浅川商店平群駅前計画

「職」と「住」の近さを活かした空間

デザインコンセプト
担当:伊藤立平建築設計事務所

奈良県平群町は生駒山に近く、歴史のある谷沿いの古い町だ。建主のご夫婦が都市部での生活に一区切りをつけ、地元の平群町に戻って「職」と「住」を共にしながらこれからの生活を営むことになった。きっかけは、建主の先代が長年営んできた商店が、旧道沿いの道路拡幅の対象地となったためだ。平群駅前の広場も同時に整備されていくため、それに合わせて商店を引継ぎながら、ご主人のオフィス、奥様の鞄工房、カフェ、ご夫婦のための新たな住居が一体となった建物を計画した。

敷地は、これから整備されていく予定の平群駅前の広場に面している。建物は木造の平屋建てで、広場に面するようにオフィス、カフェ、鞄工房、住宅が並ぶ。広場との間には歩行者のための空間が確保されている。カフェには来た人が誰でも使えるキッチンや、その場で買って飲食することができるテーブルが設置されている。ご主人は構造デザイン事務所を、奥様の鞄工房では、製作・教室をしながらカフェの運営ができるように、低めの壁を介して部屋同士が繋がるようにしている。

周辺の駅・広場・バス・停留所のスケールがとても小ぶりなので、それに呼応するように商店の店先にふさわしい低めの軒高さを取った。窓は高さを2倍にしたものを配置し、広場と一体になるようなオープンな構えをつくり出している。室内には、低い平屋の屋根と高い窓の屋根が交互に連続し、高低差のある空間が生み出されている。

広場に面した歩行者の空間には、窓枠から延長された木製の庇やベンチがある。カフェや工房の窓には、カーテンを反転して外部に取り付けることで、視線だけではなく光と熱をより効果的に調節し、季節や天候に応じて天幕状に拡げることができ、日除けや雨除けの役割を持たせている。ベンチは広場側から縁台のようにも使え、来客だけではなく、バス待ちや通りがかりの人も気軽に立ち寄れるようにしている。

「職」と「住」が近い良さを活かし、肩肘張らず、居間の延長として人々が集い、長く親しまれる場所になればいいと考えている。

所在地 奈良県生駒郡平群町
意匠設計 伊藤立平建築設計事務所
構造設計 あさかわ設計
施工 コハツ
屋外カーテン設計施工 ファブリックスケープ
植栽設計施工 和想
面積 175.98m2
構造 木造
開店時間 10:00~17:00
定休日 木曜日(土曜日・日曜日・祝日は事前予約制)
撮影 植村裕美(★)、梅田彩華(●)、山田圭司郎