「アート×伝統産業×先端技術」、工芸の地力を再発見する「工芸ハッカソン」から新たに生まれた可能性-(1)

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「アート×伝統産業×先端技術」、工芸の地力を再発見する「工芸ハッカソン」から新たに生まれた可能性-(1)
伝統産業の新たな活路を探る出会い

伝統産業の職人や工芸作家と、エンジニアや研究者、アーティストが出会ったら、どんなものが生まれるか?あまり語られたことのなかった問いかもしれない。

去る2017年の9月23日・24日、11月18日・19日の4日間、金工や漆芸のまち富山県高岡市で工芸の未来を提示する「工芸ハッカソン」が実施された。テーマは、「工芸を未来につなげられるか?」。同イベントは、北陸の工芸の魅力を世界に発信するため、2017年に初めて富山県で開催された「国際北陸工芸サミット」(2017年11月16日~11月23日)の関連事業だ。

いまやハッカソン(“ハック”と“マラソン”を組み合わせたIT業界発祥の造語)自体は珍しいものではないが、「アート×伝統産業×先端技術」という組み合わせは、これまでなかったものかも知れない。伝統産業の置かれている現状はなかなか厳しく、ライフスタイルの変化や後継者不足といった課題が山積している。その課題と向き合いながら“未来につながる”アイデアをカタチにするために集ったのは、市内で伝統産業に従事する工芸作家や職人、そして公募によって選ばれたエンジニアやプログラマー、アーティスト、学生など、個性あふれる総勢37名のメンバーだ。

伝統産業の職人と、異分野のクリエイターや研究者、エンジニアなどが、対話をしながら具体的なアウトプットを模索する一連のプロセスを通じて、工芸の価値や課題をあらためて探っていく……ということではあるが、まずはハッカソン参加メンバーに工芸の“現場”にふれてもらい、そしてコラボレーターを探すため、DAY1(9月23日)は伝統産業ツアーからはじまった。

DAY1 伝統産業ツアー

平和合金

まずは高岡といえば「鋳込」。創業120年の歴史を持つ鋳物メーカーの「平和合金」は、銅像やモニュメント、神仏具など、大型の鋳物の鋳造を行なっている。多種多様に進歩させた鋳造技術が現代アート作家からの信頼も高く、斬新なアイデアの作品の制作依頼も多いそう。

モメンタムファクトリー・Orii

続いての工房見学は「着色」。高岡銅器の「着色」の仕事では、伝統的には、煮色、鍋長色、朱銅色、鉄漿(おはぐろ)といった多彩な着色技法を用いて、美術工芸品や銅像、仏具に色付けを行っている。折井着色所の3代目・折井宏司氏が立ち上げた「モメンタムファクトリー・Orii」は、これらの伝統的な手法を活かしながらも、さまざまな化学反応を用いた新たな発色技法を確立。「偶発性」も取り入れた表情のある発色を生み出し、建材やインテリアにもその用途を広げている。

武蔵川工房

続いて、高岡漆器の代表的技法の1つであり、螺鈿(らでん)の一種でもある「青貝塗」の工房「武蔵川工房」(創業明治43年)を見学した。「青貝塗」は、夜光貝やアワビなどの貝の内側真珠層を0.1ミリほどの薄さに削ったものを用いて模様を表現するもので、ときには裏にさまざまな色を塗り、色の変化も出す。この加工された薄い真珠層を小さく割った後、モザイクのようにはりつけていく作業は繊細そのもの。

シマタニ昇龍工房

“ありがたい音”を響かせる寺院用のおりん(お鈴)を製造する、「シマタニ昇龍工房」では「鍛金」の技術を見学。100余りある金槌や金床、当て金を用途に応じて使い分け、黄銅版を金槌で叩く作業を数十回繰り返し行って形づくっていく。いちばん重要な調音作業はまさに職人技、微妙な響きの差異を聞き分け、また細かく叩いていくことで理想の音に近づけていく。

そのほか、クラフト産業の振興に力を入れる県や市のデザインセンターも訪ね、工芸産業を支える技術や魅力に触れた駆け足の一日となった。

長きにわたって受け継がれてきた確かな、それでいて豊かな技術、そして高岡という街と人の魅力にふれた参加メンバーたち。それぞれが感じた思いを翌日のアイデアソンへとぶつけていく。

DAY2 白熱するアイデアソン

DAY2(9月24日)は、市内にある国の重要文化財施設に指定される土蔵造りの「菅野家住宅」で、チームビルディングとアイデアソンが実施された。「工芸の未来」という大きな問いかけに対して、参加者のそれぞれがアイデアや思いを語る、熱気のあふれるプレゼンテーションが続いた。

その後、暫定的なチームに分かれて行われたブレインストーミングでは、「伝統工芸の魅力とはなにか?」をキーワードで抽出。そこで挙がったキーワード、「技術力」「偶然性」「造形美」「土着性」などをもとに、要素と文脈をかけ合わせたり、個々の技術やモノが持っている魅力を最大限引き出すような商品開発の提案につなげていく。

アウトプットのイメージとしては、金属や漆を使ったプロダクト、伝統技術や工芸を使ったアート作品はもちろん、リサーチ結果からのアプリやサービスも可、つまり必ずしも“モノ”に落とし込まくても良いとのこと。

11月19日の能作本社で行なわれる審査会では、「産業やビジネスとしての可能性が高く、工芸の未来に資する可能性」や、「創造を超えるような人の心を動かし豊かにするクリエイション」といった点が評価軸となっていく。

チームごとにアイデアを深めていくアイデアソンだが、良い意味でクセのある参加メンバーだけに、チームビルディングはなかなかすんなりとはいかなかった。「アート×伝統産業×先端技術」の幸福な融和、もしくは衝突による化学反応は起こることがやはり理想的だ。それには当然ながら、ものづくりの知見を持った人たちの集まりでは足りない、同様にプログラミングやデータ解析などの知見だけでも、伝統産業の当事者が感じる課題の本質には迫れない。

参加者の多様性やスキルを生かしたチームがつくれるか?それ次第でアイデアの実現の可能性は大きく変わってくる。それを参加者自身もよく理解しているからか、自らのアイデアの実現をとるか、はたまた自身のチームへの貢献をとるかで、揺らぎ葛藤する姿もまま見られた。

長時間のアイデアソンの末、伝統産業の職人の技術をデータベース化(まるでアスリートのデータベースをつくるかのよう!)して未来につなげようとするチーム、職人の手業で生み出された複雑なフォルムをAIに学習させて未知の造形を探るチーム、工芸を新しい素材と捉えてテクノロジーと組みあわせようと挑むチーム……などなど、新しい可能性が見えてきそうなワクワクさせられるアイデアがそろった。

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