キ―ワードは「じぶんごと」、超市民参加型プロジェクト - 地下鉄東西線WE(2)

キ―ワードは「じぶんごと」、超市民参加型プロジェクト - 地下鉄東西線WE(2)

プロデュースメンバーが仙台市民に伝えたこと

「WEプロジェクト」プロデュースメンバーについて改めて紹介すると、志伯健太郎氏(クリエイティブディレクター)、古田秘馬氏(プロジェクトデザイナー)、戸田宏一郎氏(アートディレクター / コミュニケーションディレクター)、小山佳奈氏(コピーライター)、齋藤精一氏(クリエイティブディレクター / テクニカルディレクター)、西田司氏(建築家)、という超がつくほど豪華なクリエイターがそろった。

これだけのメンバーがそろって何かをつくれば、確実におもしろいものができてしまうだろう。しかし、このプロジェクトで重要なのは、市民プロデューサーを育てることがミッションであり、プロジェクトを動かすために必要な考え方を伝える講師としての役割が求められた。プロデュースメンバーがなにかをつくるのでなく、あくまで主役は仙台市民なのだ。

「WEプロジェクト」プロデュースメンバーの志伯氏、戸田氏、齋藤氏、西田氏に、「WEプロジェクト」におけるプロデュースメンバーの役割や、市民プロデューサーに期待することなどをうかがった。

左上より、志伯健太郎氏(クリエイティブディレクター)、古田秘馬氏(プロジェクトデザイナー)、戸田宏一郎氏(アートディレクター / コミュニケーションディレクター)、小山佳奈氏(コピーライター)、齋藤精一氏(クリエイティブディレクター / テクニカルディレクター)、西田司氏(建築家)

左上より、志伯健太郎氏(クリエイティブディレクター)、古田秘馬氏(プロジェクトデザイナー)、戸田宏一郎氏(アートディレクター / コミュニケーションディレクター)、小山佳奈氏(コピーライター)、齋藤精一氏(クリエイティブディレクター / テクニカルディレクター)、西田司氏(建築家)

ー地下鉄をコミュニケーションツールに

戸田宏一郎(以下、戸田):このプロジェクトが始動した2014年、「まちづくり」とか「地方創生」の話が色々動きはじめている時だったので、僕はこれはすごく良いチャンスだと思いました。こういう大きな事業に参加できることは勉強になるし、言い方は良くないかも知れませんけど、こんなに面白いケーススタディはないなと思いました。

西田司(以下、西田):既存の南北線に東西線が加わると、X軸とY軸で街を電車で移動できるようになります。最初から言われていたのは、電車で移動する人は劇的には増えないだろうと。基本的には電車移動より車移動の街だから。でも、そこに沿線という概念が生まれて、そこに住んでいる人たちが「○○駅が最寄りです」と言えるようになるのは大きなことだと思うんです。100万人以上の人が住んでいて、大きな企業もあって、大学も沢山あって、その人たちが何かを発揮する場所が東西線の開通によって生まれるのであれば、その市民参加の形はとても新しいと思う。駅をコミュニケーションのツールとして考えられたら、駅という場所の価値が移動手段以上のものになっていくんじゃないかと思います。

全13駅が新たに仙台市の交通網に加わる

全13駅が新たに仙台市の交通網に加わる

齋藤精一(以下、齋藤):「まちづくり」というと、どうしてもおじいちゃんおばあちゃんとか、子どもに目が行きがちで、若い人たちのことが忘れられてるような気がするんですよね。SNSをよく使ってるような子たちとか、面白いことを求めているような人たちが、デジタルツールを使って「まちづくり」に+αできないかなと僕は思っていました。そもそも仙台は転勤族が多いらしくて、仙台在住5年以内の人が人口の3割を占めるそうです。東京に行って出戻りの方もいるし、大学で仙台に来てそのまま就職する方もいる、すごくダイバーシティだなと感じます。市民の方と話していて、色々な案が出て来た時にすごい思いましたね。

ープロデュースメンバーの役割

志伯健太郎(以下、志伯):大まかに「市民プロデューサー養成講座」を担当するプロデュースチームと、「市民メディア隊養成講座」を担当する制作チームに分かれてたんですよね。プロデュースチームはつくるよりも考えることに若干重きを置いていて、制作チームの方はどちらかというとつくるほうに重きを置いていたんですが、最終的には2つ一緒になったみたいな感じですね。

戸田:(古田)秘馬くんは両方のハブになっていて

志伯:僕ら(志伯・齋藤・西田)3人とも建築の出身なんですよ。建築ではエスキース(計画初期時にコンセプト、概念図などを簡易にまとめ、検討する際の資料作成作業などの行為)というやりかたがありまして。あの手法はけっこう効果的ですよね。建築じゃなくても、どんなジャンルでも。今回の「WE SCHOOL」ではそのやり方をしました。エスキースにエスキースを重ねていく。

齋藤:スタディしながら、講師に対してこれどうですかね?と言ってコンサルをしてもらい、どんどん案をブラッシュアップしていく。

戸田:経験のない人たちにいきなりアウトプットしてくださいといっても、実際にやるのはなかなか難しいと思います。僕はエスキースって言葉は使わなかったけれども、一回形にしてみよう、言葉にしてみよう、絵に描いてみよう、と伝えました。最初はやはり少し怖がるので、プロジェクトシートみたいなのを書く、表にする、発表するみたいな形で。

志伯:それを何回も何回もやるんですよ。

戸田:発表すると反応があるから、次はこうしよう!となる感じはとても理想的でしたね。結果、こんな良いものが生まれるとは正直思わなかったです。「仙台ドラマプロジェクト」とか本当にすごいですよね。

ー市民の「出番」と「居場所」、超市民参加プロジェクトの熱量

戸田:僕たちは「東西線WE」が開業したらいずれいなくなる、そのいなくなるまでに動力源となるような人をつくるのが大きな目的だったので、そのためにはそういう場所が必要なので初期の段階から構想としてありました。古田さんはその「学び」の場所を提供するんだとずっと言ってましたね。とは言え、大学もあれば専門学校も色々あるなかで、僕らがやる地下鉄の学校がうまくいくのかな?というのは半信半疑でした。

西田:蓋を開けてみたら、「仙台をつくる人をつくる。」というキャッチコピーをみて応募したという人がたくさんいました。実は一番懐疑的だったのが仙台市だったんですよ。東京だったら来るかもしれないけど、東北や宮城の人は家に籠るタイプなので集まらない、みたいな感じだったんですね。でも、そこはまったくブレずに、100万人も市民がいたら集まるはずだと言って募集したら、本当に一瞬で定員オーバーになりました。2万4千円も取って来る人なんているわけないと、けっこう内側からも言われたんですけど、結果的に仙台人もまんざらでもないなっていうムードが醸成されましたね(笑)。

齋藤:ワークショップとかをして思ったのは、学校で教えることは全てじゃなくて、社会人になっても、あるいは大学生でも専門的に学んでいるけど、それ以外に何か学びたいと思っている人がたくさんいる。しかも、みんなにちゃんと出番がつくれるということが個人的に勉強になりました。こういうことに参加することで、最終的にそれがTVドラマになったり、新聞に取り上げられたりとか、新しい時代が来たんだなあと思いました。東京だけが全てじゃなくて地方にも熱い方が沢山いるし、僕らと同じくらいメディアのことをよく考えている人もいる、そういうことはすごく思いましたよね。

「東西線WE」に込められた思い、「わたしたちという名の地下鉄が、地上を、仙台を、世界を、明るくしていきます。」

「東西線WE」に込められた思い、「わたしたちという名の地下鉄が、地上を、仙台を、世界を、明るくしていきます。」

志伯:僕は仙台出身なので、震災で同級生が亡くなったりとか、高校生の時に見ていた景色がなくなってしまったので、やはり何らか貢献したいという気持ちはありますよね。震災があった3日後くらいに瓦礫の掻き出しのボランティアにも行ったのですが、そうじゃない形でも貢献したいなと思っていました。僕らの役目がいったん終わることは寂しいといえば寂しいですけど、それで良かったという気もします。終わるのが寂しいのは良い仕事ですね。

西田:市民プロデューサーはすごい育ってきてますよね。彼らもフットワークが軽いので能動的につながって、自分たちで何かはじめようと活動しているみたいです。はじめはスクールだからやっていたという、ちょっと受動的だったのが、どんどん違う動きに生まれているのは面白いですね。また仙台に来るきっかけはできましたよね。旅行で来るとかじゃなくて、一緒に企画を考えたりとかプロジェクトを進める可能性はありますよ。

戸田:みんな今回の地下鉄を使った遊びで味を占めてくれると(笑)。来年以降もただの乗り物ではなくて、何かそこで新しいことをはじめる場になると良いですね。

西田:「公共事業2.0」といってますけど、駅が駅だけじゃない機能を持つと、きっと面白いことになっていくと思います。

約800名の仙台市民によるパフォーマンス、「WE STAGE」

「東西線WE」の開業2週間前、11月22日に開業イベント「WE STAGE」が開催された。市民記者が乗る特別イベント列車の運行、2つの地上駅・国際センター駅と荒井駅で開催された地上イベントからなる「WE STAGE」は大変なにぎわいを見せた。「東西線WE」の13駅の地下ホームや地上駅の特設ステージでは、駅をこの日限りの「舞台」とするべく、約800人にもおよぶ多くの市民パフォーマーが準備を進めてきた。

「WE STAGE」の舞台となった、地上駅の国際センター駅

「WE STAGE」の舞台となった、地上駅の国際センター駅

西の終点「国際センター駅」からの眺め

「国際センター駅」からの眺め

この日限りの特別イベント列車に乗車するのは、応募者の中から抽選で選ばれたおよそ500名の市民記者。全6便運行の列車に乗車するため、それぞれ指定された時間に国際センター駅に集まった。

「WE STAGE」には、仙台市出身のサンドウィッチマンも駆けつけた

「WE STAGE」には、仙台市出身のサンドウィッチマンも駆けつけた

一般の記者に混ざって、市民記者も「WE STAGE」の様子を取材

一般の記者に混ざって、市民記者も「WE STAGE」の様子を取材

すべての駅のパフォーマンスについて伝えることは割愛するが、スポーツ・チアダンスチーム「P!NK PEPPAZ」によるチアダンス、藤崎百貨店と「東北女子学生コミュニティepi」による車内ファッションショーや、和太鼓団体「連坊太鼓の会・雛鼓」によるお囃子演奏、「せんだい演劇工房10-BOX」などで活動する4つの劇団のメンバーによる各車両で異なる演劇パフォーマンスなど、仙台市民の熱いエネルギーが「東西線WE」の車内や駅構内を満たした。

藤崎百貨店と「東北女子学生コミュニティepi」による車内ファッションショー

藤崎百貨店と「東北女子学生コミュニティepi」による車内ファッションショー

すずめ踊りの祭連(まづら)、太鼓や笛の音が鳴り響く

すずめ踊りの祭連(まづら)、太鼓や笛の音が鳴り響く

「みんなでつくる、みんなの地下鉄。」をコンセプトに進めてられてきた「WE プロジェクト」。2015年6月から市民パフォーマーの募集を行い、「東西線開業を盛り上げたい」という気持ちを持った市民パフォーマー約800名が集まった。このイベントは単なる思い出づくりではなく、市民の「出番」と「居場所」をつくるきっかけとなるだろう。なによりも、この特別な開業イベントが自分たちの手でつくりあげたことが誇りとなり、そうした体験こそが「じぶんごと」となるのではないだろうか。

川内駅に隣接する、東北大学の学生ゴスペルサークル「GO∞HIP」がゴスペルを披露

川内駅に隣接する、東北大学の学生ゴスペルサークル「GO∞HIP」がゴスペルを披露

日本のすべての地域で仙台市の事例を持ち込むのは不可能だが、「じぶんごと」としていくための仕組みをいかにつくるかが、「地方創生」の時代には求められることを改めて感じた。

瀬尾陽(JDN編集部)

■地下鉄東西線 WE
http://we-sendai.jp/