2021年10月から11月にかけて、東京と京都で開催された「未来の花見:台湾ハウス」。8組のクリエイターによる伝統技術が用いられた作品と、台湾に多様な変化をもたらしたプロジェクト事例の展示を通して、台湾デザインの「いま」を体感する貴重な機会となりました。
「Good Design MARUNOUCHI」にて開催された東京展のレポートに続き、本記事では本展の全体キュレーションを手がけた、台湾気鋭のコンサルティングカンパニー「Plan b」の游適任(ジャスティン・ヨウ)氏と、キュレーションファーム「草字頭(Double-Grass)」の黃偉倫(フランク・ファン)氏のお二人にインタビューを実施。本イベントの実施機関である、台湾デザイン研究院の担当者も同席のもと、これまでの活動や本企画に込めた想い、台湾デザインの展望をうかがいました。
コンサルティングとデザインを通して持続可能な発展を目指す「Plan b」
––まずは「Plan b」の設立経緯を教えてください。
Plan b 游適任(ジャスティン・ヨウ 以下、ジャスティン):大学では法律学を学んでいたのですが、在学中に広告をメインとしたデザイン会社とシェアサイクル事業を立ち上げました。これらの事業は順調に拡大させた後に譲渡し、2010年に「持続可能な発展」を理念にしたコンサルティングファーム「Plan b」を設立しました。
Plan bではコンサルティングだけでなく、ブランディングやインテリアデザイン、展示キュレーションなども幅広く手がけています。ちなみに、クライアントが持っているアイデアを「プランA」とした場合、コンサルティング会社として我々が提案するものは「プランB」だということが社名の由来になっています。
––これまでどのようなプロジェクトを手がけられてきましたか?
ジャスティン:Plan bではクライアントワークだけでなく、メンバーが自主的にやりたいことがあれば予算を確保して実施できるシステムがあります。そのシステムを使って実施したプロジェクトのひとつが「ParkUp」です。
台湾の中でもとくに人口密度が高い台北では、密集した建物の隙間にできた狭くいびつな空間の増加が社会問題となっています。一方で子育て世帯が多い地域では、街中に子どもが自由に遊べる場所が少ない、遊具も似たり寄ったりでつまらないという声がある。そういった意見から、街中に点在する利用されていないスペースを使って、いろんな遊び方ができる公園をつくるのはどうかと考えたんです。
そこで、私たちはレゴのようにモジュール化された遊具をデザインしました。パーツを自由に組み合わせ、ガイドラインに沿って配置するだけで幅広い空間と遊び方に適応します。幸運なことに、ParkUpは日本で2017年のグッドデザイン賞を受賞しました。これからも年1箇所くらいのスピードで展開していきたいと思っています。
ジャスティン:もうひとつ、コンサルティング会社であるPlan bが本格的にデザインに取り組むことになったのが、台北文創ビルのプロジェクトです。台北文創ビルは、台湾政府がクリエイティブ産業を推進するためにつくった松山文創園区(クリエイティブ・パーク)の敷地の中にあり、このビルを所有するデベロッパーから建物自体のブランディングの相談を受けたのがプロジェクトのきっかけです。
周りが古い建物ばかりということもあり、すぐ隣に新築ビルが建つと少し違和感がある。そこでビルの前の広いスペースを、いろんな人が訪れ、混ざり合うコミュニケーションの場として活用することにしました。具体的には、毎年テーマの異なる展示会を開催し、現在までに6年連続で実施しています。
この展示会でピックアップしているテーマは、「当たり前すぎて真剣に考えたことがなかったこと」。たとえば、台湾の難しい書体、毎日食べるお米、朝食の習慣、流行曲の歌詞の裏の意味など。台湾で暮らす人にとって身近なテーマに関して、いろんなクリエイターに違う視点から考えてもらいました。
もちろんサスティナビリティにも配慮していて、たとえば、鉄でできた板の構造体の中に来場者が入っていくような展示では、終了後に什器を農家の方がコンテナとして使うことができるようにデザインしています。テーマは毎年変わりますが、同じ業者と提携することで材料を再利用できるような体制にもしています。
––コンサルティング会社であるPlan b内では、もともとデザインや制作を担うチームも組織されていたのですか?
ジャスティン:デザインや制作のチームは2016年のこの台北文創ビルプロジェクト以降、徐々に立ち上げました。Plan bは、企画やコンサルの視点がまずしっかりあって、それをデザインに落とし込むという手法が他のコンサルティング会社やデザイン会社と違うところだと思います。
デザインやアート、文化が交差する場をつくる「草字頭」
––それでは、「草字頭」の設立経緯とこれまで手がけられたプロジェクトについて教えてください。
草字頭 黃偉倫(フランク・ファン 以下、フランク):私は両親ともに財務関係の仕事をしていたこともあって、大学在学時はアメリカでマーケティングや経営管理を学びました。その大学で映画制作と出会い、チームをまとめて作品をつくり上げていくプロデューサーという役割に興味を持ったのが、いまの仕事につながっていくきっかけだったと思います。
卒業後に台湾に戻って「草字頭(ダブルグラス)」を設立し、当初は郊外に広いスペースを借りてアーティストインレジデンスを運営したり、敷地の一部で非営利団体の展示会を開催していました。多くのアーティストやクリエイターと一緒に活動する中で、自分の興味関心がより明確になっていき、現在草字頭では展示キュレーションを専門に行っています。
フランク:私たちの代表的なプロジェクトのひとつは、台北アートブックフェアです。もともとはアーティストインレジデンスを運営していた2012年に、そこで活動していたビジュアルアーティストたちと一緒に企画開催したのが始まりです。
1年目の開催で大きな反響を呼んだのですが、アーティストだけでなく、学生やミュージシャン、デザイナーなど、幅広い人たちに来てもらうために、アート系の書籍などを出版している小さい出版社や書店に声をかけて参画してもらうようにしていきました。5年目には出展者数は330社にまで成長し、その後毎年開催しています。出展者の4割は日本を含めた海外からの参加者です。
この展示会の特徴は、什器がすべてとてもシンプルであることです。出展者は材料だけを支給されて、あとはそれぞれがクリエイティブに見せ方までを考えてつくる。たとえば段ボールと割り箸と鉛筆を使って、テーブルや椅子を自由につくるんです。すべての素材は展示会が終わっても廃棄せず、来年も使えるような仕組みづくりにトライしています。
フランク:もうひとつは2019年の台湾文化博覧会のパビリオン「文化大学堂」です。元空軍の総司令部跡地を会場として利用し、展示会のパビリオンではありますが、エコシステムや歴史やデザインなど幅広くいろんなことを学べる場所になってほしいという狙いがありました。
そのために私たちはこの場所を「エビ釣り場」にしようと考えたんです。台湾では、エビ釣り場は都会の中のオアシスのような存在。リラックスしながらその場で釣って食べたり、一種の交流の場になっているユニークな文化です。このパビリオンは、そんなエビ釣り場のような雰囲気で、自然にいろんなことに触れ、学べる場所にしたいと考えました。
たとえば、かたちや色についてだけがデザインではないということを伝えるために、既存素材の新しい可能性や使い道について展示したり、デザイン事務所が課題をどう見つけ出し解決していくのか、というデザイン思考プロセスについても展示しました。また、来場者が実際にエビ釣りができる池をつくり、そこで釣ったエビを使った料理教室を開いたり、そのそばのステージではダンスパフォーマンスやトークショーも開催しました。いい意味で混沌とした場所になったと思います。
––場の設定や出展者のキュレーションを行う際、どのような視点で進めていますか?
フランク:その場所の全体のビジョンや、誰に何を学んで欲しいかという設定、年代別の過ごし方や狙いなどのいくつかの軸を設定し、それに沿ってコンテンツを決めていきます。
私は色やかたちだけでなくシステムやスキーム、参加者の体験をデザインすることがとても重要だと考えています。だからイベントのときにはキュレーターやクリエイターが最後までつくり切るのではなく、残りは参加者が自分で考えたり、参加していく中で完成させるような余地を残すようにしています。
台湾の産業とデザインの協調的な発展を紹介した「未来の花見:台湾ハウス」
––「未来の花見:台湾ハウス」にキュレーターとして参加されたきっかけを教えてください。
ジャスティン:本プロジェクトの日本顧問である、methodの山田遊さんにお声がけいただいたのがきっかけでした。山田さんは、今回の展示のキュレーションを考えるにあたって、できるだけ文字に頼ったものではなく、来場者が見て触って、においでリアリティを感じられる展示にしたいと考えていて、その際に、以前Plan bと草字頭で企画した台東の展示を思い出していただいたんです。
2019年に台東で開催したイベントで、農業と観光が盛んな台東の地域特性を活かした、五感で感じることができるパビリオンを設計しました。イベントは盛況で、山田さんもご覧になって感動されたようで、今回の展示のキュレーターとして当時と同じチームである私たちにご依頼いただきました。
––本展のテーマである「未来の花見」はどのような経緯で設定されましたか?
ジャスティン:まずは母体となっている日本と台湾の文化交流事業「Taiwan NOW」のテーマが「花」なので、本展でもそれを踏襲しています。花についてはいろんな解釈がありますが、私たちが注目したのは、花というものは、活動範囲を広げるためには必ずミツバチのような外部の存在の助けが必要になるということです。
同じように台湾産業の高い技術は、デザインや海外文化との融合によって広く伝わっていく。そう考えると、台湾の技術やデザインの可能性を語っていく上で花というテーマは合っているなと思いました。また、日本独特のお花見という文化もテーマに含めることで、台湾と日本が一緒にお花見をするような友好的な未来への願いも込められています。
––台湾デザインを紹介するにあたって、リソースの統合・社会への応用・ 時代に応じるパワーの3つの視点を設定した背景についても教えてください。
ジャスティン:創作作品だけでは見せられる側面が限られると感じたので、展示ではいくつかの軸に沿ってデザイン事例を展開することを考えました。
まず、台湾では昔からOEMやODMが盛んで、ものづくりにおいて高い技術力があります。それらの技術を統合することで、海外のニーズに応えていくことに長けているという特徴を「リソースの統合」として掲げました。ふたつ目の「社会への応用」は、台湾は国土が狭いこともあり、社会の中で変化に対する気運の高まりと実現までがスピーディーであることを表していて、これも台湾産業の大きな特徴です。
3つ目の特徴「時代に応じるパワー」は、背景に海外のトレンドに敏感に反応するという台湾の国民性です。EUや先進国では、時代に応じたデザインはもちろん、サスティナビリティについても積極的に取り組んでいますが、台湾はそれを敏感にキャッチし、技術力で応えていく能力があると思います。これら3つの特徴をテーマにし、全体の展示設計を行いました。
––クリエイターたちは展示作品について「リサイクル可能な素材」「最新の生産技術」「伝統工芸」の3つの視点をもとに制作を行なったそうですが、これらの視点はどのような経緯で設定されたのでしょうか?
台湾デザイン研究院:台湾は経済および技術の発展と同時に、国の文化的な豊かさも重視してきました。現在はデザインの範疇もさらに拡大し、さまざまなイノベーションを通じたコラボレーションが生まれています。社会的にも持続的発展の思考が徐々に定着してきている中、これら3つの視点をもとに制作してもらうことで、展示会全体でそれを発信できればと考えました。
––今回はガラスを使用した作品が多い展示となりましたが、特に印象的なものはありますか。
ジャスティン:特定の作品ではないのですが、今回参加されたクリエイターは、ほぼ全員がガラス工芸未経験者なんです。職人による指導のもと何度も試行錯誤しながら、ガラス工芸の特徴を体感しながらつくり上げていった作品もありました。未経験だからこそ、既成概念にとらわれず、デザイン手法によるユニークなガラス工芸作品が生まれたのは印象的な体験でしたね。
ー台湾の伝統工芸の中でも、ガラス工芸についての思いをお聞かせください。
ジャスティン:台湾は、立地的にガラス産業に欠かせない珪(ケイ)砂と天然ガスに恵まれたため、日本統治時代からガラス産業が盛んでした。さまざまな技術をもった職人が、化学用途のものから装飾品、工芸品まで幅広く制作し、かつては型押しガラスやクリスマス用ランプ、ガラス細工などのアイテムにおいて、世界有数の供給国として活躍してきました。しかしながら、近年はプラスチック製品の台頭により、ガラス産業は廃れつつあったという経緯があります。
現在はガラスの回収システムがきちんと整備され機能しているおかげで、ガラス回収率は世界に誇るレベルに到達しています。今後は昔から培ってきた工芸の技術を使って、回収ガラスをどう生かしていくのかが課題だと思います。
––今回の展示は、台湾の社会課題への意識の高さや行動力をよく伝えていると思います。その理由や背景として感じていることはありますか。
フランク:台湾は歴史上、植民地を経験したことで、自分たちのアイデンティティが曖昧だったりします。ただ、小さい国なのでその分海外の情報を常に吸収し、自分なりに国を変えていくという意識を持っているのかもしれません。さまざまな時代を経験したことで、多様な考え方を包容するという国民性は、台湾の強みではないかと思います。
また、台湾にはOEM・ODMを通してものづくりの経験をたくさん積み、おもしろそうであれば新しいこともやってみようという企業が多いんです。だから、デザイナーもアウトプットしやすいし、行動に移していきやすい。背景のひとつにはそんな環境もあると思います。
ジャスティン:台湾の「相談しながら試していく」という進め方も個性のひとつかもしれません。たとえば今回の作品も、少量制作のため工場でつくることは難しい。でも、高い技術をもった熟練の職人さんに直接お願いすることで、「やってみよう」と制作が実現したものもありました。実際どの作品もたくさんの試作をし、どれも難しいものばかりでしたが、結果的に良い作品が出来上がりました。
台湾と日本、文化とデザインの共演を京都・町屋で表現
––「未来の花見:台湾ハウス」は東京での開催後、京都でも巡回展が開催されました。その経緯を教えてください。
台湾デザイン研究院:今回は花がテーマなので、借景として京町屋の日本庭園で展示するのはどうかと、2021年の春ごろから場所を探し始めました。町屋と言ってもお屋敷ではなく、一般人が住むような町屋で、日々の暮らしの近くに台湾デザインがあるような融合を演出したかったんです。「ザ ターミナル キョウト」は約80年の歴史を持った町家ですが、スケールもちょうどよく、リノベーションの具合も現実的だと思いました。展示は、庭園と溶け込むようにガラス作品の配置をしたり、日本と台湾との文化の融合・共演を表現できたと思います。
––日本のデザインやデザイナーについてどのような印象を持たれていますか?
ジャスティン:台湾と日本は関係が近いこともあり、台湾のデザイナーが日本で勉強していることも多いと思います。日本で吸収したことと、台湾の地域性を組み合わせたデザインも多いですね。個人的には日本は文脈に沿ってデザインすることに長けていて、その分野で発展していった印象があります。
フランク:日本のデザインで個人的に好きなのは、伝統的な技術が尊重され、多く取り入れられているもの。とくに京都には伝統的な職人の精神や技術と、現在のデザイン技術が融合し、作品も繊細なものばかりだと思います。伝統技術を尊重している姿勢と、それによってつくられた日本の商品の繊細さが好きです。建築や工芸品などさまざまな分野でその傾向がうかがえると思います。
––最後に、本展をきっかけとした今後の日本と台湾とのコラボレーションについて、期待していることをお聞かせください。
ジャスティン:以前からグローバル・ヴィレッジ(地球村)という言葉はありますが、コロナの影響により、世界が密につながっていることをより実感し、その影響力の重大さも痛感したここ2年でした。日本と台湾は、地理的な関係はもちろん、価値観もとても近いので、今後デザインフィールドにおいてさらなる連携が生まれるといいなと思います。
フランク:会期中、多くの方々にご来場いただいて、作品のほか、私たちがピックアップしたソーシャルデザインやパブリックデザインの事例にも大きな関心を示していただきました。社会課題の解決に向けた日本と台湾とのクリエイションによる協働には大きな可能性があるので、今後ますます重要になっていくのではないかと感じています。
文:西濱萌根 取材・編集:堀合俊博(JDN)
「未来の花見:台湾ハウス」では、会期中にソーシャルデザイン・サスティナビリティ・パブリックデザイン・産地デザイン・生きるリノベーション・変化の時代の暮らし方と働き方をテーマに、日本と台湾のクリエイティブシーンの立役者によるクロストークを計6回開催。現在オフィシャルnoteにてレポートが公開されています。
「未来の花見:台湾ハウス」オフィシャルnote
https://note.com/taiwan_house
「未来の花見:台湾ハウス」公式サイト
https://www.taiwannow.org/jp/program?id=1