長崎県のほぼ中央部、大村湾の東側に面した町・長崎県東彼杵町(ひがしそのぎちょう)につくられた「uminoわ」。
設計を担当したのは、長崎県にオフィスを構えるINTERMEDIAの佐々木翔さんと南里史帆さん。人口減少が課題のこの地で、着実に利活用されていく建築をという想いでつくられた建物の特徴などをご紹介します。
■背景
「uminoわ」は、長崎県東彼杵町の国道34号線沿いに建つ建築です。一日約1万6,000台の交通量があり、海側には長崎街道千綿宿が近接しており、江戸時代から続く交通要所のひとつと言えます。そこにコインランドリー・縫製場・カフェ・多目的スペースをはらんだ、地域の新たな拠点となるような建築を依頼されました。
周辺にはこの敷地を囲うように民家が立ち並んでいることと、敷地中腹にある車両進入口の位置変更が安全上難しい状況だったこともあり、駐車場を敷地の中心に据えた配置計画としました。中央を空白の場所にすることで周辺への圧迫感はなく、またイベントをおこなう際には住民から見れば借景としてその賑わいを楽しむことができます。そのような関係性をつくる中で残った場所、畑や倉庫が面する東側の端っこの部分に建築を立ち上げました。
■コンセプト
この建築は平面で見ると直角二等辺三角形です。残った敷地東側の端っこがちょうど三角形状だったことと、正方形を対角線上で切断し、その切断面を道路側に向けることで、限られた予算(ウッドショックなども影響し始めた頃でした)の中で最小限の面積で効果的に広く間口を確保し、ここでのさまざまな活動を周囲に浸透させていきやすくしたいと考えました。
その切断面には奥行き2.4mのテラスを設けて、野菜販売やポップアップストアなど半屋外的な活動をおこないやすくしています。テラスはそのまま屋内へと連続的に繋がり、Web配信もできるような多目的スペースが広がり、そこに他の小さな場所(縫製場、コインランドリー、カフェ、屋根裏スペース)がぶら下がっているような図式をつくりました。
■課題となった点、手法、特徴
計画地である東彼杵町は「そのぎ茶」で知られるお茶の産地であったり、大村湾沿いを走るJR大村線の穏やかな風景、江戸時代に栄えた長崎街道千綿宿など、特徴的な資源が数多くある町ではありますが、全国各地の地方と呼ばれる場所と同じく、人口減少や空き家の増加は喫緊の課題でした。特に東彼杵町は長崎県内の市町村人口数においてワースト2位、離島を除けば1位であり、深刻なエリアであると言わざるを得ない状況です。
本計画のクライアントである「東彼杵ひとこともの公社」の代表理事、森一峻さんはもともと東彼杵町出身で、就職により地元を離れた後にUターンで戻ってきてから活動を始め、U・J・Iターン者のチャレンジ出店を支援し、8年間に25店もの店が新規開店しています。それらの活動の流れの中に本計画も位置づけられており、たとえば施設内にある直角二等辺三角形のテーブルは構造用合板の3×6板を前提に、歩留まりよく簡潔に施工できるように設計し、これまでのさまざまな活動で繋がっていた地元の東彼杵町の住民たちとともに施工されています。
また、上棟時に餅まきのイベントをおこなうことで新規オープンの前から施設のことを周囲の方々に知っていただく仕掛けをおこなったり、東彼杵町のさまざまなキーマンを取り上げたり発信したりするYouTubeスタジオとして屋内の多目的スペースを活用したりしています。それらはすべて設計時から議論しながらつくり上げたものであり、さまざまな活動を設計要件として着実に掴み取り、建築として積み上げることにエネルギーの大半を費やしたような気がしています。
人口減少や過疎化していく場所にとって「ハコモノ」をつくる余裕は時間的にも経済的にもなく、着実に利活用されていく建築をつくる必要があるという危機感を持ちながら取り組んだプロジェクトの一つです。
所在地 | 長崎県東彼杵町千綿宿郷1325-1 |
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設計・監理 | 佐々木翔、南里史帆/INTERMEDIA |
構造 | 円酒昂/円酒構造設計 |
照明 | 佐藤政章/B&Lighting |
施工 | 里山建築 |
家具施工 | 齊藤仁、照山太一、東彼杵のみなさん |
ロゴ・サイン | 羽山潤一/DEJIMAGRAPH |
構造 | 木造2階建て |
敷地面積 | 1214.54m2 |
延床面積 | 192.49m2 |
竣工日 | 2022年2月17日 |
撮影 | YASHIRO PHOTO OFFICE |