淡路島・Y邸の修理

新旧の意匠がお互いを引き立てながら共存し、調和していく住宅

淡路島の東側、目の前に瀬戸内海が広がる土地に建つ、築130年の木造住宅を改修したプロジェクト。

改修を手がけた、河上友信空間設計事務所の河上友信さんに、改修の背景やコンセプト、手法などについてうかがいました。

■制作背景・コンセプト

建主は「昔ながらの日本の住まいの良さを活かしつつ、現代の生活様式に沿うような計画」であること、「これまでの100年超の歴史を、100年後の未来も持続可能であること」を希望していました。

そこでテーマにしたのは、「古いものの価値を見出しながら新たなデザインを取り入れること」です。1つの空間の中で新旧の意匠がお互いを引き立て合いながら共存し、時を経て調和していくことを目指して設計しました。

日本の住宅は元来、その土地の木と土と紙でつくられており、それが何百年も建ち続けることができる理由だという考えをもとに、瓦、杉・桧、土、砂など必要な材料はできるかぎり島内で調達しました。主要な工種(屋根、大工、左官、建具など)については地元の職人による施工としました。瓦は総葺替えにし、躯体は専門家による調査の上、充分な補強を施しています。

■課題となった点や手法

過去の無理な増築・改修によって、特に水まわりの劣化が進んでいた北側部分は一旦減築したあと、本体に準じる構造で再度増築し、現代の暮らしに沿うよう新たに設備をインサートしました。対して、居室が集まる南側部分は、創建当時の手仕事が保存されていたため、表層替え(漆喰、和紙、畳)の上、美装にとどめました。外装仕上げは、漆喰、杉板貼など。内装仕上げは、土壁、漆喰、和紙貼、杉板、桧板、三和土、洗出しなどを施しました。

この地域は島の中でも最も気候が安定しており、人工のエアコンディションは採用していません。夏は建具(ガラス、障子、襖)の開け閉めによって風の通りを調節し、冬は炭と薪で暖を取ることで、年間を通して快適に過ごすことが可能です。水はこれまでと同様に井戸水を利用し、ごはんはかまどで炊きます。地の利や自然環境、エコ燃料などを最大限に利用することで、人にも地球にも負荷をかけない暮らしが実践できます。

無垢の木や土、瓦屋根をもつ家は、日々の気遣いさえあれば永く美しく保つことができ、劣化ではなく味わいを増していきます。100年を越えて残されてきた価値を尊重し、未来を見据えて再構築するように行った今回の「修理」によって、「持続可能な暮らし方」の一案を提示しました。

ASIA DESIGN PRIZE 2020(Korea)WINNER を受賞

河上友信空間設計事務所
インテリア設計、建築デザイン、家具デザイン、展覧会および展示会構成など、空間に関するデザインから企画、ディレクションまで幅広く行っている。デザインワークでは、まず「思い」をじっくり聞き取り、場所の特性を読み取り、コンセプトを拾い出し、イメージをふくらませ、アイデアを整理しながら唯一無二の空間を創り上げている。「淡路島・Y邸の修理」では、ASIA DESIGN PRIZE 2020(Korea)WINNERを受賞した。
https://tomonobu-kawakami.com/
所在地 兵庫県淡路市釜口
設計 河上友信/河上友信空間設計事務所
協力 蓮池亜紀/はすいけ
施工 株式会社平田工務店
構造 杉山 英俊/レイ建築設計
施工床面積 138.11㎡
延床面積 138.11㎡
竣工日(開業日) 2017年2月
撮影 笹倉洋平/笹の倉舎