三都半島
殿川ダムを横目にパスし(実際は登ってきました)、県道252号線をそのまま進むと、また景色が開けて三都半島が見えてきます。小豆島のちょうど真ん中に長く延びる半島で、小豆島オリーブ園や、半島の最南端には地蔵埼灯台があり、小豆島の豊かな自然をいちばん楽しめるところかも知れません。
このエリアは作品が充実しているのですが、いくつかポイントとなる集落が点在しているので計画的にまわる必要があります。
「空想と虫籠」(尾身大輔)は、もともと瓦工場だった場所に、巨大な益虫(カマキリ)と害虫(ウンカ、オリーブゾウムシ、イナゴ)木彫が展示されています。害虫と益虫、捕食者と被食者の関係を暗示していますが、個人的には不思議な静寂を感じる作品でした。もう使われることのなくなった、しかしそこで瓦がつくられていた生々しさが残る場所に、唐突に展示された木彫。このコントラスが芸術祭のおもしろさかも知れません。
そこから数百メートル離れた空き地に展示された「段山遺跡群」(久保寛子)は、ワイヤーとネットのようなもので制作された巨大な足、巨大な人面、巨大なイノシシが悠然とそこに佇んでいます。段山(作品が展示されている地区にある山)に古代文明が存在したと架空の話を設定されたものですが、高さ3メートルはあろうかという作品の迫力は圧倒的でありながら、昔からそこに在ったような不思議な調和をはかっています。
ここから県道250号線(三都港平木線)を伝って、半島を東西に横断してみることにしました。先ほどの段山を超える軽めのヒルクライム(登坂)です。ちょっとしたアップダウンがあるのは、サイクリストにとってはお楽しみポイントのひとつです。
見晴らしの良い海辺にある「境界線の庭」(土井満治)は、災害で出た土砂で埋め立てられた土地に、鳥居に見立てた石彫などを設置したモニュメント的な作品です。先述した中山千枚田にしてもそうですが、一見すると穏やかで気候に恵まれているように見える小豆島にも災害の歴史というものがあります。
さて、ここからは三都半島の南端を目指します。斜度7〜8%程度の坂が3kmほど続くので、小豆島の中ではわりと登り応えがあるところといえます。正直いうと、気温33℃(快晴)の真っ昼間に走っていたのでけっこうキツかったです……。登坂は午前中に限る!
南端の絶景ポイントに展示されているのが、「怪物と少年Ⅱ/この彫刻は一万年の生命を持ちヒトの一生の間には10mほど歩くⅢ」(伊東敏光)です。広場と砂浜にキメラのような「怪物」の彫刻が設置されています。周囲の絶景と怪物の存在に少しだけ違和感を覚えますが、人間の目なのか脳の不思議なのかはわかりませんが、だんだんと風景のひとつとして知覚するようになってきます。ちなみにこの怪物の背中に乗ることもできるのですが、なんとなくひとりで実行するのは気恥ずかしくてスルーしました……。家族や友人と行かれる方は記念撮影したほうが良いと思います!
草壁港〜醤の郷
草壁港周辺で立ち寄ってほしいのは、「Shodoshima Gelato Recipes Project by カタチラボ」です。大阪のクリエイティブユニット「graf」と、 小豆島のイタリアンレストラン「FURYU」による企画で、 島の旬の食材を使ったジェラートを食べられる場所として「MINORI GELATO(ミノリジェラート)」という名前でジェラート屋をオープンさせています。バニラ、ミルク、チョコレート、ピスタチオをはじめ、小豆島産のオリーブ、生姜、キウイ、イチゴ、レモン、 デコポン、八朔、酒粕、など目移りするようなラインナップを常時10〜12種類展開しています。会期中は無休というのも嬉しい限りです。
「醤の郷」の読み方は「ひしおのさと」です。漢字を見ていただくと察しがつくかも知れませんが、醤の郷は醤油づくりを生業としてきたまちで、その歴史は400年以上にわたり、豊臣秀吉にも献上されたそうです。最盛期の明治時代には約400軒の醤油屋があり、終戦後には醤油を使った佃煮がつくられ、発酵文化とともに生きてきた歴史があります。百聞は一見にしかずなのですが、このエリアには醤の香ばしい香りがあたりに充満しています。 この香りだけでご飯が食べられるくらいです(言い過ぎ)。
ここで見てほしい(というか立ち寄ってほしい)のは、ドットアーキテクツによる「Umaki camp」です。前回の瀬戸内国際芸術祭で、老若男女、島の人、観光客を問わず、誰もが建てることに参加できるコミュニティスペースが完成。自由に使えるキッチンやスタジオ、野菜畑や屋外シアターなどもあり、地域と観光客との交流の場としても活用されています。
300万円というリーズナブルな材料費で制作されたことも話題になっていましたが、芸術祭が終わった後に「どう地域と交わり残していくか?」という問題のヒントになっています。もともとは残していく構想まではなかったそうなのですが、建設中から地域住民の方が野菜や植物を植えたり、場所を自分たちのものとして使いはじめてくれたそう。そうした経緯もあって、現在ではまちの縁側のような存在になっていると感じました。
小豆島を自転車でまわっていることを「Umaki camp」にいらっしゃった地域の方たち話すと、「あそこは行ったの?」「あれは食べた?」「きのうも自転車に乗った人が来たよ」とか、ものすごーくフランクに話しかけてくれる心地のいい場所です。ちょうど学校から下校する子どもが立ち寄っている光景にも和みました。
坂手
前回の瀬戸内国際芸術祭と同様に、デザインチーム「UMA/design farm」と編集チーム「MUESUM」が主体となりプロジェクトを展開する、Creator in Residence「ei」。春・夏・秋の3会期、それぞれ滞在するパートナーを迎え、さまざまな視点から小豆島、そして坂手の魅力を伝える滞在制作・展示・発表を行っています。春会期は、YCAM(山口情報芸術センター)をパートナーに、微生物と地域の人の営みや知恵を見えるかたちにした。”食”と”発酵”というとても身近であり、地域の個性が色濃く出るテーマに取り組んでいます。
夏会期は、UMA/design farmの同胞ともいうべき、ドットアーキテクツをパートナーに迎え、海と人の営みについて聞き取りを実施。海の道具や船が納められていた小屋、山と海の間の防潮堤、海岸線の漂着物などを調査し、さまざまな観点から人々の思考や記憶を可視化していくというもの。
ちょうど取材した日は滞在制作の大詰めで、実際の展示作品を観ることができていないのですが、UMA/design farm代表の原田祐馬さんに展示会場となる坂手物見台を案内していただき、作品の概要などをうかがいました。坂手物見台はその名のとおり遠くまで見渡せる場所で、ここからの坂手が一望できます。海と山がとても近く、その間に集落が密集しています。こうしたまち並みを俯瞰できる場所で展示を発表するというのが良いですね。
製作中の作品は、海外線の漂着物で船に見立てたオブジェをつくり、録音した地域の人々の語りや歌を流して、その船をある種のキャラクターを持った媒介役として、山・森・海に囲まれた坂手を分析するというものだそうです。「~だそうです」としか言えないのがつらいところですが、原田さんからお話をうかがってとても興味深いと感じたし、何がしかの記録として残してほしいなと思いました。
UMA/design farmとMUESUMが滞在制作している、坂手観光案内所内(旧JA坂手出張所)の「ei studio」隣には、劇団「ままごと」がプロデュースする喫茶店「喫茶ままごと」が営業中(夏会期のみ)。小豆島の特産を使用したオリジナルメニューや、期間限定でパフォーマンス(!)も注文できます。
また、1階には小豆島町への移住支援と空き家・空き地の活用促進を目的としたNPO法人「Totie(トティエ)」が事務所が構えています。移住体験ツアーや空き家を活用した滞在施設の運営を行っていて、小豆島への移住者は年々増加しています。こちらで事務局長をつとめる向井達也さんもそのひとりで、前回の芸術祭にドットアーキテクツのスタッフとして滞在制作していましたが、小豆島に魅了されて移住されたそう。元々、瀬戸内の海の道の中心として、外から人と文化を受け容れることで独自の文化を形成してきた小豆島ですが、芸術祭が地域に与える影響は少なくないことを実感できました。
まだ、この他にも作品が展示されているエリアはありますが、滞在時間の都合で回ることができたのはここまで。じっくり見て回りたい、そして食も楽しみたいかたは2泊ぐらいするのがおすすめです。走行距離は1泊2日で90kmくらい(小豆島での滞在時間は実質10時間強)、交通量もほどほどで走りやすい道が多く、シリアスに走りこむというよりは、ポタリング的に走ることで島の雰囲気を満喫できると思います。冒頭でも述べましたが、サイクリストはぜひ自転車を持って小豆島に遊びに行ってほしい!
瀬尾陽(JDN編集部)
瀬戸内国際芸術祭
http://setouchi-artfest.jp/
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