だぶるすきんの家

内外の適度な関係性を保ちつつ、光や風とのつながりを感じさせる2枚の壁

デザインコンセプト
担当:佐藤信/青木茂建築工房

大分県大分市にある、100m2の土地と築32年の85m2の建物の改修計画。施主の要望は「思い出のある家を改修して使う」こと、「駐車場を並列で2台確保」すること、「大きな窓はいらない」というものだった。既存の建物を調査したときに驚いたのは、築30年で償却期間を終えて価値の付かない住宅にも関わらず、既存の建物がしっかりしていたことだった。RC(鉄筋コンクリート)の基礎は爆裂や露筋もなく綺麗なままで、床下には湿気もない。土台や柱には腐食や割れはなく堅固に建物を支えている。数回の中規模地震を経験している建物であるが、まったくもって健全な建物であった。

「だぶるすきんの家」改装前の画像

改修前

まず要望の駐車場を並列で2台確保したいという、建物の配置に関わる課題を解決する必要があった。既存の建物配置では並列で2台の駐車場は不可能だった。そこで、既存の建物を真ん中でカットし、片側の棟を90度回転させて移築すれば、並列で2台の駐車場を確保できると考えた。この改修方法により、基礎工事は半分で済み、既存の構造部材はすべて活用することができた。

「だぶるすきんの家」建物の配置を説明する図

建物の配置図

「だぶるすきんの家」の既存の建物の残した部分の画像

既存の建物を真ん中でカットした様子

プライバシーの問題は主要な課題だった。団塊世代の住宅需要に合わせて小規模開発されたこの住宅地は、周辺の住宅とのプライバシーは考慮されていないように思えた。既存建物は十分な開口面積の割に外部環境を有効に取り入れることができていなかった。たしかに周辺状況を観察すると北側以外はすぐ隣地があり、窓を設けてもカーテンで遮らなければ生活が丸見えになる。そこで、駐車場と建物の間の45cmのスペースに「だぶるすきん」と称した細長い建築を付加した。

「だぶるすきんの家」外観画像

外観

新たに建てられた2枚の壁には外側と内側に互い違いに開口部が設けられており、その2枚の壁の隙間に通風と採光をとるための小さな窓を設置した。「だぶるすきん」の開口にはカーテンは必要なく、北側からの安定した間接光を常に建物内に取り入れることができる。「だぶるすきん」は内部と外部の適度な距離感と関係性を保ちつつ、光、風、外とのつながりを体感させてくれるパッシブな環境調整装置となった。

「だぶるすきんの家」室内画像

室内

その後の施主の暮らしぶりを見ていると、「だぶるすきん」の隙間から注がれる光や風を体感する喜びをあらためて楽しんでいるようである。外の環境に対しては閉じながらも、身体の感覚を開く住宅となった。

設計 佐藤信/青木茂建築工房
所在地 大分県大分市
主要用途 個人住宅
施工 平野工務店
構造 在来木造
階数 地上2階
敷地面積 100.12m2
建築面積 50.10m2
延床面積 89.19m2
撮影 上田宏(既存写真以外)