東松山の家

既存部と増築部を共通のマテリアルで返し縫うよう計画した家

デザインコンセプト
担当:工藤浩平建築設計事務所

敷地は先祖代々300年以上前から住み続けてきた自然豊かな土地(埼玉県東松山市)を、約110年前に分家として分かれた場所である。家族の変化や木々の成長と共に改修や増築を重ねる中、建主である夫婦は2世代前に建てられた「母屋」と建主の世代に建てた「離れ」のふたつの家の間を、行き来して過ごす生活をしていた。

物件「東松山の家」改修前

改修前

時間が流れ、ふたり暮らしになった建主は娘夫婦や孫たちを呼ぶことができる新しい生活を希望していた。そこで、建主世代に建てた思い入れのある「離れ」を残しながら、この土地が持つ豊かさを取り込み、未来に引き継ぐ改修と増築を行うことにした。

改修後、上空から見た風景

改修後、上空から見た風景

既存の建築と敷地内の庭、隣接する本家の自然、新しくつくる増築部といった要素を、バラバラではなくまるごとひと繋がりの環境にするために、それぞれの状態に合わせてストラクチャー(構造)を直したり新しく足したりしながら、既存部と増築部を共通のマテリアルで返し縫うように計画した。構成として、既存部に対して3つの性格の異なるガーデンをつくりながら、大きなふたつの屋根を増築。ひとつは食事やくつろぎに集う「リビンク・キッチン棟」、もうひとつはほとんどが屋外の軒下空間の「なんでもテラス棟」である。

物件「東松山の家」左:なんでもテラス棟、右:リビンク・キッチン棟

左:なんでもテラス棟、右:リビンク・キッチン棟

2枚の屋根は合理的かつ経済的に大きくつくるために木製サンドイッチパネルのストラクチャーとし、屋根の形状は周辺環境や光や風、使い方に合わせて角度や高さをつけ、立面が固定されないやわらかな関係をつくった。たとえば、なんでもテラスの本家側の軒は1,900mmまで下げることで視線を遮りつつも庭を繋げ、また中心は4,600mmまで軒を上げることで光を取り込み、人の集まる場をつくった。

物件「東松山の家」なんでもテラス棟の軒

なんでもテラス棟の軒

既存離れの前面部には新しくアルミ造のサンルームをつくり、生活の場を外へと押し広げた。その際、古くから残る井戸をアルミサッシで抱き込むかたちで残し、以前の面影を残しながらも増築部に置いていかれないよう、アルミサッシやスチールのストラクチャーを増築部と同じ色合いに塗り直して新しいガラスで囲った。壁や建具にも増築部と同じマテリアルを持ち込んだ。そのように、今までの記憶や愛着をどう引き継げるのかを考えるのと同時に、既存のものに過度に媚びることなく、生活の瑞々しさを取り戻すよう部分に対応しながら直していくと、どこからが既存でどこまでが増築か分からない不思議な状態が生まれた。

物件「東松山の家」既存の離れに新しくガラスで囲った空間

既存の離れに新しくガラスで囲った空間

改修前・離れの2階ベランダ

改修前・離れの2階ベランダ

改修後・離れの2階のベランダをサンルームに改修

改修後・離れの2階のベランダをサンルームに改修

以前からあったもの、新しく持ち込まれたもの、すべてが並列に置かれ、その背後に豊かな自然が広がっている。これまでの不便ささえも乗り越えてきた建主の生活のたくましさが、おおらかな環境と混ざり合い、程よい緩さが現れた。全部がバラバラなストラクチャーでありながら、お互いにギュッと手を掴みあったようなひとつの家ができたと思っている。

物件「東松山の家」全体画像

設計 工藤浩平、小黒日香理/工藤浩平建築設計事務所
住所 埼玉県東松山市
主要用途 住宅+多目的スペース
施工 住建トレーディング+東急ホームズ
施工協力 シェルター
構造 改修:鉄骨造+木造 増築:木造、鉄筋コンクリート構造、アルミ造
階数 地上2階 
敷地面積 688.26m2
建築面積 改修:47.19m2 増築:112.39m2
延床面積 改修:88.59m2 増築:112.39m2
撮影 中村絵