ミッションは“すべての人をアートの当事者に”―日本の美を世界に繋ぐ新たなプラットフォーム「B-OWND」始動(2)

ミッションは“すべての人をアートの当事者に”―日本の美を世界に繋ぐ新たなプラットフォーム「B-OWND」始動(2)
東京・品川の丹青社本社クリエイティブミーツにて、同社が新たにはじめたアートと工芸のプラットフォーム「B-OWND」を紹介するトークショーが4月12日に開催された。プロジェクト立ち上げの経緯や仕組みの説明のほか、「B-OWND」に参加するガラスアーティスト・ノグチミエコさんをゲストに同社のデザイナー陣とのトークセッションも行われた。当日は同社の社員はもちろん、アート業界関係者からノグチさんのファンまで幅広い層が集まり、新たなサービスへの期待を感じさせるものとなった。

アーティスト×空間デザイナーの可能性

まず、B-OWNDプロデューサーの石上さんから、丹青社オフィスのレセプションに期間限定で展示されたノグチミエコさんの新作「ガラスの中の時空間(2019年)」と代表作「10xm(2017年)※」の解説が行われた。また、B-OWNDのWebサイトに掲載されている紹介映像も上映。制作を始めたきっかけやガラスとの関係性、制作の根幹にある想いなどが語られた。

※10のX乗m

ガラスアーティスト・ノグチミエコさん

ガラスアーティスト・ノグチミエコさん。トークショーでは自ら作品の解説をおこなう場面もあった

ノグチミエコさんは、武蔵野美術短期大学在学中からガラス作品の制作を始め、国内外の施設や団体に作品を提供。2019年にはアジア諸国で貢献したアーティストに贈られるアジアコスモポリタン賞文化賞を受賞するなど、めざましい活躍を見せている。

「ガラスの中の時空間」

クリエイティブミーツの空間にインスピレーションを受けたという宇宙の時をテーマにしたインスタレーション。自身のライフワークとも言える宇宙と自然をモチーフに、電子の誕生(0秒)から電子の誕生(3秒後)、原子核の誕生(3分後)、原子の誕生(3万年後)、銀河群の誕生(10億年後)、地球の誕生(100億年後)と、多元宇宙論によるビッグバンから地球誕生までの時間変化をガラスで表現した作品だ。

「10xm」

代表作「10xm」は自らと宇宙の距離を表しており、新作ともどこかリンクが感じられる。地球から10xm光年離れた宇宙から見た光景と細胞核を分化して10−X乗mから見た光景、スケール感は違えど構成物が同じということから世界がリンクする様子を示している。

続いておこなわれた、丹青社デザインセンターのデザイナーとノグチさんのトークセッションのテーマは「アーティストと空間デザイナーのコラボレーションの未来と可能性」。カルチャー&コミュニケーションデザイン局の町田怜子さん(クリエイティブディレクター)をファシリテーターに、コマーシャルデザイン局の石原結さん(クリエイティブディレクター)、 宮本厚樹さん(デザイナー)が登壇。それぞれの関わる事例紹介からセッションはスタートした。

⽯原さんが紹介した事例は、彫刻家とコラボレーションした大型商業施設。アートとインテリアの融合空間を実現できるアーティストを指名し、テーマに基づいたアートを空間に散りばめ、ショップの世界観を表現した。

石原結さん(以下、石原):彫刻家の方に制作していただいた作品は、初期段階で私たちが思い描いていた方向とは少し異なるイメージになりましたが、それがむしろ小気味良い違和感となり、高感度顧客の琴線に触れる上質な空間になったと思います。アーティストならではの強い思いを具現化するため、素材や細部形状などの決定に苦労する部分もありましたが、空間デザイナーとアーティストが協業した意義のある事例になったと思います。

株式会社丹青社 石原結さん

株式会社丹青社 石原結さん

空間デザイナーでありながら、折り紙アーティストでもある宮本厚樹さんは、自動車のショールームに採用されたスピンドルグラスをモチーフにした作品や、軽井沢のホテルに使用されているシーズンディスプレイ用花器を紹介。

宮本厚樹さん:アーティストと称されるのは恐縮ですが、幼少時代から自分のワークとして、折り紙をテーマにしたオブジェ制作を続けています。空間づくりから携わることもありますし、軽井沢のホテルのようにテーブルコーディネートとして納品するということもありました。折り紙は陰影が大事で光の当て方で印象が変わるので、既存のロケーションに折り紙オブジェをコーディネートする場合の、デリケートな照明調整を後付けで行う難しさは毎回の課題になっています。

株式会社丹青社 宮本厚樹さん

株式会社丹青社 宮本厚樹さん

人づくりプロジェクト「マルキサン」

丹青社のオリジナルの実践型研修「人づくりプロジェクト」で、宮本さんの折り紙オブジェから同社の新入社員とともに制作された照明「マルキサン」。人の動きによって光が変化する(撮影:尾鷲陽介)

アーティストの空間づくりへの関わり方と作品制作

二人の事例解説を受けてセッションがスタート。ノグチさんも空間づくりにアーティストとして関わった経験を語った。

ノグチミエコさん(以下、ノグチ):ガラスはプロダクトとしての素材と捉えられやすいですが、私はつねに自分自身を表現するための素材として扱っています。画家にとっての絵具やキャンバスと同じです。以前は私の作品をアートとして購⼊いただき、先⽅で配置してくださることが多かったですが、近年では早い段階から空間デザイナーさんとイメージを共有して制作する機会も増えています。例えば宙吹きガラスでつくった器型の作品があったとしますよね。それを空間デザイナーさんがインテリアの一部と捉えるかアートとして捉えるかによって、私自身も認識や立ち位置を変える必要があるんです。

石原:たとえば、すでにコンセプトやテーマがあり、配置する場所や範囲も指定された上で作品を制作してほしい、といった依頼はアーティストにとっては難しいことなのでしょうか?

ノグチ:個⼈的な意⾒としては、アーティストのポリシーや⽴ち位置が⼤きく関係すると思っています。場所ありきで考えるものはインテリアの要素が強くなるかと思いますが、そもそもアートはその両⽅の要素を兼ねていると思うんです。アートとインテリアの割合を柔軟に調節できる⼈もいれば、そうでない⼈もいるのではないでしょうか。

丹青社 石原結さん、ノグチミエコさん

2つめのテーマは「ガラスにおけるアートと工芸の境界」。大学時代はガラスアートに興味を持ち、バーナーワークにも取り組んだ経験がある石原さん。「アートか工芸か、はたまたデザインか?」とかつて悩み抜いた疑問をノグチさんとともに解明したいと提案したテーマだ。エミール・ガレやドーム兄弟、ルネ・ラリック、藤田喬平などの作品スライドを見ながらトークが展開された。

ノグチ:ガラスがコンセプトを表現する素材としてのみ活かされているか否かが、アート作品と捉える⼀つの判断基準かなとも思いますが、見る方により変わってくるので、どちらかと決めるのは難しいと思います。

石原:アートと工芸、また、インテリアの境界は「機能や用途の有無」と言えるのでしょうか?

ノグチ:それはわかりやすい線引きですが、⽤途があるプロダクトや⼯芸品にもアート作品として成⽴するものがありますよね。アートと⾔いたくなる何か。強烈なメッセージがある作品であればアートと言えますから。アートは技法や技術を超えた要素が必要であると言えます。

先に紹介した大型商業施設で採用した壁紙のグラフィックアートは「空間に魅力を添えるアート、または芸術性の高いインテリア」としてわかりやすい事例と提示した石原さん。アートが優先される空間は陳列すべき場所や陳列台が必要だが、商業空間では商品や機能が優先される。そのような制約や条件のなかでいかにアートと融合した魅力的な世界観を構築できるかに興味がある、と語った。

ノグチ:あまり堅苦しく考えずにコラボレーションしていただきたいです。ただアーティストの性分として「明日はもっといいアイデアが出るかも」と考えてしまうので、締切には注意してもらって(笑)。買い上げてもらった作品を配置するのも嬉しいですが、イチから関わるとなるとやはり力の入れ方も変わりますし、締切ギリギリということが多くなるでしょうから。

今後の空間づくりでは空間デザイナーとアーティストのコラボレーションがもっと増えていく期待感を持たせつつ、2時間半のトークセッションは終了した。

すべての人が当事者になれるプラットフォームに

最後に、参加アーティストとして、ノグチさんのB-OWNDに対する率直な気持ちをうかがった。

ノグチ:最初に聞いた時は、アーティストにとってすごく良いバックアップシステムなのでは?と感じました。そんなのできたら夢みたいだよね?って工房の子たちと話したのも覚えていますね。まだ深い解釈ができているかはわかりませんが、長い目で見て、アーティストやコレクターが歴史に名を刻める、夢を感じるサービスだと思います。未来に繫ぐ希望があるだけでも価値を感じますよ。

ノグチさんだけでなく、そのほか参加が決定しているアーティストの方からも「待ってました!」という声が多いという「B-OWND」。その名前には、前ページでお伝えしたほかにも、「“B”にはブロックチェーン、“-(ハイフン)”には繋ぐという意味も含まれている。名前自体もアートのように重層的でいろんな意味があるものにしました」と、プロデューサーの石上さんは話す。いろんな人やモノ、コトを巻き込み、境界を越え、つながっていく――そんな夢のあるアートと工芸のプラットフォームになることを願っている。

B-OWND
https://www.b-ownd.com/

取材・文:木村早苗 撮影:木澤淳一郎 編集:石田織座(JDN)