラド二図形で"440Hz"の固有振動の節を可視化

グラド二図形で”440Hz”の固有振動の節を可視化

ARチーム「A440」のロゴ。チーム名は基準周波数の

ARチーム「A440」のロゴ。チーム名は基準周波数の”440Hz”からとっている

県のマークや家紋とかもそうなんですけど、どういう歴史的な背景があるのか知る必要があると思います。いまのデザインのつくりかたは殺伐としているというか、カタチの根拠がよくわからなくなってきているから、本当にそれが必要なのかという話になってしまうんですよね。

亀倉(雄策)さんのオリンピックのロゴは単なる日の丸にも見えますけど、あれは地平線から観た太陽を象徴化した作業なんですよ。すごく自然の摂理を理解されていると思います。だから有りモノのフォントを使って、これがロゴですみたいなモノが多いなかで、どこまで考えたり調べたりしてカタチにできるかというのがこれからの課題ですね。昔のグラフィックデザイナーの本当にすごい方たちは、そこの真理みたいなものを理解していたんだと思います。

土地の記憶や思いをカタチにすると「未来」が見えてくる

かっこいい/かっこわるいの話ではなく、なにを象徴化するかだと思うんですよ。土地の歴史とか風土、思想とか哲学を理解したうえで、そのカタチを表して納得させなきゃいけないわけですよ。例えば、ある会社の商品のエッセンスをどう表現するかという時に、社長が「俺は赤が好き」たいなことで決めてしまうと、会社のなかで意見が割れてしまうので良くないと思いますね。

みんなが納得する見たこともないものをつくることはある意味で開発ですよね。グラフィックデザインが出尽くした状況ではなかなかそれができない。科学者や民俗学者、プログラマーといった他分野の人とも考えていかなくてならないと思います。そこでの調整役こそが、僕らデザイナーの仕事なんですよね。

僕はデザインは骨と肉だと思っていて、プログラミングから導き出されたカタチは「骨」とか「構造」な気がする。「肉」とはなにか考えた時に、昔から人間が持っていた能力とか、風土とか土地のカタチということかも知れない。自分は日本のカタチを知っているのか?という話になった時に、なにも知らないことに気がついたんです。911以降、自分たちが信じていたものとか、西洋文化が崩壊する感覚がすごいあって、アメリカとか海外のモノをすごい掘っていたんだけど、行き着いたらなにもなかった(笑)。ふと、自分たちの足元を見た時におもしろいものがあるとようやく気づいた、外国のモノをみるのと同じ感覚で日本のモノを見られるようになってきった。

ここ数年、僕は民芸をはじめとする「日本のカタチ」にすごく興味を持つようになりました。かつて、柳宗悦さん日本全国からさまざまなものを収集してきて、「日本のカタチ」というものを編集したじゃないですか?もしかしたら、その足跡を辿ることで、何かアップデートできるかなとも思っています。やっぱり、息子の柳宗理さんの強さみたいなものは、お父さんの影響で日本のものを小さい時からつぶさに見ているから出せる「カタチ」なんだろうなと。自分がそういう「カタチ」をつくるには何も知らない。その「カタチ」をつくるためには、さっき言ったような「肉」、例えば民芸より昔の民具、あるいはもっと土着的なカタチ、最終的には縄文までいってしまうのかな。そういう根源的なもの知ることが「肉」になってくるんじゃないかと。まあ、そこまでいくと「骨」なのかも知れないですね(笑)。

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「japan jikkan」でやったことは正にそういうことで、デジタルのデバイスのなかで土着的なものを注入する、最新のメディアにどうやって持ち込めるかということの実験ですね。ルーカスは外国人ですけど、さまざまな街道を歩いて日本を再発見するということを何年も前からやっています。ルーカスはいつも10年くらい先を見せてくれてるし、オリジネイターが誰なのかというのがわかっている。僕は「原宿」を世界に広めたのはルーカスだと思っている。90年代に「TOKION」(ルーカス氏が編集長を務めた雑誌)で世界に向けて情報発信したから、「日本ってクールだよね」となった。だから、「japan jikkan」は絶対にルーカスと一緒にやりたかったんですよ。

「日本のカタチ」を知るために、各地の職人さんとかにお話をうかがったりしていますが、それが何なのかはまだわかっていないんですけど、DJがアナログレコードを探す「ディグ」の感覚に近い部分もあります。DJはいくつかのネタとなる音源を持ってきて、それを組み合わせることで「ありえない過去」を提案していると思うんですよ。いまの時代に合った架空の過去は、なぜか「未来」に見えてくるんですよ。daftpunkにしてもそうですけど、過去のレコードからエッセンスを抽出してきて、それをいまに合うカタチで編曲すると、未来の音楽に聞こえるんですよね。

いまの僕らでは「日本のカタチ」をアウトプットできていないので、まだ探している状態です。「GKデザイン」の榮久庵(憲司)さんがデザインした醤油刺しについて、元GK TECH代表の岩政さんに聞いたことがあるんですけど、やっぱり膨大なフィールドワークをされていて、若い時から様々な「日本のカタチ」を見て学んでいたそうなんです。自分たちが、それをどうアップデートできるのか?未来の「日本のカタチ」を生み出せるのか?そういうこと真剣に考えるようになりましたね。

石浦克のしごとば

- 江戸時代に「江戸郷の総氏神」「江戸の産神」として崇敬された、赤坂の日枝神社のかたわらに「TGB Lab」は事務所を構えている。この一帯は、大正末から昭和初期にかけて、北大路魯山人が顧問を務めた料亭「星ヶ岡茶寮」があった場所としても知られている。都心とは思えないほど静かで、あたりはどこかしんとした空気が漂っている。

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クライアントの関係で、一年半くらい前に現在の場所へ移転しました。移転するなら日枝神社の近くじゃないと絶対に嫌だと思っていたんですよ。Google Earthで日枝神社を見たら、このビルがあったので「ココだ!」と思い電話したんですよ。かなりボロボロでトランクルームと化していました。

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でも、自分たちでリフォームしたら使えるなと思って。このビルは「星ヶ岡会館」っていう名前なんですけど、北大路魯山人や文化人が夜な夜な集っていた「星ヶ丘茶寮」があったところで、そうした歴史のある場所というのが良いなあと思って、ますますここしかないなあと思いました。ちなみに上に入居しているのは全員神主さんです(笑)。日本のことを知らないというのもあって、この場所は勉強するのに良いなと思います。青年会に入って、節分の豆撒きと手伝いますからね(笑)。

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「TGB lab」は、さまざまな分野のクリエーターと一緒にものを創り出していく「クリエイティブ・プラットフォーム」を目指しているので、やっぱり人が集まれる場所は大事だと思っています。

石浦氏個人では、「ミラノ国際万博2015(CIBUSèITALIA)」主催の「食」をテーマにしたアートパフォーマンス「Cibus in Fabula」で、世界で活躍するアーティスト13人のうちの一人に選出された。日本の心を伝えるグラフィティ作品「Itadakimasu」を2週間にわたって制作・披露した。

10m×7mの巨大キャンパスに、人間の体が自然の恵みからいただいた命によって成り立っているというテーマを表現。日本独特の概念「いただきます」という言葉を、世界中の人たちにも伝わるアイコンとピクトグラムを用いて伝えるものだ。

「自分たちがなにを食べて、なにとつながっているのかを、アイコンとピクトグラムで表現しました。言語がなくても伝えることができる、それがグラフィックデザインの力だと思っています。でも、40過ぎてからまたグラフィティをやることになるとはね(笑)。腱鞘炎になるくらい大変だったけどすごい楽しかったなあ」と笑いながら語ってくれた。

同作品は、2016年5月9日から5月12日にかけて開催される、「CIBUS Parma 2016」で展示予定。

TGB design.
http://tgbdesign.com/