サローネサテリテは最大限にプレゼンスを発揮できる場所−渡辺佑介インタビュー

サローネサテリテは最大限にプレゼンスを発揮できる場所−渡辺佑介インタビュー
35歳以下の若手デザイナーにとっての登竜門であり、ミラノサローネ出展企業のデザイナー発掘の場でもある「サローネサテリテ」。毎年世界中から応募があり、厳正な審査を通過した若手デザイナーにとっては最大限のプレゼンスを発揮できる場所だ。今回、お話をうかがったデザインオフィスWD代表の渡辺佑介さんは2年連続の出展となる。渡辺さんが提案したのは「DAILY VIVIDNESS」をコンセプトにした3つのプロダクト。現地での反響はどのようなものだったのか?そして「サローネサテリテ」に出展するためには、どんな戦略と準備が必要なのかも聞くことができた。「いつかは自分も……」と志すデザイナーにとっては、参考になる話もあるのではないかと思う。
日々の生活に彩りを与えるプロダクト

――今回の出展作品のコンセプトを教えてください

日々に寄り添うだけでなく「彩り」を与えられる、そんなデザインを提案しようと決め、「DAILY VIVIDNESS」をコンセプトに3つのプロダクトをデザインしました。中でも「Parachute」というウォールフックは発想の起点や、プロダクトへの落とし込み方が上手くいき、今回やりたいことがうまくプレゼンテーションできたと感じています。

プロダクトネームは、作業中によく聞いていたColdplayの1stアルバムのタイトル「Parachute」から引用しています。イタリア語の“守る(parare)” とフランス語の“落ちる(chute)”が語源で、「落ちるのを守る」インテリアをつくろうというところ発想したウォールフックです。開いたパラシュートを真上から見下ろしているような鮮やかな見た目が気に入っています。これを出すためにミラノに行ったといっても過言ではありません(笑)。

ブレードを倒す数でかけられるモノが変わり、使ってない時は壁面を彩る、そんなマルチファンクショナルなプロダクトです。ウォールフックって使っていないときに、出っ張っているのが少し気になっていたので、そのあたりも解消できるように可動式にしました。

Parachute

Parachute Photo : Hiroki Watanabe

Parachute

Parachute Photo : Hiroki Watanabe

イメージ写真は、この『Parachute』をさながらスケボーを持っているような雰囲気を演出しています。そのカルチャー感がほのかに伝わったらうれしいです。自分が影響を受けてきたカルチャーに対する思いや、プロダクトデザイナーとしての志がMIXされています。

Parachute

Parachute Photo : Hiroki Watanabe

『V』は、『Parachute』と同じくシートメタルを使ってつくったもので、見慣れない方向に曲げてみました。その形状から『V』とつけています。たたずまいがけっこうかわいくて、現地でも気に入ってもらえました。

V

V Photo : Hiroki Watanabe

V

V Photo : Hiroki Watanabe

『Tet.』は、狭小空間が多い日本寄りで考えたラグマットです。ラグ選びをもうちょっとフレキシブルにできないかな?と考え、テトリスみたいなものを組み合わせたデザインにした。海外からの反響としてあったのは「錯視がいい」「エッシャーみたい」と言われて、「そうかなあ?」と思ったりしました(笑)。発想自体が「ラグを選ぶのが難しい」というのがあって、ラグは1枚ものが基本で、それにインテリアをあわせていかなくてはいけないので、もう少しフレキシブルにできないかなと思いました、テトリスが組まれていくみたいなイメージで空間が構成できないかというところからはじまりました。

Tet.

Tet. Photo : Hiroki Watanabe

Tet.

Tet. Photo : Hiroki Watanabe

インハウスでやってきた時に、これぐらいのものをつくろうとしたら、このぐらいのお金がかかるだろうという皮算用がありましたので、なるべくかからないようにつくろうと一番に考えています。

ミラノは「誰か一緒にやらない?」を大声で伝えられる場所

――去年に続き2回目の出展となりましたが、出展まではどのような手順があるんですか?

去年は初めての出展で体当たりで参加しました。学生の時からずっと自分の名前で出てみたかったので。やってみたらすごいお金がかかって「おお……!」みたいな(笑)。

初年度は審査が必要なんです。どれくらいデザインの実績があるのかをポートフォリオにして、事務局に夏頃に送ります。結果が来るのは10〜11月くらいです。まずは出展料の半額を支払います。並行してどういったメーカーとエンゲージしていきたいか、コンセプトメイキングしていきました。コンテンポラリーな表現でプレゼンテーションしギャラリーとの契約を狙う人たちと、ブランドや企業に向けてプレゼンテーションし量産化を狙っていく人たちで、二極化していると思っています。僕は後者のタイプで、なるべく安くつくれて、メーカーが製造するときに負担にならない、そういうことを考えながら昨年も今年もつくりました。

コンスタントに提出しなくてはならない資料があるので、経験者で先輩の北川大輔さん(Design For Industry)にもアドバイスをもらいながら進めました。出展にかかる費用に対して、VAT(付加価値税)というものが20%くらいかかるので、はじめて参加する時にはその辺が勝手がわからないので苦労しました。僕はすべてハンドキャリーで現地まで持っていってるのですが、規模の大きいものをつくる人は輸送だけでかなりお金がかかるのと思います。輸送に関してもハンドキャリーとはいえ、僕もバリバリ超過料金払っています(笑)。

超過料金払っています(笑)。

ミラノサテリテでの展示風景

――制作中にもっとも注力したポイントは?

僕はサテリテに出展するプロトタイプは、ブランドに対するラブレターだと考えています。「僕はこんなこと考えられるよ!」「お金かけないやり方でも新しさや楽しさが提供できるよ!」「僕と一緒に組もうよ!」というメッセージをプロトタイプに込めています。

そのなかで大事にしているには、すぐに量産可能な「つくり」、自身のデザインでの「チャレンジ」、デザインする対象そのものとしての「らしさ」、です。このバランスをとってデザインすることが非常に難しかったです。Parachuteでいうと、ブレードは両端以外、裏面含めてすべて同じカタチのパーツで構成されていて、「つくり」をとてもシンプルにしています。なおかつウォールフックとしてきちんと機能するように、ブレードを展開した時の角度などに「らしさ」をもたせています。

あと、実は左端の5枚だけがちがう色で、そのほかはすべて同じ色のシートメタルでできている。どの枚数だったらきれいに見えるかと、コストのせめぎあいがここに出ていて、そのグラデーションの調整が難しかった。すべてのブレードにグラデーションをかけるのは量産の工程を考えると非現実的でした。

――現地での反応はどのようなものでしたか?印象に残ったコメントなどありますか?

ブランドやメーカーの反応が良かったです。昨年、契約につながったブランドのディレクターもブースに来てくれたました。今年は国内外数社のブランド、メーカーさんから検討をしたいとのお知らせをいただいてます。ここからしっかり契約、量産まで繋げられたらいいなあと思っています。まあダメだったとしても声かけてくれただけでも収穫ありですね!

現地での反応としては、「着眼点」と「色づかいと明快な造形」を気に入ってくれた方が多かったのが印象的でした、ポジティブなコメントがほとんどだったので安心しました。「coldplayは1stがパーフェクトだよね!どの曲が好き?」といった会話が、デザインの見本市会場でできたのも楽しかったです。ミラノはやっぱり「誰か一緒にやらない?」っていうことを大声で伝えられる、自分をアピールができる場所ですね。

渡辺祐介さん(WD) Photo : Hiroki Watanabe

渡辺祐介さん(WD) Photo : Hiroki Watanabe

――2回出展してみて反省点はありますか?

やっぱり時間とお金ですね。資金をどれだけ確保できるかが急務で、それでやれることが変わってくる。ブースが良いとまずはそれでアイキャッチできて、プロダクトクオリティが高いとなお良い。当たり前のことなのですが実際にやるにはけっこうな資金が必要なんです。

資金調達はすごい難しいところです。あくまで、サテリテは未発表のプロトタイプを出すところで、企業とタッグを組む商業的展示は表立って良しとはされていません。加えて企業にとってサテリテは出展するメリットが少ないと僕は考えています。なぜなら、来場者の中でもいわゆるブランドのセールスやショップのバイヤーよりも、クリエイティブディレクターやマネージャーといった立場の人が多く、彼らは販路に直結はしていません。なので、組んで商品として出展するにはデザイナーと企業の双方に無理が出てきそうで……と考えてるうちに、毎回自己資金になってしまいます。どうにかしたいところです(苦笑)。

――今後の国内での展開はなにか考えていますか?

今回のプロトタイプは興味を持っていただいているブランドと契約までこぎつけ、製品化に向けて進めていきたいですね。特に再び国内で展示することは考えていないのですが、もしそんな機会があるなら新たなプロトタイプのプレゼンテーションとしてやってみたいです。新しいデザインはどんどん発表していきたいし、いろんな人に自分の考え方を知っていただきたいし、国内ではまだまだプレゼンスを発揮できていないと自分でも思っているので、この記事を読んでいただいた方からお誘いがいただけたら全力でがんばる所存です(笑)!誰か誘ってください!渡辺、あいてますよっ(笑)!

あとは、もっとさまざまなカルチャーとプロダクトデザインをつなげたいですね。もともとカテゴリで分けずに越境していけたらデザインって楽しそうだなと考えていて、例えば映画のセットにいいプロダクトがもっと使われてほしいし、レコードジャケットとかに自分の作品が使われてほしい。自分もインスピレーションを得られるのは他のカルチャーからが多いんで、同じ感覚を持つ人たちとそういうムーブメントをつくりたいですね。

WD
https://www.wdtokyo.com/