「ミラノデザインウィーク 2025」出展者レポート-フオーリサローネ(ミラノ市内)

「ミラノデザインウィーク 2025」出展者レポート-フオーリサローネ(ミラノ市内)

世界最大規模の家具・デザインの祭典「ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano)」が、2025年4月8日から4月13日まで開催された。毎年4月にイタリア・ミラノで開催される同見本市。今年は隔年開催の照明見本市である「エウロルーチェ」も同時に実施された。

会場では37カ国から2,103の出展(700人のサローネサテリテ参加デザイナー人数を含む)があり、30万2,548人が来場。最新の家具やインテリア、照明、テキスタイルなど多岐にわたる分野の最先端トレンドが一堂に会した。

会期中はミラノ市内各所で「フオーリサローネ」と呼ばれる多彩な展示やイベントが同時開催され、街全体がクリエイティブな熱気に包まれる。本特集では、今年度のミラノデザインウィークに日本から出展した企業やブランド、出展者に注目し、大きく3つに分けて紹介する。

●ミラノサローネ見本市会場
●サローネサテリテ
●ミラノ市内

本記事では、ミラノ市内で1,000件以上開催されたデザインイベントの中から、フオーリサローネの様子をレポートする。

ブレラ地区

エス・デヴリン「光のライブラリー」

ブレラ美術館の中庭では、アーティスト兼空間演出家でもあるエス・デヴリンによるインスタレーション作品「光のライブラリー」が展示された。

同作品はその名の通り、2,000冊以上の蔵書が収められた巨大な円形の書棚になっている。床はゆっくりと回転する仕組みで、日時計のようなフォルムを生み出していた。棚はライトアップもされており、日中と夜で異なる表情を見せ、来場者を楽しませていた。

Grand Seiko 吉岡徳仁

グランドセイコーとコラボレーションした展覧会「TOKUJIN YOSHIOKA ‒ Frozen」は、ブレラ地区にある歴史的建造物 Palazzo Landriani(パラッツォ・ランドリアーニ)にて開催された。新作の水を結晶化させた氷の椅子「Aqua Chair」と、時の流れと調和して流れるように動く秒針を持つグランドセイコー独自の機構「スプリングドライブ」搭載モデルを展示した。

写真提供:TOKUJIN YOSHIOKA INC.

これまで透明な素材を使って「光」を表現してきた徳仁さん。今回の新作は数年前から構想してきたという、形を持たない“水”を氷結させ、自然構造の椅子を生み出した。

写真提供:TOKUJIN YOSHIOKA INC.

Time & Style

Time & Styleは、日本の職人技と現代的なデザイン手法を組み合わせた新しいコレクションを2022年にオープンしたショールームで展示した。

日本の豊かな自然環境と工芸の伝統から生まれた最高級の素材と技術が使われたというコレクション。椅子やテーブル、棚、間仕切り、照明など数多くの新作が、博物館で展示されているようなキャビネット(こちらも新作)に展示されていた。

なかでも目を引いたのは、ありそうでなかった“い草”素材を使った椅子と大きなキノコのような無垢材の椅子。

ロエベ

ロエベは、「ロエベ ティーポット」をパラッツォ・チッテリオにて発表。同作品は、25名のアーティストやデザイナー、建築家が特別にデザインしたティーポットのコレクションだ。

各アーティストが独自の方法で向き合うことで生まれたティーポット作品は、全体として世界各地における「お茶を淹れること」およびその文化における多様で豊かな伝統を活かしつつ、ポットの彫刻的造形を見つめ直すものとなっていた。

コレクションは、広い地下空間につくられた横長の什器の上に並んだ。なお、日本からは、崎山隆之さん、スナ・フジタさん、新里明士さん、深澤直人さん、道川省三さん、安永正臣さんと、国別最多人数のアーティストやデザイナーがコラボレーションをおこなった。

エルメス

エルメスは、ブレラ地区のラ・ペロタにて新しいホームコレクションを発表した。空間演出を手がけたのは、エルメス ホームコレクションのアーティスティック・ディレクターのシャルロット・マコー・ペレルマンとアレクシィ・ファブリ。

会場の表側から見た会場の様子

会場に入ると、真っ白な空間にところどころ鮮やかな色彩が漏れ出ている不思議な雰囲気。

真っ白な円柱や箱状などさまざまな構造体が天井から吊られており、その裏側に回るとクラフトマンシップを体現するコレクションが並んでいるという仕掛けだった。

白い構造体の中にはコレクションが並ぶ

Gucci

グッチは「Gucci | Bamboo Encounters」と題した展示を、歴史のある教会のひとつ、サン・シンプリチャーノ教会にて開催。16世紀に建てられた大回廊という美しいロケーションを舞台に、世界で活躍する現代アーティストやデザイナーが「バンブー」を再解釈した作品が並んだ。

中庭では、オランダのデザイン集団Kite Clubによるバンブーと現代的な素材を用いた凧のシリーズ作品が宙を舞っており、視線を集めていた。ほかにも竹のありのままの形に着目した彫刻作品や竹と異素材を組み合わせたプロダクトの提案などがおこなわれた。

コネル ZZZN SLEEP APPAREL SYSTEM

株式会社コネルは、睡眠の質を高めるために開発された衣服システム「ZZZN SLEEP APPAREL SYSTEM(ズズズン スリープ アパレル システム)」を披露&体験できる展示をおこなった。

Photo:Lorenzo Bacci

「未来の睡眠」をテーマにした、睡眠×音楽×アパレルという新しいジャンルの提案である「ZZZN SLEEP APPAREL SYSTEM」。会場では実際にコートを着て、その場に寝ころび、5分ほど体験することができた(実際は15分ほどが理想とのこと)。

コートにはヘッドピースが内蔵されており、着用者の状態に合わせた入眠しやすい周波数帯域の2種類の音楽が自動再生される。味わったことのない体験に、リラックス感と不思議な高揚感を得る人が多かったようだ。以前、原宿でも展示&体験がおこなわれていた同システムだが、本サービスの提供企業である株式会社NTTDXパートナーにて、6月24日から7月7日の期間で大阪・関西万博内で展示予定。

Photo:Lorenzo Bacci

無印良品

「MUJI MUJI 5∙5」としてインスタレーションを展示した無印良品。発表したのはフランスのデザインスタジオ「Studio 5∙5」との出会いから生まれた「マニフェスト・ハウス」というプロジェクトだ。

マニフェスト・ハウス

ミクロな建築としてのこの小さな家は、本質的な暮らし方を示すと同時に、既製品を再構成して生まれたユニークなコレクションでもある。無印良品の既存の製品を巧みに再利用し、日常の中にある価値を再発見させてくれる展示となっていた。

アップサイクルやリユースといった取り組みに長年取り組んできたStudio 5.5。そんな彼らを象徴する作品と、「有用性」「低環境負荷」「美徳」「耐久性」「時代性」をキーワードとする無印良品の製品とが対話するようなインスタレーションとなっていた。

Aesop

1987年にオーストラリアのメルボルンで創業したスキンケアブランド「Aesop(イソップ)」は、カルミネ教会でインスタレーション「The Second Skin(セカンドスキン)」を開催した。

イソップの新作「エレオス アロマティーク ボディクレンザー&ローション」の発売を記念して企画されたもので、いくつかのインスタレーションを体験できた。

建物内に入って目に飛び込んできたのは、フレグランスが実験器具のような器に入った作品。さらに進むと、中庭には長いテーブルが設置されており、その上には人間のトルソ―部分を模したような作品が。各作品に香りが記載されており、近寄るとそれぞれ異なる香りが楽しめた。

中庭の奥の建物内は撮影禁止だったが、香りに包まれながらうっすらとした明かりの中でコンテンポラリーダンスの映像作品や実際のパフォーマンスを見ることができた。

DOTS by YOY

ミラノデザインウィークへの出展は11回目となるデザインスタジオのYOYは、「DOTS by YOY」と題した個展をギャラリー「Galleria Clio Calvi Rudy Volpi」にて開催。今回は「DOTS=点」に着目し、2つの新作「ANTS」と「CONSTELLATIONS」を展示した。

「CONSTELLATIONS」は、“星座”を閉じ込めた照明。チップLEDを細い帯でつないだ立体基板で12星座を表現した。日本では血液型などのほうがよく話題に出されるが、ヨーロッパでは星座がかなり身近な存在だという。一番星はより輝くようになっていたり細かい設定も。

CONSTELLATIONS

「ANTS」は、“蟻(アリ)”が時間を示す時計。蟻はリアルすぎて一瞬驚くが、超高精細3Dプリンターで出力した実寸大のモデルを磁石で動かす仕組みになっている。世界に2万種以上生息するといわれる蟻のなかから特徴の異なる6種を選定し、それぞれの分布地域の時刻を示す6つの時計が展示された。

ANTS

オーディオテクニカ

ミラノデザインウィーク初出展となる株式会社オーディオテクニカは、音楽の新しいアナログ体験をつくるプログラム「analog 〜 naturally」の第1弾として出展した。展示コンセプトは「repeat the unrepeatable」。

写真提供:オーディオテクニカ

会場では、4月8日より先行予約を開始した製品「Hotaru」を中心に展示がおこなわれた。「Hotaru」は同社が追求する、アナログの新たな可能性を具現化したターンテーブル。レコードに収録された音を光に変換することで、アナログ音楽をより深く楽しめるようになっている。レコードが再生される空間を演出することで、音楽を聴いているその瞬間をより濃密にし、空間ごと体感して記憶に残すことができるという。

レコードから読み取った音が光と融合する「Lighting System」を搭載している「Hotaru」。A’DESIGN AWARD 2025の「Audio and Sound Equipment Design」カテゴリーにて、最高峰のプラチナ賞を受賞した

三井化学グループ MOLp®

三井化学グループの組織横断的有志活動「MOLp®」(モル、素材の魅力ラボ)は、これまで素材協力という形でミラノデザインウィークに数回出展をしてきたが、今回はじめて自らのアイテムを展示した。

写真提供:三井化学グループ MOLp®

会場に並んだのは、ポリプロピレンをヴィンテージ革のような見立てに一発で仕上げる技術を用いたチェア、オットマン「THE ZEN™」、グリーンワイズ・イタリアとコラボレーションで生まれたフラワーベース「STABiO® SLOW VASE」、3Dプリンターで1点1点異なる表情を出しながら、狙った音色を出力して生み出された、スマートフォンレンズのプラスチック素材を使った風鈴「TAMANE」など、伝統技術を、素材と現代技術を用いてアップデートしたアイテム展示となった。

オーツー「QUON」

株式会社オーツーは、「A Ray of Light」というテーマで展示をおこなった。業務用家具の製造・販売を60年以上手がける同社。オリジナルブランド「QUON(クオン)」のグローバル展開への第一歩としてはじめてミラノデザインウィークに参加した。

写真提供:株式会社オーツー

「QUON」は、「Quality(高い品質)」「Universal(世界規模の視点)」「Onlyone(唯一無二の製品開発)」をコンセプトに2011年に誕生したブランド。多様な人々や空間に調和するデザインを追求し、商業施設や飲食店、オフィスなどのシーンに適した製品を提供している。

会場では、社内外のデザイナーがデザインした椅子が、釣竿を利用したミニマルな什器とともに並んだ。什器や会場デザインは、STUDIO COHAKUの濱西邦和さんが手がけた。また、今回ミラノで使った什器は6月に開催されるオルガテック東京のQUONブースでも再利用が予定されている。

写真提供:株式会社オーツー

その他の地区

we+

コンテンポラリーデザインスタジオwe+は、2つのプロジェクトを5 VIEエリアに位置する「Galleria Rubin」で展示した。

1つめは、富山県高岡市で1906年に創業した鋳造会社の株式会社平和合⾦とのプロジェクト。2社の協働による新作花瓶コレクション「Unseen Objects(アンシーン・オブジェクツ)」を披露した。

製造の過程で使用される治具や、取り除かれ、廃棄される型などを花器に生まれ変わらせた

同コレクションは、製造の過程で使⽤される道具や治具、素材の質感や偶発的な造形など、これまで⾒過ごされてきた鋳物⽂化の舞台裏に着⽬したもの。通常は仕上げ⼯程で取り除かれる「バリ」や「鋳造砂」、⼤型鋳物の砂型を固定するための「鉄棒」を生かした6つの作品を展示した。

2つめは、株式会社アルガルバイオと共同開発している、微細藻類が持つ自然の色素を持続可能な革新的色材として探究するプロジェクト「SO-Colored」。食品やバイオ燃料の分野で広く研究されているが、色の特性はほとんど未開拓の領域という微細藻類。同プロジェクトでは微細藻類由来の色彩を家具やオブジェに生かし、新たな表現の可能性と実用性を模索している。会場では、椅子やウォールアートなどの形として展示された。

微細藻類の中には、ストレスのかかる環境下で育つと、緑から黄や赤へと色が変化する面白い特性を持つ種も存在する。近くで見ると飴や樹脂のようなテクスチャー感があった

長谷川依与

インテリアデザインとインスタレーション分野で活動するアーティストの長谷川依与さんは、作品「ANGLE」を展示した。会場は5 VIEエリアの歴史ある建物の一室。

“素材の可能性”からインスピレーションを得ているという長谷川さん。日常生活で使っているものの価値を再定義しようと試みており、今回は分度器や三角定規、長定規といった幾何学的な道具をモチーフに、角度や形の変化を楽しむことをテーマに展開した。アクリル樹脂による透明性と軽やかさから、独特の浮遊感を持った家具が並んだ。

陽の光の入り方により、メモリや数字の影が床に落ち、表情の違いを見せていた

ジャクエツ

遊具メーカーの株式会社ジャクエツは、スペシャルインスタレーション「Playful Sculptures(プレイフル・スカルプチャーズ)」をトリエンナーレミラノのエントランス前・芝生広場にて開催した。

展示されたのは、ジャクエツとプロダクトデザイナーの深澤直人さんが共同開発してきた遊具シリーズ「YUUGU(ユウグ)」。同シリーズは、子どもが楽しく、安全に楽しめるプロダクトであると同時に、彫刻的な抽象表現を彷彿とさせるオブジェクトだ。

海外初展示となる今回は、これまでに発表したプロジェクトの中から丸みを帯びたなめらかなかたちの「OMOCHI」、起伏や傾きが連続的に移ろう円形の通路「BANRI」など、国際的な安全性や機能の有効性を示すTÜV認証を取得しているものが中心に並んだ。

会場はミラノ市内中心部のセンピオーネ公園のなかにあったため、散歩をしに来た親子が遊具で遊んだり座ったり中に入ったりと、説明はなくとも自然とその場に集い、戯れる場になっていた。

アクアクララ×HONOKA

アクアクララ株式会社とデザインラボ・HONOKAは、プロジェクト「TRACE OF WATER – 水の痕跡 -」を歴史的建造物「Palazzo Litta(リッタ宮)」にて発表・展示した。

会場は、ブルールームという展示とも相まった一室(写真提供:HONOKA)

持続可能な未来を目指し、素材の見直しやリターナブルボトルの再資源化に取り組むことで、循環型社会の推進を目指しているアクアクララ。同プロジェクトは、ウォーターサーバー用リターナブルボトルの「素材」としての潜在力にフォーカスし、その可能性と用途を探求・可視化する取り組みだ。

使用済みのボトルをアップサイクルできる素材として研究。建材としての新たな可能性を提示するとともに、スツール、照明、花器など、多様なプロダクトへも展開(写真提供:HONOKA)

HONOKAは、これまでのリサーチと実験から、水と長期間接してきたウォーターボトルの樹脂には多くの水分が含まれ、加熱により無数の気泡が生じる現象を発見。この痕跡を「水の痕跡」と名付け、美しい質感として再評価した。両者は廃棄予定だったボトルをアップサイクルし、新たな価値を生み出すプロジェクトとして取り組んでいる。今回会場では、役目を終えたウォーターボトルを美しい建築素材へと生かす、現実的な解決策を提示した。

タカショーデジテック×Tangent「yomosugara」

屋外照明専門メーカーの株式会社タカショーデジテックとデザインスタジオのTangentは、屋外照明ブランド「yomosugara(よもすがら)」をレオナルド・ダ・ヴィンチ記念国立科学技術博物館「Cavallerizze(カヴァッレリッツェ)」にて展示した。

写真:太田拓実

日本の原風景や自然に対する考え方にフォーカスして生まれた「yomosugara」。万葉集でも使われた「よもすがら(夜通し)」という古語がブランド名に採用されている。

写真:太田拓実

会場では施設のエントランス付近にて、3種類の照明を披露した。端正な菖蒲の凛とした姿をモチーフにした「Shobu」、水面に睡蓮の葉が浮かぶ風景を表現した「Suiren」、有機的なフォルムとクリアな膜に覆われた光が特徴の「Kodama」。夜の時間帯にはライトアップされ、夕暮れの薄明りや水面に映る月明りといった、自然と共にある灯りの美しさが表現された。