毎年、ジャンルを横断した芸術性の高い作品を紹介するとともに、多様な映像表現の在り方を問う場として、展示、上映、ライブ、イベント、シンポジウム、トークセッションなどを複合的に行ってきたアートと映像のフェスティバル「恵比寿映像祭」。主会場の東京写真美術館の改修休館を機に、例年とは異なり恵比寿ガーデンホールを中心に近隣施設や組織と連携して複数の会場を回遊する形で開催されることになった。
第7回となる今回のテーマは「惑星で会いましょう」。事前に告知されていた情報では、そのテーマの意図やイベントの全貌がいまひとつ把握できなかったのが正直なところだ。「惑星で会いましょう」を知るために、SF(サイエンス・フィクション)/惑星/ホール・アース・カタログ/DIY(Do It Yourself)/オルタナティブ/ビデオひろば/郊外/インターネット/野性/といったさまざまなキーワードが提示されている。これは人によっては、ヒントやガイドラインになりうるかも知れないが、実際にいくつかの会場で作品を鑑賞しないと理解するのが難しいように思う。
人工衛星からリアルタイムで地球の映像をみることが可能な現在、そこにいながらにしてあらゆる情報にアクセスできるようになったが、世界の全貌をとらえることがますます容易ではなくなってきている。「恵比寿映像祭」は映像を通して、さまざまなアプローチで「視点を変える」ことを試みながら、過去、現在、未来をもみつめ直す手がかりを探るようなプログラムが用意された。
今回は新たな試みとして、共同キュレーション制が採用された。ディレクターは不在で、それぞれの解釈で「惑星で会いましょう」が提示されている。会場を回遊する順路もなく、結果的に個々がアノニマスになって「惑星」を構成するという考え方だ。また、会期が15日間から10日間に縮小されたが、その代わり内容はぎゅっと濃縮されたものとなっているという。恵比寿一帯の13の文化施設やギャラリーとテーマを共有してそれぞれ独自の企画を行う「地域連携プログラム」やガイドツアー、スタンプラリーも開催し、このフェスティバル自体を複合的で立体的なものにしている。
足早にいくつかのプログラムを鑑賞してみて、特に「視点を変える」ことへの意識が強まった作品を紹介したい。
瀬田なつき氏「5windows」恵比寿特別編
これまでにもさまざまな場所で上映を重ねてきた「5windows」の5本の短編映画、新たに恵比寿周辺を舞台に撮影された 「5windows eb」と「5windows is」の計7本の短編作品がガーデンプレイス周辺地域のさまざまな場所で展示。観客は映像を見るために恵比寿の街を歩くことになるので、その場所への新たな発見を獲得、つまり「視点を変える」ことに繋がる。
クララ・イアンニ氏「Free Form」
1959年にモダニズムの理念に基づいて建設されたブラジルの首都ブラジリア。21世紀の近代都市を示そうとする都市計画の陰で、100人以上の労働者の殺害された。壮大な夢に隠された歪んだモダニズムと、些細なことに潜む意外な美しさを描いた映像インスタレーション。
三宅唱氏「《無言日記/201466》――どこの誰のものでもない映画」
2014年1月から12月までのほぼ毎日、iPhoneの動画撮影機能のみを使用して撮影。見覚えのある風景、いつか見たような風景、知らない風景、ほかの誰かの時間記録だが、まるで自分の記憶をたぐっているような気分になる作品だ。1時間ちょっとの間に季節が巡る。
けっきょく、フェスティバルの全貌を把握することは難しいままだが、鑑賞者がそれぞれの作品から「視点を変える」ようなきっかけを得ることが、”惑星”で”会う”ということになるのかも知れない。第7回でのさまざまな試みが第8回にどう反映されるか大いに期待したい。会期は3月8日(日)まで