- デザインコンセプト
- 加藤匡毅/Puddle Inc
京都烏丸御池交差点から徒歩1分の好立地に残された、3軒続きのちいさな町屋の1つを酒&ビアバーへと改修したプロジェクト。元造り酒屋の施主は蔵元の復活を目指す一方で、減少する京町家の保全活動を進めたいという想いを持っていた。その事業のコンセプトにシンパシーを感じ、デザインをスタートした。建物はいわゆる奥行きのある京町家ではなく、「手前のボリュームが素材感と共に時代に取り残されている」という違和感を放っていた。
そこで、この違和感を最大限に生かしつつ、ふと立ち止まりたくなるような、人と建築の距離を近づける場を烏丸通りに立ち上げることを命題とした。既存の土間を利用しつつ、いかに外部に開かれた内部(もしくは内部へと続く外部)を創造できるか。モルタル、ラワンといった既存建築でも多く使用されていた素材を用いて、現代の職人の技と経年変化した素材との対話を魅せることとした。
土間台所があった場所には、日本家屋のかまど「竈(くど)」からインスパイアされたモルタル塊のクラフトビールサーバーを設置。桜の枝の皮4面を削ぎ落としてつくった八角形のハンドルは、長さの違いが静かな個性を発揮し、この店のアイコンとなっている。
2階の床は半分以上抜き、猫の額ほどの裏庭から十分に光の入る階段室をつくった。店内に入った瞬間に心地よい開放感を時間の経過と共に感じられるものとなった。
店内は奥に進むにつれて床・家具の高さを変化させ、さまざまなコミュニケーションが生まれるきっかけを期待した。振り返るとすぐそこにあった烏丸通りは、借景としてファサードにフレーミングされる。この雑多な吹き抜け部に、イカ釣り漁船用ランプの街灯を配置し、空間に一体感をつくり出した。その特徴的フォルムの下にさまざまな環境から集まった個性豊かな人・酒・ビールがみせる賑わいをイメージしながら設計を進めた。
吹き抜け面のドット壁は、古い建築に対して規則的で清潔な印象をつくり出すとともに、隣家への防音配慮機能も兼ね備えている。このドット壁が、施主の大好きなモノクロ映像を投影するのに最適な位置であったことは、施行中の嬉しい発見だった。時代を超えて語られる酒と会話と建築とが、現代の京都の新しい灯となるように願いを込めて。
所在地 | 京都 |
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施主 | 株式会社酒八 |
業態 | 日本酒・ビアバー |
設計 | Puddle Inc+CHAB DESIGN |
構造 | 木造 |
面積 | 59.47m2 |
竣工 | 2016年5月 |
Photo | Takumi Ota |