学生には勉強以外の寄り道をどんどんしてほしい-【特別対談】鈴木マサル×藤森泰司(2)

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学生には勉強以外の寄り道をどんどんしてほしい-【特別対談】鈴木マサル×藤森泰司(2)

時代とともに変わってきた教育の現場と美大の立ち位置

鈴木:僕は講師歴でいえば今年で14年になりますが、昔は美大って普遍的なことを教える場だったと思うんです。でも、今はテキスタイルひとつにしても、個々にいろいろな価値観をもった学生がいます。だから、何かを教える際でも一律に同じ接し方ではなく、個別の対応が増えました。その中でそれぞれの個性を引っ張り出していくというか。僕の学生時代は、それこそみんなで何かをやろう! というスタンスでしたが、ここ最近は「みんなで」という感じが昔ほどはなくなったような気がします。

藤森:難しいところですよね。みんなで何かをやることにもいい面はありますから。

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鈴木:藤森さんも専門学校やいくつかの大学で講師をされていますが、教える立場として何か感じることはありますか?

藤森:そもそも美大や芸大に来る学生が減っていますよね。特に男子。どこで教えていても男子学生の割合が少ないと感じます。それが悪いことだとは思っていませんが、少し寂しいですよね。生徒が20人いて4人くらいしか男子がいないと、やっぱり萎縮しちゃうし、男子だけで固まってしまったりするので。たぶん、今の学生の方がある意味世の中のことがわかっていて、自分の将来を見据えているんだと思います。僕らが学生の頃は、もうみんなバカだったからなんとかなると思っていたんだけど(笑)、今は「美大に行って将来何するんだよ」っていう気持ちの方が強いのかもしれない。でも、それは学生の問題ではなくて、おそらく世の中のデザインやアートの伝え方の問題なんでしょうね。デザインにもっといろいろな可能性があることを、子どもたちに見せられていないのかもしれません。

鈴木:確かに、先を見すぎているというのは僕も教える中で感じます。絶対失敗したくないという気持ちが強すぎて、最短距離を取りたがる学生はとても多いです。僕はそれなりに経験値もあって、こうすれば最短距離でいけるよというのはわかるんですが、迷ったり悩んだりする過程も大切ですから、ちょっと意地悪ですが、時間のあるときはわざと学生が迷うようなアドバイスをすることもあります。

学生には勉強以外の寄り道をどんどんしてほしい

藤森:ところで、鈴木さんは高校生くらいの頃から今のような仕事を目標にされていたんですか?

鈴木:全然! 当時はテキスタイルが何かも知らないような状態でした(笑)。僕はもともとグラフィック志望だったんです。受験した学校でグラフィックと併願できるところがたまたまテキスタイルだったので同時に受けたところ、そこしか受からなかったという……(笑)。正直、最初の1年はつまらなくてどうしようかと思っていました。でも、3年生の時にテキスタイルデザイナーの粟辻博先生に出会って影響を受けて、そこから劇的におもしろくなりましたね。そういう流れがあって今はテキスタイルを専門にしていますが、何があるかわからないですよ、本当に。

ギャラリール・ベイン / ギャラリーMITATEで行われた、「鈴木マサルのテキスタイル 傘とラグとタオルと」の展示風景

ギャラリール・ベイン / ギャラリーMITATEで行われた、「鈴木マサルのテキスタイル 傘とラグとタオルと」の展示風景

藤森:教授でも友達でも、出会う人の影響って本当に大きいですよね。一生付き合っていく人に出会えるのが大学だったりもするので。今の学生も、もっと未知でいいと思うんですよ。例えば写真にすごく興味があってそれがどうしても頭から離れなくなったら、とにかくやってみる。「それじゃあ食えないしなー」と考えるのは二の次で、誰かに迷惑かけようが何しようが「やる」っていう気持ちは、時として必要だと思います。僕らも、色々な人にサポートしてもらって今があるので。学生のうちは若いんだし、どんどん寄り道してほしいですね。

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鈴木:高校3年生の時点で人生決められる人なんて、なかなかいないですからね。テキスタイルを専攻していた学生でも油絵の方面に進んだ卒業生もいますし、陶芸家になった人もいますしね。「寄り道」ということでいえば、最近の学生は映画を観たり、音楽を聴いたり、本を読んだりといった勉強以外での知識欲が少ないと感じることってありませんか?

藤森:それは感じます。たぶん、今は知りたい情報にすぐにたどり着けちゃんでしょうね。僕らの頃ってネットもなかったですし、知りたい情報にたどり着くまでに寄り道せざるをえないんですよね。音楽だったら、このバンドのベースの人は昔ここにいたんだ? だったらそっちも聞いてみようとか、建築だったらこれをつくっているのは誰だろう? ここに置いてある彫刻は誰の作品だろう? と気になって調べる。むしろ僕はその寄り道の中でいろいろなことに興味をもって、新たなことを知るのが楽しかったですね。自分が今関わっているジャンルに関係ない部分の好奇心や意欲って、この先仕事をする上でもすごく大事だと思います。それは、勉強のように誰かに教わるものでもないですから。

鈴木:そうですね。中にはテキスタイルを専攻しているのに三宅一生さんを知らないという学生もいたりして、びっくりすることもあります。僕たちが学生だった頃ってみんなが共通で憧れる「スター」的な存在がいたと思うんですが、今はそのスターが、例えばインスタグラムでフォロワーが何千人いる同じ年代の人だったり、全く無名の地下アイドルだったりする。それが悪いということではなく、価値観が多様化しているということなんでしょうね。

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