台湾デザインの「いま」と伝統技術に触れる、「未来の花見:台湾ハウス」展示レポート

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台湾デザインの「いま」と伝統技術に触れる、「未来の花見:台湾ハウス」展示レポート

GOOD DESIGN Marunouchiにて10月2日から17日までの期間開催された、台湾デザインを紹介する展示「未来の花見:台湾ハウス」。8組のクリエイターによる伝統技術が用いられた作品と、ここ10年で台湾に多様な変化をもたらしたプロジェクト事例の展示を通して、台湾デザインの「いま」を紹介するとともに、台湾と日本の友好を示すイベントとして開催されました。

本記事では、リサイクル可能な素材で制作された什器のデザインをはじめ、台湾の地形になぞらえて配置された展示会場の様子をレポート。あわせて、展示のコンセプトとなった台湾のクリエイティブを伝える3つのキーワードや、展示の開催を記念して行われたトークセッションの内容をお伝えします。

展示会場となった「GOOD DESIGN Marunouchi」 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

展示会場となった「GOOD DESIGN Marunouchi」 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

台湾の地形をモチーフに制作された什器デザイン

本展では、台湾の地理の特徴をモチーフに展示作品群が制作・配置されていることが見所のひとつです。作品を展示するための什器のデザインを担当したのは、クリエイティブチームの「LANDHILLS」のディレクター・廖浩哲(リャオ・ハオズ)。島の気候や植物、人と社会を題材にデザインされ、高低差のある什器によって台湾の豊かな地形と風景を表現しています。

人口と産業が密集する台湾西部の「西部平原」、森に覆われた「中央山脈」、豊かな先住民文化が根付いた岩石海岸が広がる「花東縦谷」、それぞれの3つの立地の特徴が、独自の有機的な什器としてデザインされています。西部平原を表現した什器には、麦と廃棄プラスチックを使用したリサイクル可能なレンガ素材が使用されました。

「西部平原」の什器デザイン 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

「西部平原」の什器デザイン 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

「西部平原」の什器デザイン 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

「野の花園」をコンセプトにした展示会場では、台湾の玄関口である桃園空港で使用される予定のアロマが来場者を出迎えました。香りのデザイナーとして活躍する台湾茶香水ブランド「P.Seven」によって調合されたこのアロマは、台湾ヒノキやスギを使用した木の香りをベースに、アクセントとして台湾の文化のひとつであるお茶の香りが使用されています。

折り紙になるイベントフライヤーには「台湾茶香水」が吹き付けられている。 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

折り紙になるイベントフライヤーには「台湾茶香水」が吹き付けられている。 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

台湾の伝統技術とデザインが交差する8作品

本展の開催にあたり、8組の参加クリエイターは「リサイクル可能な素材」「最新の生産技術」「伝統工芸」という3つの視点から作品の制作を行いました。

入り口近くの場所に展示されたのは、「無氏製作 PiliWu-Design」によるガラス作品「珊瑚ストロー」。日本でもタピオカミルクティーといった台湾ドリンクスタンド産業が一躍有名となりましたが、台湾では環境への意識の高まりとともに、ストローやプラスチック容器の廃棄物による海洋汚染の問題が取り沙汰されています。本作品は、束になったストローを珊瑚に見立て、太平洋に生息する赤い珊瑚のことを思い出してほしいという願いが込められています。

「珊瑚ストロー/Straw Coral」 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

「珊瑚ストロー/Straw Coral」 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

台湾の伝統的な家屋の窓に使われる、花模様が特徴の型押しガラス「窓花」をモチーフにした「ANGUS CHIANG」の作品は、ベゴニアの花といった伝統模様が用いられ、花東縦谷から見た空や雲、峡谷、川、金針花(日本では忘れな草と呼ばれる)の花畑が、青やオレンジなどのカラフルな色使いのテキスタイルと、ガラスビーズやアクリル素材によって表現されています。

「A Hidding Window Gril」 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

「A Hidding Window Gril」 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

「A Hidding Window Gril」 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

「Melted Potato」による作品は、重いイメージのある金属小物に対して、特殊な化学的手法が用いられた銀を付着させ、金のオイルによるコーティングが施されています。羽や貝殻、真珠、ラインストーンといった異素材を組み合わせることで、斬新な印象が生み出された作品です。

「Untitled」 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

「Untitled」 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

「Untitled」 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

究方社(JOEFANGSTUDIO)」の作品は、「ガラスの多様なかたち」テーマに、ガラスの有機的な姿が感じられる作品です。自然に流れ落ちる状態の液体ガラス塗料を一瞬で固めるという、職人による熟練の技術が用いられています。同じく展示されたスプレーボトルは、コロナ禍によって生まれたニーズから考えられたデザインで、消毒液の容器として使用することができます。

「スプレーボトル」で持続可能な生活の美学を実践

「スプレーボトル」で持続可能な生活の美学を実践

「西部平原」の什器デザイン 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

「西部平原」の什器デザイン 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

「盆栽との対話」をテーマに制作された劉文瑄(ミア・リュウ)の作品は、日本と同様に台湾においても馴染みのある盆栽をモチーフに、成長とともに植物とガラスが調和していく作品です。ミアさんはドローイングなどを発表するビジュアルアーティストであり、本作は鉢植えを用いたドローイング作品として、人と自然との対話が表現されています。

「盆栽での対話/Dialogue in Bonsai」

「盆栽での対話/Dialogue in Bonsai」

写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

レディー・ガガとのコラボレーションで世界的な注目を集めるクリエイター、顏宏安(アン・イエン)は、台湾の森の光と影をモチーフとしたガラス作品を制作しました。ガラスの中の絵に光があたることで木の影が浮かび、空間と自然の調和が表現されています。

「between the shades」 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

「between the shades」 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

「between the shades」 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

イエンさんの作品と同じく、会場の窓辺に展示された張家翎(チャーリン・チャン)によるガラス作品は、自然を模倣することや、素材をそのまま使用するのではなく、湿地に生える小さな植物からのインスピレーションをもとに創作されています。ユニークで洗練されたかたちが美しい、詩的な作品です。

「Wetlands」 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

「Wetlands」 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

「Wetlands」 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

台湾デザインの10年の成果を示す3つのキーワード

写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

本展示では、参加デザイナーによる台湾デザインの発展要素と文化的意味について、「リソースの統合」「社会への応用」「時代に応じるパワー」の3つのキーワードを通して紹介されています。

台湾の産業は、長きに渡り高い製造技術を誇るOEMによって発展してきた背景があります。過去10年においては、決して規模は大きくないものの、さまざまなセクターの中小企業による協働や連携が生まれており、台湾の新たなクリエイティブへの機運が高まっています。

「Stair-Rover」

「Stair-Rover」

そういった台湾デザインの特徴のひとつである「リソースの統合」を体現した事例として、会場では8輪スケートボード「Stair-Rover」の事例が紹介されました。台湾出身のデザイナー・エンジニア3名によるチーム「Allrover®︎」によって開発された本製品は、車輪を8つにすることで通常のスケートボードでは難しい階段もスムーズに滑ることができるようにデザインされています。製作にあたって実施されたクラウドファンディングでは約1.5億円が集まり、7,500台を超える注文が入るほどの注目を集めました。

デジタル担当大臣オードリー・タン氏の活躍によって注目された台湾のデジタル政策と民主主義のあり方は、いまや世界中から注目されている台湾の特徴でもあります。民主主義を重視する台湾の思潮はオープンな考え方を生み、デザインの「社会への応用」が促されることで、社会課題の解決に挑戦するパブリックデザインやソーシャルデザインの領域が推進されてきました。

会場では、グッドデザイン賞金賞を受賞したことで注目を集めた「美を学ぶ、美学ーキャンパス美学デザイン実践プロジェクト」をはじめ、タンさんが推進する「PDIS(パブリックデジタルイノベーションスペース)」、工事現場をオープンスペース化したプロジェクト「工家美術館」など、新たなデザインの力が台湾の生活に浸透していることを感じさせる事例が並びました。

「美を学ぶ、美学ーキャンパス美学デザイン実践プロジェクト」

「美を学ぶ、美学ーキャンパス美学デザイン実践プロジェクト」

「工家美術館」

「工家美術館」

2019年から政府が推進する「台湾SDGs」など、台湾ではサスティナブルデザインに対して積極的な取り組みが行われています。コロナ禍における迅速な防疫対策も、時代の変化に対して柔軟な台湾の特徴が表れた事例と言えます。

「時代に応じるパワー」として本展で紹介されたのは、2019年にグッドデザイン賞金賞を受賞した、パッケージも中身もグリーン素材を用いた「オーライト No.ゼロトゥースペースト」や、これまで廃棄されていたパイナップルの皮や葉を使用した「台湾パイン繊維皿」など、台湾のサステナブルデザインとサーキュラーデザインへの先進的な姿勢を感じられる事例ばかりでした。

「オーライト No.ゼロトゥースペース」

「オーライト No.ゼロトゥースペース」

「台湾パイン繊維皿」 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

「台湾パイン繊維皿」 写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

トークセッションで語られた台湾と日本の「友好」

本展のキュレーションを務めたのは、「持続可能な発展」を理念に国内外の大手企業をサポートしてきたコンサルティングファーム「Plan b」と、台北のアートブックフェア「草率季」を主催し、数々の台湾カルチャーを牽引するイベントを手掛けるキュレーションファーム「草字頭」。展示のスタートとともに実施されたオンライントークセッションに登壇した「Plan b」の游適任(ジャスティン・ヨウ)は、本展開催の目的を、台湾と日本の交流活動への愛と祝福を示し、未来を築くことだと語りました。

「今回キュレーターとして参加するにあたって、2つのミッションを感じています。ひとつは、ここ数年で成長を遂げた台湾デザインの成果を表現すること。もうひとつは、同じように数年間に渡ってさまざまな面で台湾を支援していただいた日本に対して、感謝の気持ちを伝えることです」

「Plan b」によって制作された本展のロゴデザインには、「未来の花見」というタイトルの通り、花のかたちが用いられ、台湾と日本の「友好」が表現されています。トークセッションにてジャスティンさんは、花のデザインが表現する意味について、ミツバチと花の関係を例に解説しました。

「Plan b」による「未来の花見:台湾ハウス」のキービジュアル

「Plan b」による「未来の花見:台湾ハウス」のキービジュアル

「花は、多様性といった意味に加えて、環境への適応という特徴を表しています。ミツバチに花粉を運んでもらうことで花が適応していくように、花にとっては周囲の助けが必要なのです。同じように台湾は、国際的な友好関係によって支えられてきました。現在にいたるまでの成長は、まさしく日本や数多くの国との友好関係によって生まれたものなのです」

同じくトークセッションに登壇した草字頭の黃偉倫(フランク・ファン)は、展示作品の多くで特徴的に使用されたガラス素材について解説しました。

「展示会場では、たくさんのガラス作品を目にされると思います。台湾では、廃棄ガラスを回収して再利用する取り組みを行っています。今回の展示では、デザイナーたちと『春池ガラス』のコラボレーションによって作品が制作されました。春池ガラスは、毎年10万トン以上もの廃棄ガラスを回収し、リサイクルを実践しています」

写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

写真提供:Plan b / photo credit:James Hsu

トークセッションのラストでは、フランクさんはあらためて展示に込めた想いを語りました。

「今回の展示を通して、台湾という土地が持つ情熱と生命力を伝えていきたいと思っています。私たちデザイナーや参加アーティストが本展示のために咲かせた『花』を、ぜひ日本のみなさんにご覧いただきたいと思っています」

文・編集:堀合俊博(JDN)

「未来の花見:台湾ハウス」京都展

写真提供:ザ ターミナル キョウト

写真提供:ザ ターミナル キョウト

「未来の花見:台湾ハウス」は、東京に続き関西への巡回展として、京都市下京区の「ザ ターミナル キョウト」でも10月23日から11月7日まで展示が行われます。

「ザ ターミナル キョウト」は、昭和7年に建てられた京町家が復元工事されたカフェ・アートギャラリー・イベントスペース。かつてこの場所は、呉服問屋の名門「木崎呉服店」による呉服商が営まれてた商家であり、軒先側は呉服商の現場として、奥は住まいとして使用されていたことが推察されています。

施主でもある創業者は、趣向の凝らした教養に溢れており、そのこだわりは茶室をはじめとする部屋の細部や天井の造り、そして奥にある日本庭園に表れています。今回の関西への巡回展では、日本庭園の特徴となる京町家にて、借景という手法を用いることで、テーマをより身近に感じ、日本と台湾との文化の融合・共演が表現されています。

写真提供:ザ ターミナル キョウト

【開催情報】
日付:2021年10月23日〜11月7日
時間:10:00〜18:00
会場:ザ ターミナル キョウト(入場無料)
京都市下京区新町通仏光寺下ル岩戸山町424番地
詳細: https://www.taiwannow.org/jp/program?id=1

「未来の花見:台湾ハウス」オフィシャルnote
https://note.com/taiwan_house