北京悉曇ホテル

中国の山岳風景に日本の美意識を加えたリゾートホテル

中国・北京市街地から車で約1時間ほどの、古刹・譚拓寺から山道を登った「虎山」に位置する「北京悉昙(シタン)ホテル」。雄大な山々と四季折々に表情を変える豊かな自然環境の中に佇む、1000年以上の歴史がある村落をまるごとホテルにコンバージョンしたプロジェクトです。

広大な敷地内には、日建設計と野村庭園研究所の2社が共同設計した、歴史情緒あふれる風景や雄大な自然と調和した庭園があります。本記事では、日建設計ランドスケープ部の岡部真久さんと野村庭園研究所の野村勘治さんに、庭園についてのお話を中心にうかがいました。

■背景・コンセプト

本プロジェクトは、「中国北京市の山岳風景に日本の美意識を加え、壮大さと繊細さを兼ね備えた最上級のリゾートホテルをつくりたい」というクライアントとデザインチームの共通の想いからはじまりました。

38室の客室と中庭それぞれに、伝統、モダニズム、純粋さの感覚を組み合わせた独自のコンセプトがあります。リビングスペースやティールーム、ジムまで、あらゆる角度からそびえ立つ山頂と緑豊かな植物の壮大な景色を眺めることができます。

北京悉曇ホテル

北京悉曇ホテル

日本と中国を往復し続けた5年間の設計監修により、洗練された唯一無二のランドスケープデザインが完成。実際に敷地を回り、景観ポイントとなる場所に立ち、コンセプトとなる物語の情景を浮かべながらその場でスケッチに書き留めました。そうすることで、この土地のコンテクストを最大限に反映した庭をつくることができたと考えています。

2ヘクタールに広がる施設内では、あらゆる角度から周辺の山々と歴史的景観が調和した、水と緑に包まれた庭園を眺めることが可能。古びた石畳を抜ける門をくぐると、山並みと庭の起伏が重ね合わさり呼応し合う、壮大な風景が広がっています。このように遠景と近景を絶妙に組み合わせることを、日本と中国では共通して「借景」と呼びます。

松の隙間からは、かつての村落をフルリノベーションした理想郷が顔をのぞかせ、来訪者の期待を高める設計になっています。霧に包まれた坂道が、俗世から離れた地へと誘います。また、坂を下るほど心地よい水音が聞こえてくる工夫も施されています。

北京悉曇ホテル

日建設計ランドスケープ部と野村庭園研究所が共同で設計した庭園が、保存された古い家屋や古木とともに現代の東洋の美意識、禅や精神性を演出しています。インテリアデザインはTofu Designが担当。伝統的な建築美学とモダンなセンスを兼ね備えた客室は、床から天井までの大きな窓が建物の内と外の境界を和らげ、目の前の庭園とテラスから見える山々、その先の空や雲をも室内に取り込み、開放的で情緒溢れる空間となっています。

■手法・特徴

風景と歴史が溶けあうラグジュアリーなホテルの庭をデザイン

静寂に包まれた山頂にひっそりと佇む理想郷を演出洗練された景観は、5年間もの膨大な時間かけて目指した「土地のコンテクストを最大限に生かす」ランドスケープデザインの真骨頂。中国の雄大な山岳風景と集落の営みが蓄積された歴史的環境、それらをつなぎ合わせて融合させ、訪れた人に感動を与えられるような景色をつくりあげています。3本の老松と奥の山並みが呼応した、中国ならではのダイナミックさと日本の庭園文化の繊細さを兼ね備えた、都会では感じることのいできない貴重な風景です。

北京悉曇ホテル

造園における重要な構成要素「石組み」へのこだわり

石組みとは庭園に据える景石を組み合わせたもので、据えるポイントによって庭園の格を左右する重要な構成要素です。中国や日本の庭園はもともと、自然の風景を再現したものとされており、池は海や川、石は山などを表現するといわれています。そのため設計者は、その石の一番良い表情を見つけるべく、立体的に石を把握し、どの1点で吊り上げれば最良の表情になるかを吟味します。本プロジェクトでは背丈よりも大きな石から最良の表情を探し出し、緻密な石組みを実現しました。

北京悉曇ホテル

景石調達の様子

所在地 中国北京市門頭溝区潭王路六区10号
事業主 北京悉曇酒店管理有限公司
ランドスケープ設計 日建設計、野村庭園研究所
インテリア設計 Tofu Inc.
施工 順景園林
敷地面積 約21,000m2
延床面積 約13,000m2
開業日 2022年5月1日
撮影 北京悉曇酒店管理有限公司(提供)/重慶日野撮影