昨年12月、台湾デザインの祭典「台湾デザインウィーク2025」が台北にて開催された。台湾の経済部産業発展署が主催し、台湾デザイン研究院(以下、TDRI)が運営を担う同イベントは、2025年で3回目を迎える。今回、国際的なデザイン研究会議「IASDR」との同時開催が実現し、共通テーマとして「Design Next」が掲げられた。
本記事では台湾デザインウィークのメイン展示である「Design Next」展と、IASDRでの基調フォーラムの一部をレポートする。
デザインにおける価値観の変遷―パラダイムシフトを考える
「Design Next」展は、TDRIが研究する「デザインのパラダイムシフト」に関する展示からスタート。

価値観の移り変わりを象徴する製品や事例が並ぶ
「パラダイムシフト」とは、その時代の人々の考え方やものの見方、枠組みが覆ることで、価値観が劇的に変化することを言う。同展ではデザインにおけるパラダイムシフトを3つのフェーズに分け、冒頭で示した。
最初はアーティファクト中心のフェーズ。デザイナーは製品をいかに効率的に組み立て、生産するかに注力し、素材や耐久性などを追求してきた。2つ目は人間中心のフェーズ。ユーザーエクスペリエンスや人々からのフィードバック、そして経済性を重視するようになる。そして3つ目は、アッサンブラージュ(Assemblage:「組み立て」の意)中心のフェーズ。人間中心のアプローチを超え、生態系や持続可能性、人間と他の生物、地球規模のつながりを重視するようになっているということだ。

Assemblage-Centeredのデザイン事例として、台湾のレンタル自転車「YouBike」などが紹介された
同展のキュレーターであるPing Hung Chung氏は、デザインという行為以前の、思考の過程でおこなわれる「価値観の選択」こそが「Design Next」を考えるうえで重要なポイントだと語る。ここでは、その価値観が個人から人類、さらには地球全体の配慮へと変化している様子が提示されていた。
台湾デザインの「いま」を紹介
次に「Design Now」と題されたコーナーでは、現在の世界や台湾におけるデザインの動向について具体的事例が紹介された。

通路の両側に展示室が並ぶ。中央に設置された光のパネルには、時代を象徴する世界的なデザインの数々が並ぶ
例えば、台湾で写真に特化したコミュニティスペースを運営する「Lightbox Photo Library」が制作した作品「The Democratic Camera(民主主義カメラ)」は、もともと「カメラのすべての部品を民主主義国家で生産する」というアイデアから生まれた。しかし実際には、グローバル化した現代において、完全に民主主義国家のみの部品で構成することは困難であったという。

内部の部品が透けてみえるThe Democratic Camera。実際に撮影すると、通常の写真とあえて不明瞭に映し出された写真が出力される
作者はこのカメラを通して、真実は本質的に曖昧で、非常に不明確であるというメッセージを伝え、台湾市民の消費行動における選択や主体性について問いかける。
また、循環型経済や資源の持続可能性に関わるデザイン事例として、循環型ショッピングプラットフォーム「Restyle2050」による取り組みも紹介された。アーティストのLee Chi-Chang氏とのコラボレーション作品だ。

(左)Restyle2050×Lee Chi-Changの作品。(右)リサイクル可能なアルミニウム製の家具ブランド「fafacasa」の展示
同作は、廃棄される家電製品の一部を植物の葉や繊維と組み合わせたアート作品のシリーズ。家電製品のもつ美しいデザインを生かし、生活を彩るオブジェに変化させることで、デザインとアートの視点からリサイクルの可能性を提示している。
また、台湾では小中学校などの教育機関へのデザイン導入が進められ、ステレオタイプな教室や教科書のリデザインがおこなわれている。こうした公的機関におけるデザインの活用は、政府レベルの重要なプロジェクトとして近年推進されているという。会場では、ほかにもデザイン事例が30ほど挙げられていた。

リデザインされた教科書を紹介するキュレーターのPing Hung Chung氏

コロナ禍に開発されたゲームの展示。外出を控える人々がゲーム上の町「Sunset Town」に集まり、人気ミュージシャンのコンサートに参加した。展示では、物理的条件から解放されるというバーチャル世界の特性だけでなく、デザイン・アート・テクノロジーの創造的な相乗効果と商業的可能性を示したものとして紹介された

(左)台湾北西部の苗栗県にある「苑裡(エンリ)市場」の再生プロジェクトの紹介。1世紀以上の歴史ある市場を再生するにあたり、市場の店主や住民とともにワークショップが実施され、ブランディングやサインデザインの開発、インクルーシブなビジネスモデルなどについて世代を超えた対話がおこなわれた事例。(右)日本の群馬県前橋市によるまちづくりのビジョン「めぶく。」の策定とデザイン・アート・民間との共同により実践されたプロジェクトの紹介
デザインの未来は、人々の価値観によって導かれる
展示の後半には、台湾の建築、環境デザイン、工業デザイン分野の重要人物たちによる映像展示がおこなわれ、どのように自身のアイデアや価値観、理想を実現させているのか、そして未来はどうあるべきかについて語られた。

台湾のモーションデザイン・カンパニー「Bito」創業者兼チーフ・クリエイティブ・オフィサーであるKeng-Ming Liu氏のインタビュー動画
同展キュレーターのPing Hung Chung氏は、デザイン以前の「価値観の選択」こそが「Design Next」を考えるうえで重要なポイントだと語った。そしてこの最後のパートで示されるのは、価値観の選択において大切なのはモノやデザインそのものではなく、それらが私たちにもたらす「つながり」や「関係性」であるということだ。

どのような価値観に基づき判断をおこなうべきか、来場者に問いかける展示
会場の出口近くの壁には、今日において特に重要とされる価値観―自由や平等、民主主義にまつわる疑問が提示されていた。来場者はここで、台湾の選挙で用いられるのと同じスタンプで意見を表明することができる。

問いに対する2つの価値観が提示され、自身の意見がどちら側であるかスタンプで表明できる
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