サウナ「SAZAE」

空気の流れも設計し、最適な温度湿度を保つサザエ型のサウナ

彫刻作品のようなインパクトのある外観を持つ建物は、香川県・直島の小さな入江にあるグランピング施設「SANA MANE」の中心に建つ、2022年10月にオープンした有機的な木のサウナ「SAZAE(サザエ)」。

設計は、隈研吾建築都市設計事務所の隈太一さんが担当しました。「SAZAE」を担当された背景や特徴などについて隈さんにお話を伺いました。

■背景

「SANA MANE」はドーム型のテントを使ったグランピング施設です。もともとテントを使ったサウナを運営されていましたが、オーナーの意向で常設のサウナをつくるべく、建築家を探していたんです。

サウナ好き・サウナを理解している建築家という希望があり、グランピング施設の照明を担当されていた、建築照明計画株式会社のALGの小西美穂さんが、僕が自宅の別荘につくった「サンカクサウナ」を見つけてくれて、オーナーの眞田さんに紹介してくださいました。

偶然なんですが、小西さんのお父さんがALGの社長で、僕の父、隈研吾とも昔からの友だちということで、「じゃあ、隈事務所でお願いしようか」という話になりました。僕を中心に、オーナーの眞田さんと話をしたら意気投合し、プロジェクトがスタートしました。

■コンセプト

「SAZAE」は、素材を削っていく加工である「CNC加工」を施した、24mm厚みの合板を150段積み重ねてできています。ソリッドな木の塊のサウナは、壁の厚みを平均450mmとすることで断熱性、保温性を担保しています。

サウナ「SAZAE」外観画像

サウナ「SAZAE」内観画像

直島なので、「アート的なものを目指してつくったのではないか」と言われるのですが、はじめからサザエのかたちが出てきたわけではなく、オーガニックな内部空間をつくりたいというモチベーションがありました。どちらかというと内部の話で、デザインチームの坂牛陸郎くんと、アメリカのアンテロープの削られた洞窟のようなトップライトが入ってくるサウナがいいのではないかという話をしていました。

また、サウナ室は四角い椅子やベンチがだいたい普通だと思いますが、ベタっと横になれたり寄りかかれたりするような、人間の体の曲線に合うデザインがいいよねという話から、内部空間が決まっていきました。

僕がこだわったところとしては、トップライト、座る面の曲率をつくる、細かいひだをいかにつくるかという点でした。外部も内部の流れを連続させるような形でつくったところ、進行しているうちに貝っぽくなっていったんです。貝のなかでも特に「サザエ」に似ていること、サザエは瀬戸内海にいるという親和性、さらにサウナマンガの『サ道』のように「サ」がつく貝がしっくりきていいんじゃないかという経緯がありました。

■手法、特徴

外部は貝のような、細かいひだを持たせることで、表面に印象的な陰影をつけています。内部では、ひだを緩やかにすることで、体の曲線になじませ、リラックスできる座り心地を実現しています。天井のトップライトのみ光が差し込むことで、瞑想的な体験となります。

サウナ「SAZAE」外観画像

サウナ「SAZAE」内観画像

合板1500枚を使用した複雑な形状ですが、3D CADを用いてプログラミングされているため、形状のデザインと合板のパネリングは連動してコントロールされていました。一般的なサウナとは異なって高い天井高であるにも関わらず、環境シミュレーションを駆使し、強制換気による空気の流れも設計したことで、温度・湿度とも最適な状態に保たれています。

サウナ「SAZAE」断面図

ストーブの空間が大きく天井高が高いため、直接蒸気を浴びるというよりも1回上がった蒸気を下におろしてきて、それを浴びるというシステムです。やさしく温まり、長く入れるサウナで、初心者にもおすすめです。

サウナの熱すぎたり、乾いた感じが苦手という方にも楽しめるように、かたちだけではなく体験として気持ちいいサウナができたかなと思います。また、「SAZAE」の横にあるくぼみの水風呂に入ったり、そこから海に直接浸かることもできます。

■今後

スノーピークのモバイルハウス「住箱」を利用したサウナを制作しています。トレーラーハウスなので車輪がついていて、サウナがほしいグランピング施設や、ちょっと広めのお家に置いていただくとすぐに本格的なサウナを楽しむことができます。

所在地 香川県香川郡直島町横防2182
設計 隈太一/隈研吾建築都市設計事務所
施工 株式会社三友建装
構造 江尻建築構造設計事務所
設備 真田電気設備株式会社、木村プロパン株式会社、株式会社ビイ・エス・エイ
照明 ALG-建築照明計画
協力事務所 スタジオノラ
写真撮影 © Keishin Horikoshi / SS