KESIKI石川俊祐が目指す、愛される会社づくりと「優しさ」が巡る経済のデザイン

第6回「みんなでクリエイティブナイト」レポート(前編)

KESIKI石川俊祐が目指す、愛される会社づくりと「優しさ」が巡る経済のデザイン

デザインの役割や価値について“みんな”で考えていく、エイトブランディングデザインとJDNの共催イベント「みんなでクリエイティブナイト」。「スタートアップとデザイン」をテーマに、12月14日にYouTube Liveにて配信された第6回目の模様を、 3回に分けてお伝えしていきます。

ゲストに迎えたのは、KESIKI INC.パートナーを務める石川俊祐さんと、PARK Inc.代表の佐々木智也さんのおふたり。ナビゲーターは、エイトブランディングデザイン代表のブランディングデザイナー・西澤明洋さんが務めました。

レポートの前編となる本記事では、石川さんによるレクチャーをお届けします。

「優しさ」を共通点に集まった多様なメンバー

KESIKIのパートナーをしている石川俊祐と申します。今日は、私がそもそもなぜデザインの仕事をしていて、なぜデザインがおもしろいと思っているのかについて、そしてスタートアップとの関わりや事業を生み出す上でのデザインについてお話できればと思っています。

まずは、私たちKESIKIがどのようなチームで、なにをやっているのかというお話から。現在KESIKIには、フリーランスも含めると15人ぐらいが所属しています。自分たちでも、よくこれで成り立ってるなっていうような組み合わせのメンバーなんですが(笑)、私は以前デザインコンサルティング会社であるIDEOで、「デザイン思考」に関する仕事からプロダクトやサービスのデザイン、組織の設計をやっていました。

<strong>石川 俊祐 </strong> 多摩美術大学特任准教授 日本を代表する「デザイン思考」実践者。企業のブランディング、組織デザイン、教育プログラムの開発から新規事業創出まで、数々のイノベーションプロジェクトを主導する。茨城県生まれ。ロンドン芸術大学Central St. Martins卒業後、Panasonic Design Companyでプロダクトデザイナーとしてキャリアをスタート。英PDD Innovations UKのCreative Leadを経て、IDEO Tokyoの立ち上げに従事。2018年よりBCG Digital VenturesにてHead of Design/Strategic Design Directorとして大企業社内ベンチャー立ち上げに注力したのち、2019年、九法崇雄、内倉潤とともにKESIKI設立。現在、多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム特任准教授・プログラムディレクター、CCC、NTT com、aperza、XZなど大企業からスタートアップなど複数社のアドバイザーに従事、 D&amp;ADやGOOD DESIGN AWARD、山形エクセレンスデザイン、いばらきデザインセレクションの審査委員を兼任するほか、数々のセミナー、カンファレンスにてキーノートや講師を務めた実績を持つ。Forbes JAPAN世界で影響力のあるデザイナー39名に選出。著書に『HELLO, DESIGN 日本人とデザイン』。

石川 俊祐  多摩美術大学特任准教授 日本を代表する「デザイン思考」実践者。企業のブランディング、組織デザイン、教育プログラムの開発から新規事業創出まで、数々のイノベーションプロジェクトを主導する。茨城県生まれ。ロンドン芸術大学Central St. Martins卒業後、Panasonic Design Companyでプロダクトデザイナーとしてキャリアをスタート。英PDD Innovations UKのCreative Leadを経て、IDEO Tokyoの立ち上げに従事。2018年よりBCG Digital VenturesにてHead of Design/Strategic Design Directorとして大企業社内ベンチャー立ち上げに注力したのち、2019年、九法崇雄、内倉潤とともにKESIKI設立。現在、多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム特任准教授・プログラムディレクター、CCC、NTT com、aperza、XZなど大企業からスタートアップなど複数社のアドバイザーに従事、 D&ADやGOOD DESIGN AWARD、山形エクセレンスデザイン、いばらきデザインセレクションの審査委員を兼任するほか、数々のセミナー、カンファレンスにてキーノートや講師を務めた実績を持つ。Forbes JAPAN世界で影響力のあるデザイナー39名に選出。著書に『HELLO, DESIGN 日本人とデザイン』。

KESIKIのほかのメンバーには、マッキンゼーで働いたあとに「quantum」という会社を立ち上げた人や、大企業の新規事業を生み出してきたメンバー、「UNISON CAPITAL」で投資やM&Aを経験してきた人もいれば、不動産業界でニセコにスキー場をつくっていたり、ホテルの再生に関わっていたり、最近まで「Forbes Japan」というメディアで働いていたメンバーもいます。いま、デザインやビジネス、エンジニアリングなど、さまざまな領域の経済性と文化性、さらには社会性などを融合させることが語られていますが、KESIKIのメンバーのバックグラウンドは本当にばらばらです。私たちは、つくることとそれを継続すること、そして世の中にきちんと伝えていくことを融合させた会社をつくろうと、この会社を立ち上げた段階で考えていたので、こういったばらばらのバックグラウンドを持ったメンバーで仕事をしています。

そんな中でも、集まってきた人に共通するのは「優しさ」だと思います。僕は、他者への思いやりを大事にしたくて、優しい人と仕事をしたいと思っているんですね。そしてそれは、自分たちの会社だけじゃなく、誰かとお仕事をご一緒する際にも、そういった目線で関わらせていただくことが多いです。いまの時代、自分たちの会社だけ儲かるというよりは、周りのステークホルダーも含めて、ともにサステナブルに成立することを大事にした方がいいと思うので、そんなことを考えながらチームづくりをしています。

かたちのないものをデザインするための「問い」

僕はイギリスで教育を受けた後に、Panasonicで6年間デザイナーとして働きました。色や素材、かたちなどの製造プロセスにおいて、どんなものが世の中の人の手に取ってもらえるものなのかということを、そこで鍛えられました。かたちがあるものをどうデザインするのか、そしてそれがどのように価値に変わるのかということに携わらせていただいたことが、僕にとってのデザイナーのはじまりでした。

その後、IDEOやPDDという会社で、かたちがないもののデザインに携わりました。たとえばIDEOでは、「Design for Learning」という、人を育てるためのカリキュラムや、自ら発想する力を学ぶためのプログラムづくりといった、教育のデザインを経験しました。ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパンとの仕事で、軽井沢のインターナショナルスクールの立ち上げの際には、違和感にはっと気づく力や、なにかを生み出すために自ら発想する力を育てるという、新しい教育を実践するためのプログラムを開発しました。僕らは「気持ちのデザイン」と言っているんですが、こういったかたちのないプログラムの開発も、デザインの範疇に入ってきています。

また、現在多摩美術大学のクリエイティブリーダーシッププログラムでも講師を務めています。社会人の方々がもう一度“unlearn”することで、なにかを生み出すためのメソッドとマインドセットを併せ持った人材を育てるための、教育のデザインに取り組んでいます。ほかにも、スタートアップや大企業の組織デザインに関わらせていただくこともあります。

これは以前手がけた仕事で、明治のチョコレート「THE Chocolate」のデザインを担当した時の話なのですが、パッケージデザインはライトパブリシティが手がけていて、われわれは「そもそもどんなチョコレートを、なぜつくるべきなのか」ということをデザインしています。座組みとしては、われわれのチームと、クライアントのチームで取り組んでいたのですが、クライアントのメンバーには、経営企画からマーケティングだけでなく、フードサイエンティストや、カカオを栽培する現地に行ってカカオ農園を整える「カカオハンター」など、さまざまな人が参加していました。

「THE Chocolate」

われわれは、0から一緒につくっていくデザイナーとして、アイデアソンを実施させていただきました。たとえば、パッケージをデザインすることで100円を200円で売れるようにするといったことは世の中にあふれていて、この仕事も最初はそういったご相談だったんですが、「なぜこれをやりたいんですか?」というお話を聞いていったんですね。これから何年もこの商品を売り続けていく上で、本当にそれがやりたいことなのかという「問い」を投げかけていくんです。

すると、「1人当たりのチョコレートの消費量を、2kgから3kgにしたい」という話がクライアントから出てきました。イギリスでは年間で1人8kgぐらい、アメリカやドイツだと10kgぐらいがチョコレートを食べているそうで、日本でも実現すれば何十億円ぐらいの売り上げになる。確かに、消費量が増えることはいいことなのですが、さらにディスカッションしていくと、「われわれはカカオを信じてるんです」という言葉が出てきたんです。

チョコレートは、コーヒーやワイン、チーズのように、日本人のライフスタイルやカルチャーの中にはまだ浸透していない。それなら、われわれはチョコレートを文化として日本に広めることで、ライフスタイルを生み出し、それをけん引する企業になりたいというという思いがそこで生まれました。そこから、チョコレートを通した体験をどのように提供するのかを考える部署を社内につくったのですが、パッケージをデザインし直すだけでは、いままで通りマーケティングとして広告を打ち、テレビCMをつくって、イオンや成城石井などの店頭に並ぶことになる。それだと、なにが新しいんだっけ?ということになるわけです。

でも、プロジェクトのビジョンが「チョコレートの体験をつくる」という「問い」が変わったことで、誰もが日常的にチョコレートを食べるようになるためにはどうしたらいいんだろうと、一方で引いた目線の思考に変わる。結果的に、ユーザーとの接点をどうデザインするかということを考えることができ、いままで使っていたマーケティングの費用を、たとえば体験ができる場づくりに使ったりと、戦略自体が変わっていくんです。

このように、われわれがやっている仕事は「問い」をつくるところからはじめています。たとえば、東京音楽大学をデザインし直すプロジェクトでは、音楽家にとっての「成功の尺度」を変えるということをやりました。音大の卒業生は、400人に1人ぐらいしか音楽で食べていけないという現実があります。音大としては、卒業生に1人でも著名人がいれば、日本中から入学生が集まってくるので、それだけで成り立ってはいたのですが、果たしてそれは「成功の尺度」として正しいのだろうかと。

東京音楽大学のロゴデザイン

そこで、有名なミュージシャンを輩出することが成功の尺度ではなく、学生一人一人が自分のキャリアを設計できるように育てるためには、どうしたらいいのかという「問い」を立てました。そこから、キャリアレディネスといったプログラムの設計から、練習以外の時間を学生たちがどのように過ごすことがができるといいのかを考えた校舎の設計など、音楽以外のさまざまな人々が重なり合うことができるための学校づくりを軸に考えていきました。

われわれが考えている4つのキーワードがあるのですが、まず1つ目は、「問い」をうまく立てられているのかということ。それができていないと、本当にやりたいことがなにか、途中でわからなくなってしまうんですね。それは、スタートアップでも大企業のアントレプレナーでも同じだと思います。2つ目が、つくりながら考えること。四の五の話していても、実際につくってみないとそれが本当に好かれるかどうかはわからなんですよね。

3つ目は、ビジョンやビーコンと言っているんですが、大きな未来を思い描いた上で、いまやっている目の前の仕事に対して、なぜやるべきなのかを考えられること。そして4つ目は、最終的にデザインのエグゼキューションを決して軽んじないことです。この4つが、ブランドや会社をつくる上では外せないことなんじゃないかなと思っています。

愛される会社をつくることで、優しさが巡る経済をデザインする

特許庁との仕事では、デザインやクリエイティビティを社会に浸透させるために、「デザイン経営」の文脈で関わっています。特に、中小企業にとってのデザインのあり方を考える上で、課題解決のためにデザインが役に立つということを、優しい言葉でうまく言語化していくことをやっていきました。

企業のプロダクトやサービスをデザインすることも楽しい仕事なんですが、ひとつの商品をデザインしただけでは、なかなか会社そのものはよくならないですし、会社にとっての本当の力になりにくい。そこで、組織を丸ごとデザインしたり、会社の意思決定や発想するプロセスに、どのように創造性を取り入れていくのかという、会社そのもののデザインを実践しています。

たとえば、NTTコミュニケーションズのデザイン組織を0からつくるという仕事では、デザイン組織の役割を定義した上で、ゆくゆくは何百人という組織にするために、採用も含めた関わり方をしています。組織をつくる上で、最初の10〜20人は、会社のカルチャーの根幹をなす存在としてとても大事なので、採用の最終面談にはわれわれも参加しました。スキルがマッチした人を採用して組織を立ち上げ、その後3ヶ月ほどは新規事業やプロダクト開発にも関わりました。

NTTコミュニケーションズのデザインスタジオ「KOEL」

また、事業承継に困っている家具の会社の株を、100パーセントわれわれ自身が買うことで事業継承させていただき、「×デザイン」で変革させていく取り組みを現在行ってます。さすがにこの事業はどきどきしながら申し上げたんですが(笑)、われわれのチームにはさまざまなメンバーがいるので、特殊な技術や歴史を持った会社を、デザインやテクノロジー、ブランドの力で生まれ変わらせることができるということを、まずは自分たちで実証するということにチャレンジしていこうと思っています。

これは、結果が出るまでに10年かかるような、長い目線でやっていくことなんだろうなと思っています。100年、200年企業といった、特徴的な技術を持った日本の会社のデザインのされ方に興味があるので、もしかしたらこれをちゃんとパッケージ化することで、デザイン思考というものを、日本から逆に世界へと輸出していけるような可能性があるんじゃないかなと。会社を買い、デザインで変えていくことによって、日本のおもしろい組織デザインができるんじゃないかと、われわれも学びながら実践しています。

われわれは、愛される会社をデザインしたいと思っています。多分、このコロナ禍で多くの方が気づいたんじゃないかなと思うんですが、会社をスケールさせようとする考え方には、飽和点があるんじゃないかなと。人に愛される会社の規模、もしくはサービスが提供し得る規模感というものがあるような気がしているんです。

この事業は、われわれが自身がそれをきちんと見定め、モデル化していく試みでもあります。KESIKIにはこんなにもおもしろいメンバーが集まってくれているので、ちょっと壮大な話ですが、愛される会社のデザインを通して、優しさが巡る経済をデザインすること。それを、これから2、30年ぐらいかけてやっていこうと思っています。

写真:服部冴佳(エイトブランディングデザイン) 文・編集:堀合俊博(JDN)

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