木の風景

地域に根ざした製材の技術を垣間見ることができる、木材展示ギャラリー

デザインコンセプト
担当:伊藤立平建築設計事務所

山口県の長門市で、先代から製材業を生業としている建主が、市街地から離れた山に住みながら木材展示ギャラリーを営むことにした。立地は駅から近く、かつて賑わっていた商店街や幹線道路沿いに並ぶ大型店舗など、地方都市の風景が広がっている。

長門市の山は、赤松から椎などの広葉樹へ植生の交代があり、山から集まるさまざまな樹種が樹皮、チップ、おが屑、建材、造作材、木細工などに分類加工されていく。その様子は、山と人の営みが時間をかけて築いた関係そのものだった。この地で製材を生業にすることは、山の生態を理解しながら共存する方法を模索することでもある。そこで木材展示ギャラリーの空間は、“地域に根ざした製材の技術や生業を再び街へ開くこと”をテーマとした。

広葉樹材は曲がりやすいため、2m以下の比較的短い材が取りやすい。また、製材工程の中で、節・変色・虫食いなどによる不適格材が出る。工程の中で生まれる材寸を活かしながら、建築の構法としても利用できるのではないかと考えた。短めの板材をビスと楔(くさび)を用いて縦材を挟みながら横材を組み上げる構法で、自由な大きさの連続壁をつくることができる。

建物の架構には、このような組壁と一般的な柱・梁が併用されている。組壁によって緩やかに区切ることで、ギャラリーと住居を両立させ、周囲の街やアプローチの庭、中央のギャラリー兼LD(リビングダイニング)、奥の内庭が連続して体験できる空間になっている。和室とその上のテラスは外と内とを繋ぎ、プライベートな諸室は庭やギャラリー兼LDを立体的に囲むように配置されている。

地域に根ざす製材技術とその由来を辿り、建築の位置付けを再考する。山に近い製材所で切り出された木材を市街地で組立てることで、改めて今日的な姿で生業が垣間見える場をつくる。その具体化を目指す取り組みが、生業と周辺の街との関係を新たに築き直し、自然と人の関係が築いてきた豊かな営みの価値を広めることに繋がればと考えている。

所在地 山口県長門市東深川
意匠設計 伊藤立平建築設計事務所
構造設計 桃李舎
施工 株式会社シンラテック
面積 144.87m2
構造 木造
階数 地上2階
撮影 山田圭司郎