漫画家・浦沢直樹のはじめての展覧会が、東京・世田谷文学館で開催されている。
浦沢直樹は『YAWARA!』『MASTERキートン』『Happy!』『MONSTER』『20世紀少年』など、発表してきた作品すべてを「代表作」と呼べる、稀代のヒットメーカーだ。1983年のデビュー以降、33年間一度も手を休めず、漫画を描き続けてきた。
本展では、単行本一冊丸ごと分の原稿展示をはじめ、ストーリーの構想メモ、ネーム、秘蔵のイラストやスケッチ、少年時代の漫画ノートまで、浦沢直樹の創作に触れることができる膨大な手稿が公開されている。展示タイトルどおり、まさに「描いて描いて描きまくる」を体感できる内容になっている。
会期の中盤になってしまったのだが、筆者も浦沢作品の大ファンのため、本展は絶対に見ておきたい展示だった。以降は親しみも込めて「浦沢さん」と呼ばせていただきたい。
圧巻だったのは、壁を覆いつくす膨大な量の原稿だ。『Happy!』『MONSTER』『20世紀少年』などの印象的なシーンを目の前にすると、思わず時間を忘れ、ストーリーにのめりこんでしまう。貼り付けたセリフの紙や少し時が経ったような原稿からは、いまだ冷めない現場の熱が伝わってくる。
会場では浦沢さんが漫画を描く様子を映した映像も見ることができる。「浦沢直樹のペン先」というテーマで、本展のメインビジュアルが完成していく様子と『BILLY BAT』のペン入れの行程が映し出されている。
撮影は基本的にNGだが、2箇所だけ撮影できるところがある。そのうちのひとつが、『20世紀少年』の「ともだち」のマネキン。不気味な気配に少しドキッとさせられる。
『YAWARA!』の主人公・猪熊柔がジョディ・ロックウェルを一本背負いしたシーンなど、カラー原稿も多数展示されていた。
会場では浦沢さんのルーツをたどるように、幼少期の頃に描いていたという貴重な漫画も多く展示されている。漫画のタイトルは『太古の山脈』『ドラキュラの昼食』『甲子園3時間14分』など印象に残る個性的なものばかり。また、漫画だけでなく、自身もCDを出すほどに好きな音楽についてのメモ書きなども残されていた。会場では浦沢さんの音楽を聴けるコーナーも。
壁を覆う膨大な量の原稿にも圧倒されたが、今回いちばん驚いたのは、訪れた観客から浦沢さんへの熱いメッセージの多さ。メッセージを残せるスペースでは、用意されたノートに思い思いのメッセージを残せるのだが、なんとノートは10冊以上におよんでいた。(2月中旬時点)
「浦沢さんにも見せられるように漫画を描き続けたい」「青春時代のことが作品とともにフラッシュバックした」など、展示作品の熱に当てられて、訪れた人は思わずメッセージを残してしまったのだろう。浦沢さんに挑戦するかのように、イラストがたくさん描かれていたのも印象深かった。
世田谷文学館の入り口には、『20世紀少年』のケンヂが「おい、こっち来てみてみろよ!」と誘っている。ファンでなくとも漫画好きなら、ケンヂに誘われてふらっと立ち寄ってほしい展覧会。会期は3月31日まで。
会期:2016年1月16日(土)~2016年3月31日(木)
会場:世田谷文学館
http://www.setabun.or.jp/exhibition/exhibition.html