【価値を高める仕事術】自社の研究開発チームで、「ああ、楽しかった」体験を新技術で生み出す−株式会社ソニックジャム

【価値を高める仕事術】自社の研究開発チームで、「ああ、楽しかった」体験を新技術で生み出す−株式会社ソニックジャム
あなたの仕事は、何をもたらすだろうか。自社のブランディングを高めること、クライアントの期待を超えること……などなど。自分たちのやりがいと相手の期待値、それぞれの満足度を高めるには、少し生々しい言い方をすると“コスパの良さ”も鍵になる。また一緒に仕事をしたくなるようなチームには、日々仕事を進めるなかで、肝になるテクニックや原動力となる想いが潜んでいるはず。本連載では、さまざまな会社のさまざまな職種の方々に、【価値を高める仕事術】と題してその秘訣を各社3回にわたって解き明かしていきます。インタラクティブな制作に強みを持つ株式会社ソニックジャム代表取締役の村田健さんと、SONICJAM.plusのプロデューサー/ディレクターの奈良優斗さんにお話をうかがった。

仕事術テーマ:体験づくり

あえてソニックジャム本体と切り離して、画面の外での研究開発

——奈良さんはどのような経緯でソニックジャムに入社されたんですか?

奈良優斗さん(以下、奈良):私は工学出身で、高校生から大学院時代までずっとエンジニアリング、プログラミングを学んできました。人と話すのが元々好きで、ものづくりに広く関わっていきたいと思った時に、広告業界のディレクター職を勧められたんです。とはいえ新卒で応募できる会社は数社しか見つからず、そのうちの一社がソニックジャムで、体当たりしてみようと。学生時代につくった作品がメディアに色々取り上げられたりしていたので、印象に残ったのかなと思います。

SONICJAM.plus プロデューサー/ディレクター 奈良優斗さん

SONICJAM.plus プロデューサー/ディレクター 奈良優斗さん

村田健さん(以下、村田):ソニックジャムとして新しいことをし続けていくために、これまでと違う側面で採用しようと思っていたタイミングでした。彼はいわゆる技術畑で学んできていたけど、エンジニアではなくディレクターをやりたいというタイプは珍しいので、貴重な存在だなと。いままでになかったことをやるために、新しい人材を中心にチームを立ち上げたんです。

——奈良さんの所属するSONICJAM.plusとは一体何でしょうか?

奈良:私がソニックジャムに入社した理由のひとつとして、画面の外で何かやるための研究開発があります。ソニックジャムはWeb制作会社というイメージがまだあると思いますが、そこを広げていくにあたり、もともとソニックジャムにあったチームをリブランディングしたのがSONICJAM.plusです。本体とわざとかけ離して、名刺やサイトも別で用意しています。SONICJAM.plusは研究開発や自社の製品開発、サービス開発を目指したチームで、エンジニアが3人、ディレクター・プロデューサーが2人います。

クリエイティブとテクノロジーを用いて体験の頂を目指すチーム「SONICJAM.plus」。 クリエイティブの基盤技術に加えて、VR技術・AI技術やデバイス開発などの技術を使った、自主プロジェクトとクライアントワークを行っている <a href="https://sonicjam.plus/" rel="noopener" target="_blank">https://SONICJAM.plus/</a>

クリエイティブとテクノロジーを用いて体験の頂を目指すチーム「SONICJAM.plus」。 クリエイティブの基盤技術に加えて、VR技術・AI技術やデバイス開発などの技術を使った、自主プロジェクトとクライアントワークを行っている
https://SONICJAM.plus/

——研究テーマはどのようにして決めていますか?

奈良:社員誰でもテーマを提案できる環境にはなっています。ただ、いままでのケースでいうとエンジニア主体。メンバーがリサーチして企画に落として社長に許可をとり、研究をするというケースが多かったです。ビジュアル表現などはどんどん幅を広げようと思って、Web系の技術(HTML、WebGLなど)や映像、最近だとUnityやVRなどが増えています。

中への訴求は、外部からの情報を“逆輸入”

——研究開発が芽を出しはじめている実感はありますか?

村田:今年はその成果を発表したいと思っていて、IoTプロダクトなどをひとつふたつと、他社との共同開発でつくっているプロトタイプを出す予定です。クライアントワークもいくつか進めているので、展示や体験アトラクションなどもこの夏以降発表できたらいいなと思います。

奈良:入社して4年目ですが、新卒で入社してからの1年間はクライアントワークのWebディレクター業務に携わって、そこからは研究開発中心にインスタレーション系の案件などを担当しています。研究開発は時間がかかったりして「あのチームは何をやっているの?」みたいな話が社内で出ることもありますが、そんな時に村田がよく「逆輸入をしたほうがいいんじゃないか」と言うんです。つくったものがSNSでバズったり、テレビに出たりすることで、つくったものの価値や意義について社内の理解も深まるんじゃないかと。

株式会社ソニックジャム 代表取締役 村田健さん

株式会社ソニックジャム 代表取締役 村田健さん

村田:内部だと知りすぎて評価がわからなくなってしまうこともあるので、外部からの評価の方が、新鮮で受け入れられやすいんですよね。

奈良:部署の活動を他部署の人に伝えるのは、ある意味で親戚に話すのと同じだと思っています。近いからこそ抱く期待や不安もあるし、全てを知っているわけでもないので踏み込みづらいこともある。でも、もちろん社内への共有は大事で、そのために全員が自分ごと化しやすいような題材での勉強会も企画しています。

NTTドコモ『VOICE CHOCOLATE』における体験づくり

——体験づくりの具体的な話として、VOICE CHOCOLATEはどのように生まれ、研究内容やソニックジャムとして積み上げてきた知見をどのように活かしたのか教えてください。

NTTドコモ『VOICE CHOCOLATE』 メッセージを「見える化」し、世界でひとつだけのチョコレートとして届ける施策をバレンタイン限定で実施。想いのこもった声のデータを、クラドニ図形に基づいて3D化しチョコレートを生成。 発送されたチョコレート自体がARのマーカーになっており、専用アプリで読み込むと元の声が再生される <a href="http://www.sonicjam.co.jp/works/20170214/1551.html" rel="noopener" target="_blank">http://www.sonicjam.co.jp/works/20170214/1551.html</a>

NTTドコモ『VOICE CHOCOLATE』
メッセージを「見える化」し、世界でひとつだけのチョコレートとして届ける施策をバレンタイン限定で実施。想いのこもった声のデータを、クラドニ図形に基づいて3D化しチョコレートを生成。 発送されたチョコレート自体がARのマーカーになっており、専用アプリで読み込むと元の声が再生される
http://www.sonicjam.co.jp/works/20170214/1551.html

奈良:『VOICE CHOCOLATE』のアイデアは、代理店からの素案をベースに技術的なチェックをして、複数案の中から、声をチョコレートにする企画に決定したんです。それを形にする際、もともとソニックジャムにあった技術を使ったわけではなく、アプリ自体をUnityでつくって制作を進めました。技術的なところでは、チョコレート=茶色の色彩分けが、光の加減で色彩が変わってしまうので認識の難度が高く、ARで認識するのが大変でした。

——では、「体験づくり」で注力したポイントは?

奈良:音声を収録する側と受け取る側のふたつの体験があり、収録する側はマイクに向かって喋り、受け取る人へのIDパスワードを発行するだけなので、そんなに難しくないんですけど、受け取る側は悩ましかったです。

チョコレートって溶けてしまうものなので、その儚さをどう演出するかをしっかり考えました。チョコレートデザインに採用したクラドニ図形は、平面に砂を撒き周波数を当てると現れる図形で「可視化できる音」とも言われています。砂を表現するためにアプリの中で3Dを使い、図形が変形していくモーションの表現にこだわりました。砂のオブジェクト数を減らせばデータは軽くなるけど、演出として見栄えが悪くならないように調整し、受け取ったチョコレートからはじまるストーリーを大事にしていきました。

村田:エンジニアとデザイナー間で「こうしたいけど、そのままやると処理が重いからどうしよう」みたいな話はよくありますね。技術上の制約と戦いつつ、表現力をいかに高められるかというのがうちの仕事の特徴かなと思います。

広告が見せるべきは、技術の新しさじゃない?

——SONICJAM.plusとして仕事をする醍醐味は?

奈良:広告業界のニーズとして、よりハイレベルな技術が求められている流れがあり、理解すべき技術の範囲はどんどん広くなっています。だから一社で完結できないことも増えてくると思いますが、SONICJAM.plusはそこをカバーできるのがひとつ。

もうひとつがWebエンジニアにもっといろんな技術を教えるとか、理解してもらうところ。突き詰めると、対外も同じことをやらなきゃいけないと思っていて、競合他社でもやりとりした方がいいこともあるでしょうし、社内外両方にアプローチしていきたいと思っています。

サイネージとかVRとかイベントとか、新しいことをやりたいというクライアントの要望は増えていますので、早く体制を強化して、もっといろんな実績をつくっていきたいなと思っています。そういう風にしてちょっとずつ、ソニックジャムはWebだけの会社ではないということを業界に逆輸入したいんです。

——体験づくりの根源って、喜んで欲しいという想いなんでしょうね。

奈良:驚きや楽しさを与えたいのが一番ですね。技術の話は正直どうでもよくて、人間って遊んだときに「ああ、楽しかった!」といった感情が最初にでると思うんですよ。技術がどうとか考える余裕がないくらい楽しませることが一番大事かなと。UI/UXをベースにした感情の起伏のある体験をつくりたいと思っています。ユーザーにストレスがないとか、つまらないものはつくりたくない。技術を見せるためにつくるものって最近当たり前になってきているけどそれは裏側の話だし、一般の対コンシューマーに対しては驚きや感動だけが見えればいいかなと。広告って、伝えて人を動かすまでいってはじめて意味がある。ただ、そういうことまでできている例が分母に対してまだまだ少ないと感じます。

村田:この技術すごいなってだけのものは、すぐ飽きちゃうじゃないですか。ちゃんと設計されたものは後からでもおもしろいなと思える。我々も技術の真新しさを追うだけじゃなくて、ストーリーづくりや表現力も高めることで、人々にインパクトを与えるものをつくっていきたいですね。

SONICJAMの「体験づくり」ポイント
・Webから画面の外へ広げるため、本体とは別に研究開発チームをつくる
・技術上の制約と戦いつつ、表現力をいかに高められるかにこだわる
・技術のことを考えさせる余裕がないくらい楽しませる

構成・文・撮影:八木あゆみ 聞き手:瀬尾陽(JDN)

株式会社ソニックジャム

株式会社ソニックジャム

人を動かすクリエイティブ、未来につながるプロジェクトを生み出すデジタル・クリエイティブ・プロダクション。デジタルコミュニケーション戦略立案、インスタレーションデバイス開発、WEBサイトの企画・制作、映像・モーショングラフィックス制作、UX/UIの設計、iPhone/Androidアプリケーション開発を手がけている。
http://www.sonicjam.co.jp/