空間とファッションを融合させてつくる新しい体験-アンリアレイジ×丹青社トークセッションレポート

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空間とファッションを融合させてつくる新しい体験-アンリアレイジ×丹青社トークセッションレポート

空間とテクノロジーの連携による新たな価値創出を目的に、空間の新たなアプローチに取り組む丹青社と、テクノロジーや新技術を積極的に用いるなど、ファッションの領域を拡張する活動を続けているアンリアレイジ。両社は2019年6月に業務提携を締結し、新たなファッション体験空間を具現化するための実証実験と開発を推進している。

2019年にアートイベント「TOKYO 2021」において作品「透鏡2021」を共に出展し、2020年にはパリファッションウィークでアンリアレイジが発表したコレクションに丹青社が参画。2021年1月には、両社のこれまでの取り組みを紹介する展示を丹青社にて開催した。展示にともない、アンリアレイジ代表の森永邦彦さんと、丹青社のエグゼクティブ クリエイティブディレクターの洪恒夫さんによるトークセッションも行われた。

■トークセッション ティザー動画

コロナ禍のいま、ファッションにも空間にも大きな変化が起きている中、両社が共創することの意義は何か。本記事ではトークセッションの様子をレポートする。

コンセプトは「大きい服に住む、小さい建築を着る」

――新型コロナウイルス感染症の影響から、オンライン形式での開催となったパリファッションウィーク(2021年春夏シーズン)ですが、アンリアレイジが発表したコレクションについてご説明いただけますか?

森永邦彦さん(以下、森永):アンリアレイジは「HOME」をテーマに、服を小さな建築に見立て、身に着けることで「個の空間」を拡張するというコレクションを発表しました。

森永邦彦

森永邦彦 ANREALAGEデザイナー。早稲田大学社会科学部卒業。大学在学中にバンタンデザイン研究所に通い服づくりをはじめる。2003年「アンリアレイジ」として活動を開始。「神は細部に宿る」という信念のもとつくられた、色鮮やかで細かいパッチワークや、人間の身体にとらわれない独創的なかたちの洋服、テクノロジーや新技術を積極的に用いた洋服が特徴。

森永:球体、正4面体、正6面体、正8面体、正12面体、正20面体の6種類の形からなる計18体は、組み込まれたフレームによって半径1mのスペースを生み出し、ソーシャルディスタンスの保持に有効に機能します。さらに各立体のフレームを取り外せば、立体のテキスタイルがドレスやコートに変容するというものでした。

森永:ファッションは身体から一番近い場所にあるひとつの皮膜のようなものですが、それがだんだん大きくなっていけばひとつの空間にもなりえるし、さらに大きくなれば建築のようになる可能性があると思っていたので、一度ファッションを身体から離し、衣と住の間を表現したいと考えました。

洪恒夫さん(以下、洪):丹青社は、空間づくりの技術とネットワークを活かして、立体を形づくるフレームの制作などで参画させていただきました。皮膜や骨、肉というように空間を身体のように捉えながら、アンリアレイジのテーマを具現化するところに関わりました。

画面左の三角錐の立体フレームを外すと、右のマネキンが着ているドレスやコートに変容する

――今回の制作はどのように進めていったのでしょうか?

森永:ファッションは移動ができますが、人の身体のすべてを覆うことは難しい。反対に空間は人を包み込むことはできるけれど、ポータブルにはなりづらい。その両者の特徴を逆転させていくことでものづくりを進めていきましたね。

――両社が共同で制作を進める中での気付きなどはありましたか?

洪:空間というのは固定されている大きなもの、人が入るものという認識ですが、最近は「空間をそこにつくり出す」とか「空間を持ち運ぶ」などさまざまなことが試されているので、森永さんのコンセプトを聞いたときには、空間づくりにはまだまだ可能性があるなと期待が膨らみました。森永さんは、空間に着目することについては以前から考えていたんでしょうか?

洪恒夫 丹青社 エグゼクティブ クリエイティブディレクター。武蔵野美術大学卒業後、丹青社入社。以来ミュージアムやテーマパーク、博覧会、展覧会など幅広い分野の施設のプランニング、デザイン、プロデュースを手がける。2002年より東京大学総合研究博物館教員(現・特任教授)を兼務し、ミュージアム・展示などの可能性の実践型研究を推進している。

森永:はい。洋服は人の身体に対してつくるものですが、身体と言っても一人ひとり違うし、同じ人でも体型の変化があって絶対的なものではないので「人の身体から離れた洋服をつくろう」と考えた時期があったんです。そこから生まれたのが、球体、三角錐、立方体をもとにして服のパターンをおこした「◯△□(まるさんかくしかく)」という2009年のコレクションです。身体のフォルムを前提にしないので、着ると身体と洋服の間に空間が生まれ、重力によってドレープのデザインとして現れるという試みでした。

「〇△□」のコレクションは上部に展示された

「自分の空間を所有する」という意識が芽生えた2020年

森永:コロナによって、人との距離をすごく意識するようになりましたよね。いままでファッションは自分の半径30cmくらいで完結していたと思いますが、いまは半径1mの中に誰かが入ってきたときに、自分の空間に人がいるような感覚が生まれた。今回はそういった、自分のまわりの空間は自分がまとっているもの、所有しているものというような意識が芽生えたこともコレクションのポイントになりました。

洪:空間づくりの仕事においても、人が集うことでにぎわいやコミュニケーションを生むという考え方の基軸を、ゼロから問い直さなければならないということが起きました。そういう意味でも森永さんが言われた「自分の空間を所有する」というのは面白い視点だと思います。

森永:今回の空間は半径1m、直径2mでつくっているのでコミュニケーションが断絶されることもなく、反対にその距離をしっかりとっていれば安心してコミュニケーションができるという距離間をポジティブに表現しています。

洪:大きな空間の中に、個人がシェアする小さな空間があり、それが複合化するようなイメージでしょうか?

森永:そうですね、自分自身に対して空間が大きくなったり小さくなったり可変するという部分を強調しています。大きいまま持ち運びはできませんが、身体にまとえる小さなスケールになったときにはどこにでも移動ができる。好きな場所で大きくしてコンテンポラリーに定住することもできますし、可変的なボリュームであることは意識しました。

洪:長く空間デザインに携わってきましたが、やはり空間のあり方は不思議だなと感じています。例えば、今話しているこの空間に東京大学総合研究博物館の学術標本が入った展示ケースがあるんですが、標本を置いた瞬間にその周辺がミュージアムになるというような、何か一石を投じることでガラッと空気が変わることがあります。森永さんが距離に着目されたように、いい意味で閉鎖的な空間をつくることや切り取ること、畳んだり、広げたりすることによって、コンセプトや狙いに合わせた表情を出してくれるのは空間づくりの魅力だといつも考えています。

丹青モバイルミュージアム/東京大学総合研究博物館

「丹青モバイルミュージアム/東京大学総合研究博物館」。産学連携プロジェクトとして丹青社のオフィスに設置されており、貴重な学術標本を定期的に更新し、展示している。

――アンリアレイジのファッションにおいて「型」の捉え方も特徴的ですよね。

森永:今回のコレクションについては、ベースとなる考え方に「ヤドカリ」がありました。ヤドカリは不思議な存在で、貝殻を着ているのか住んでいるのか、その間にいるみたいな状態なので、ヤドカリの貝殻のようなものを今回は目指していました。ファッションにおいては有機的なかたちが主なので、無機的なかたちを取り入れることが新しいことにつながると思い、まずは球体をベースに考えていきました。球体は完璧な造形で点でも面でもないことや、原子や惑星も球体であることから、何か人を守るかたちにつながるのではないかとイメージしました。

洪:ヤドカリは成長に伴って殻を変えていくということを聞きましたが、今回の森永さんの作品にもさまざまなかたちやパターンがありますよね。

森永:そうですね。「HOME」の語源のひとつに「戻れる場所」という意味があって、ホームボタンやホームグラウンドもそうですが、一周回って自分が戻ってこられる場所がHOMEなので、僕もこのコレクションで原点回帰をしたいと思ったんです。そこで「◯△□」コレクションのスケールを変えることを基本にして、さらに今回は正多面体にこだわりました。人の身体は有機的なので正多面体で洋服は構成できませんが、あえてそのルールを設定することで、誰もが見たことのあるかたちでファッションも空間もつくる。既視感の中に新しさを提示したいという思いで、かたちやパターンのバリエーションを用意しました。

洪:「既視感」をネガティブに捉えてしまうクリエイターも多くいらっしゃると思うんですけども、よく知ってるものの中から何かを発見できると、実はそこに本質的な面白さがあったりしますよね。日常と非日常みたいなキーワードにもつながってくのかもしれないなと思います。

日常を非日常へ切り替えるファッションの力、空間の力

――アンリアレイジは「REAL(日常)」「UN REAL(非日常)」と「AGE(時代)」という言葉を掛け合わせた造語だそうですね。

森永:僕はずっと日常と非日常をコンセプトに掲げてものつくりをしていますが、日常はなかなか変えることができないけど、一着の洋服に袖を通した瞬間や、いままで目にしたことのない洋服を着た人が目の前に現れた瞬間に、景色や感情が動くということを何度も経験してきています。そういったものが生まれるのは、交わるはずのないものが交わったときが多く、そういう意味で僕は対極の概念を掛け合わせることが好きですし、ファッションは日常を変えるスイッチのようなものだと捉えています。

洪:腕を袖に通したときのハッとした気持ちって、空間に置き換えてみれば足を踏み込んで自分がその空間に没入したときの感覚といえるのかなと思います。あるときはエンターテインメントかもしれないし、あるときは非日常感かもしれない。それをデザインでコントロールすることで感動を届けるのは私たちの仕事に求められることですね。ファッションも空間も本質的な共通性があると思います。

森永:実際に自分が洋服を着たときの視点と距離で見えてくる、その人にしか伝わらないデザイン性が好きなんですよね。それはボタンひとつ、ポケットひとつかもしれないけど、着てみてはじめて気づくことがあったり、驚きや違和感を覚えたり。何か日常では感じていないものが伝わったら、それは洋服にしかできない日常の変え方です。

一方で、日常がいとも簡単に非日常になったり、想像もしていなかった非日常が日常になったりと、その境目は曖昧だということを2020年は実感しました。ファッションの当たり前を揺るがそうとして活動していますが、そもそも「当たり前」という前提が絶対的ではなくて、5年前と5年後では全然違う。日常と非日常は常に入れ替わっていくので、そのときにおける日常と非日常を見極めてその間にあるものをつくりたいです。

――森永さんがものづくりの信念として掲げている「神は細部に宿る」という言葉を残したのはミース・ファン・デル・ローエという建築家ですが、空間づくりを行う洪さんのお仕事にも通じるものはありますか?

洪:私も、もともと好きな言葉なのですが、空間におけるコミュニケーションの仕掛けをどこまできめ細かくつくり込むかが大事になってくると思っています。浅い思考のまま空間を設えたら、その空間に入った人の体験も薄いものになってしまうし、ただ頑固にこだわるのではなく、的を射た細部をどうやって束ねて訴求力を高めていけるかが重要で、そこは常に意識して空間づくりを行うように徹底しています。

メディカルテクノロジーも要になったコレクション「HOME」

――森永さんはファッションクリエイターとして、テクノロジーという方法をどのようにお考えですか?今回のプロジェクトでテクノロジーにどのような可能性を感じているのか教えてください。

森永:誰もファッションに取り入れたことのないツールを使って洋服をつくりたいという気持ちがあって、2010年頃からファッションとテクノロジーを融合させています。制作の中ではうまくテクノロジーが融合して新しいファッションができることもあれば、ファッションとは言えないものができることもあります。ミリタリーウェアやスポーツウェアなどもそうですが、違う分野の発想や技術を活かすと飛躍的に新しいものが生まれることがあります。

そんな中で今年は「自分の身を守る」という意識が高まって、外出中には必ずマスクを付けるという習慣も生まれたので、メディカルテクノロジーを用いてウイルスと戦っている方たちの知見を入れたいと思いました。「HOME」の素材はすべて抗ウイルスのテキスタイルになっていて、実際に制作を進めると一般的な洋服の染色や糸をつくる工程とはまったく違う技術で難しい作業でしたが、最終的には完全抗ウイルスの効果を持つ洋服をつくることができました。

アンリアレイジ HOME メイキング

テキスタイルのメイキングの様子(Anrealage Spring-Summer 2021 Backstage movie ”HOME”より

洪:空間づくりでも最新技術は時代を切り開く大きなメソッドです。軽量化することで空間として軽さが出るとか、いままで実現できなかったアイデアの具現化につながることも多い。エンジニアが提供してくれる技術によって、新しい体験が生み出されます。ハードに加えてソフトも重要で、DXによっても新たな空間、新たなコミュニケーションが生まれることを実感していますね。

森永さんのお話を伺って、ファッションだからキャッチアップできる繊細な部分とか、それを裏付けるテクノロジーとか、人の気持ちを揺さぶっていくような質感や色彩などは、空間にもフィードバックしていけるのではないかと。自分たちの領域にいるだけでは知り得ないことや掴みきれなかったことが流れ込み、もっと拡張していける予感を持ちました。

既存の概念が覆されたいま、共創によって新しい融合体験を

――最後に、コロナ禍という状況はありますが、今後両社でどのような取り組みが考えられるか、展望などを教えてください。

森永:外出したり人と会うからこそファッションが成り立っていた部分もあるので、2020年はいままで信じていたものが大きく覆された年でした。パリコレクションがオンライン配信で開催されるとは予想もしなかったし、それによってファッションのあり方や売り方、着る目的までが様変わりしたと感じています。逆に考えれば、なかなか壊せなかった概念を見直せたということなので、新しいファッションが生まれやすい状況になっていると思います。

生活にオンラインは欠かせなくなったので、その中でどうファッションのフィジカルな部分を伝えていけるか。オンライン上では伝わらないものを補完するためにオフライン、リアルの空間の重要性も強くなるでしょう。もともと、洋服によって日常を非日常化したいという思いが強くあったのですが、いまは洋服によって日常をどう取り戻すかという課題に取り組まなければならないと思っていて。洋服を着て行く場所がないのであれば、「この洋服があれば安心して人と会える」というような服をつくらなくてはと考えています。

洪:空間づくりにおいてはこれまで、たくさんの人が集まって触れ合って、一人ではできない体験を共有できる空間を提供するという“にぎわい”がひとつの大きな価値でした。それがコロナによって全否定とまでは言わなくても、今までと異なるアプローチで考え直し、かたちにする必要が生まれた。そこで空間デザインとは何だろう?と改めて考えたときに、立ちはだかる障壁があればそれを解決するのがデザインの大きな役割です。例えばウイルスの感染拡大を防止するゾーニングを考えて、衛生面での課題を解決するのも空間デザインの仕事です。大変な状況ではありますが、コロナ禍によってこれまで考えもしなかったようなことを考えることができるというのは、平時とは違う、そしてそれぞれが今後の革新につながる手法を生み出せるチャンスともいえます。

50年100年、ずっとさかのぼって見ていけば、さまざまな流れの中で大きな変化が生まれている。その転換期にはデザインのクリエイティブが、ものを変えた、時代を変えた、世界を変えた、そんなできごとにもつながっているのではないでしょうか。

洪:空間をつくるという従前のフレームを越えていきたいと思ったときに、異業種の共創は非常に有効です。異なる要素が合わさることで、エキサイティングな化学反応は起きやすい。森永さんの「ファッションも空間になる」という示唆で「なるほど!」と思ったことが、丹青社にはとても有意義なことで、なおかつそれを違う角度から議論して、一緒に考えてつくっていくのはとても刺激的だし楽しいことです。

森永:洋服を空間として捉えてこの共創プロジェクトが進んできたので、ファッションにしかできないことを空間でもやってもらいたいし、空間にしかできないこともファッションに昇華させてみたいです。ファッションも空間も概念が変わっているタイミングで、お互いがそれぞれのものを交換しあうことで、ファッションなのか空間なのかその間にあるものなのか、そういった新しい時代に向けたものをぜひ実現させていきましょう。

洪:ファッションと空間というエッセンスを合わせていくのは、アンリアレイジと丹青社だけの話ではなく、デザインの可能性を広げていくようなアクティビティにつながっていくのではないでしょうか。見たことのない圧倒的なものをつくっていきたいですし、今後のコラボレーションも楽しみにしています。

文:吉岡奈穂 写真:小山将冬 編集:石田織座(JDN)
映像撮影:砂川俊夫・能登剛行・石上洋 映像編集:石上洋

■アンリアレイジ
https://www.anrealage.com/
■丹青社
https://www.tanseisha.co.jp/

■トークセッション「ANREALAGE∞Tanseisha ~新たなファッション体験空間を目指して~」本編動画