急勾配の屋根を持つ日本の住宅建築様式の一つ「合掌造り」。その伝統の住宅建築様式が根付く、富山県の南西端にある五箇山の集落に、現代の合掌造りを実現した建築が2019年10月に完成しました。
この宿泊施設「まれびとの家」は、2020年度のグッドデザイン賞にて、グッドデザイン金賞を受賞。設計を担当したのは、デジタルテクノロジーによって建築産業の変革を目指す設計集団・VUILD株式会社。彼らに、今回のプロジェクトに関して、実現するまでの背景やコンセプトなどをお伺いしました。
■背景
「まれびとの家」は、3D木材加工機「ShopBot」と地元の木材を使い、製作を半径10km圏内で完結させることで、これまで避けられなかった長距離輸送や環境負荷、時間、コストを削減することができるのではないか?という考えのもとに生まれたプロジェクトです。
「まれびとの家」の建設は、現地の素材生産者が木材をデジタル加工することで、既存のバリューチェーンを介さず、直接エンドユーザーに製品を届けられる仕組みをつくる狙いがあり、そのプロトタイプと言えます。
また、竣工後には短期滞在型シェア別荘としての役割を担うことで、「観光以上移住未満」の家のあり方を提案し、人が入れ替わりで「家」を共有していくことで「都市」と「地方」を結ぶことも目的のひとつとしています。五箇山の集落に根付く伝統の合掌造りと地域の木材、現代のデジタルテクノロジーを融合させることが、新しい建築のかたちをつくることへの表明となっています。
■コンセプト
敷地である富山県南砺市利賀村は、面積の約97%が森林に覆われた人口約600人の村です。この地域で林業が成り立たないのは、伐っても売れないことにあります。その理由は、都市流通から大きく外れていることとその材の規格。「大径木」や「根曲がり材」は流通規格に乗らず、既存の流通に載せたとしても利幅が少ないのです。
こういった課題に対して私たちが提案したのは、非規格材を歩留まり良く加工し、建築化することです。まず、高性能で安価なデジタルファブリケーション機器を導入することから始め、次に非規格材を有効に利用する方法として、丸太を「だら挽き(伐採した木を建築用の木材として製材するときの方法の1つ)」した板材による構法を考案しました。
移動性も考えて貫材を1mに、梁材を3mに設定し、貫と梁は約1,000以上のデジタル加工された仕口(部材の接合部分)と込栓(柱に通した貫などを固定するため、柱の側面から打ち込む小木片)で固まる仕組みにすることによって、木材調達から加工建設まで半径10km圏内で完結することに成功しました。
最終的にでき上がったのは、関係人口を増やすことを目的にした「まれに訪れることのできる」家です。地域に世界遺産として残る「合掌造り」は、地域住民の手によって持続可能な生態系の中でつくられていました。扶助の仕組みを再起すべく、デジタル加工技術という現代の技術を用いて、現代の合掌造りを提案することを試みた事例です。
■課題となった点、手法、特徴
五箇山には、相倉および菅沼に代表される「合掌造り」や、町屋構法として「枠の内」といった伝統構法が存在します。前者は、チョンナ梁(根曲がり材)の上に、扠首組(さすぐみ)が駒尻(ピン)で乗った「柔の構造」であり、後者は杉の柱に欅の梁が井桁状に組まれた「剛の構造」。これらを組み合わせることで、壁でありつつ屋根であるような、合掌の形をしつつ井桁で組まれているような、そんな意匠を考案しました。
また、現代版の合掌造りを構想するにあたって、採光をきちんと確保しつつも、風通しと暖かさが得られるように計画しました。本家合掌造り同様に妻面(建物の棟に直角に接する側面)を南北に配置し、平行して走る山脈を「巨大なU字溝のような風の通り道」と見立て、東側のファサードにウィンドキャッチャーの機能をもった開口部を設けることで、平(ひら)面から風や光を建築内部に取り込むこととしました。
構法を考えるにあたり、流通規格に乗らない五箇山の「大径木」や「根曲がり材」を活用することを意識しています。そのため、丸太を36mm間隔でスライスすることで生まれる板材を用いてできる手法を考案しました。仕上がり寸30mm厚は、一般的には薄すぎますが、「素人でもつくれる家具の延長としての建築」というコンセプトを実現すべく、試作を繰り返すことで仕口の寸法を決めていきました。
最終的には、合掌板に貫板を両側から差し込み、込栓で仕口を締め、その上で枠板が取り付くことで、回転剛性に抵抗する接合部を考案。結果的に1,000以上の部材と1,000以上の接合部が生じ、加工手間は増えましたが、機械加工ゆえに狂いは少なく、現場での作業も多くありません。また、一つの部材が軽いため、これまで建設に関わることが少なかった子どもや女性、高齢者も建築に参加できることになります。さらには、一つの部材が小さいので、移動性に優れ、狭小地や傾斜地といった足場がない状態での建築が可能となりました。
所在地 | 富山県南砺市利賀村大勘定433 |
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設計 | 秋吉浩気、黒部駿人、高野和哉、小川幸起、加藤花子/VUILD株式会社 |
用途 | 短期滞在型シェア別荘 |
施工 | 関弘幸、中島志伸、林敬庸、中嶋智之、河野竜太、小島一隆/VUILD株式会社 |
構造設計 | yasuhirokaneda STRUCTURE |
環境設計 | DE.lab |
構造 | 木造 |
階数 | 2階 |
敷地面積 | 330.08 |
延床面積 | 58.34 |
竣工日 | 2019年10月竣工、2020年9月運営開始 |
撮影 | 太田拓実(竣工写真)、VUILD株式会社(施工写真) |