見てくれる人がいることで、できた後にも作品は変化していく。「The Best of the Best TMA Art Awards」グランプリ受賞者・石山和広インタビュー

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見てくれる人がいることで、できた後にも作品は変化していく。「The Best of the Best TMA Art Awards」グランプリ受賞者・石山和広インタビュー
2008年より東京ミッドタウンが毎年開催してきたデザインおよびアートのコンペティション「TOKYO MIDTOWN AWARD」。2017年に10回目の開催を迎えたことを記念し、パブリックアート恒久設置コンペ「The Best of the Best TMA Art Awards(以下、BoB)」が開催された。このコンペは、受賞者支援の一環として、アート部門における初回から2017年までの受賞者全51組を対象として行われた。グランプリには300万円の賞金のほか、制作費が3,000万円の上限で与えられ、東京ミッドタウンに恒久設置するためのパブリックアートを制作できるというまたとないチャンス。過去受賞者の69%にあたる35作品が集まった。

東京ミッドタウンでは、日本文化の精華と位置づけられる日本庭園をふまえた「ハイブリッド・ガーデン」というテーマを掲げ、国内外から選りすぐられた全14作家19作品のパブリックアートが2007年の開業時より設置されている。「BoB」でも、このテーマを引き継ぐかたちで作品プランが募集された。審査の基準となったのは、コンセプト、テーマ、芸術性、場所性、現実性、独創性の6点だ。

公開プレゼンテーションを含む厳正な審査を経てグランプリを獲得し、栄えある東京ミッドタウンの20番目のパブリックアートを手がけることになったのは、石山和広さん(2010年受賞)だ。今回新設される『絵画からはなれて[磊](らい)』は、ヒマラヤ山脈の一角を占める高山を、数百枚のデジタル写真を組み合わせた超精細なイメージとして提示する巨大な平面作品だ。作品の展示にあわせ、石山さんが活動拠点とする山形県天童市のアトリエを訪問し、「BoB」で提案したプランを中心に、自身の活動についてお話をうかがった。

山形県天童市にある石山和広さんのアトリエ

――まず、2010年に「TOKYO MIDTOWN AWARD」に応募したきっかけについて聞かせてください。

最初は応募するつもりではなかったんですが、友人からアワードの話を聞いて、同じ時期に別の知人からも「応募してみたら」と勧められて。ちょうどまだ試していないアイデアを持っていたので、それをコンペにぶつけてみようと決めました。1次、2次審査を経て展示する4組に選ばれた時点で手応えを感じました。最終的には佳作となり、3番手か4番手。シャープさんからの技術提供をはじめ、いろんな方面から協力していただいていたので、悔しかったですね。

「The Best of the Best TMA Art Awards」グランプリ作品完成にあたって、東京ミッドタウンでの恒久設置は不思議な縁を感じています。2010年に「TOKYO MIDTOWN AWARD」を受賞したこともあり、翌年、秀桜基金留学賞を得ることができました。その奨学金によって数年間断続的にアジアを周遊し、旅の後半に訪れた場所から今回の被写体であるこの山を見出し、今回の恒久設置に繋がったからです。この場所で作品が恒久設置されることに縁を感じ、何よりもこの機会を得ることができたことをうれしく思っています。

今回、「BoB」に応募した作品は、もともと編集もプリントもしていたものの、出口も締切もないのでPCの中に眠っていたものです。そこにたまたま案内をいただいて、この機会に応募しようとプレゼンをまとめました。

石山和広

石山和広
1981年山形県生まれ。おもに写真をもとに平面制作を行う。2005年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。2008年東京芸術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了(M.F.A.)。近年の展示に、2019年「秀桜基金留学賞10年、そして「今」2006~2015」(岡山県立美術館/岡山)、2016年「ヴェネチアビエンナーレ国際建築展2016」(ヴェネチアビエンナーレ日本館/ヴェネツィア、増田信吾+大坪克亘との協働)、おもな受賞に、2018年「The Best of the Best TMA Art Awards」グランプリ、2011年第五回秀桜基金留学賞。

普段はコミッションではなく自主的な制作がメインなので、なにかに向けて準備することがあまりないんです。それだけにこういった機会はありがたい。今回は、恒久設置というのがうれしかった。撤去しなきゃいけないものを労力をかけてつくるというのはやはり悲しいので。作品がしっかり残ってくれるということを考えると、とてもやりがいがあります。

――今回受賞した『絵画からはなれて[磊](らい)』は、2010年の作品とはまた異なる印象があります。どういったコンセプトで制作されたのでしょうか?

複数の写真を合成してイメージをつくるという技法はどちらも共通しています。2010年のアワード受賞作は、人間の目では捉えきれないありありとした空を見てみたいというアイデアからはじまって、レンズの画角と雲の高さを計算して場所を割り出し、同じ時刻に真上を撮った写真を合成しました。今回の作品では複数の写真を合成する、という方法を極端に行っており、どちらも共通するのは肉眼では捉えきれない画像をつくり出す、という点でしょうか。

「TOKYO MIDTOWN AWARD 2010 アートコンペ」で佳作を受賞した『es.kei.wai』 撮影:谷裕文

「TOKYO MIDTOWN AWARD 2010 アートコンペ」で佳作を受賞した『es.kei.wai』 撮影:谷裕文

「The Best of the Best TMA Art Awards」でグランプリを受賞した『絵画からはなれて[磊](らい)』

自分のやり方で写真を撮ると、写真のイメージのほうが、現場で自分が見るより視覚情報が多くなる。そこに「リアリティとはなにか」という奇妙な感覚を抱いたんです。もう少しこの感覚を追究してみたいという思いが、今回の作品に繋がっています。

僕の考えでは、絵画は頭の中にあるイメージを、手を動かして直接プロットすることを目指すもの。それに対して写真は、頭の中にあるイメージと、できあがるイメージの間にどうしても距離が生まれてしまいます。写真の宿命を突き詰めたら、描写されたものとつくり手の距離がどんどん開いていく。デジタル技術を使って絵画のように写真を扱いながらも、絵画から離れていく。タイトルにはそうした意味がこめられています。

石山和広制作風景

――東京ミッドタウンを訪れる不特定多数の人に、この作品をどのように見てほしいですか?

身も蓋もないですが、他人からどう見られるかより、自分がいいと思えるかどうかがいちばんです。たとえば、でき上がってから一年くらいは、外に出さず自分で眺めていたい。そこで「わるくない、いいんじゃないか」と思えて初めて、外に出すのに耐えうると思っています。つまり、自分が気になることはすべて直していくことで、「いいと思える」ところまで作業をつづけることが重要だと考えています。ひとつの目安として、季節を通して感覚や光の状態が変わるため一年くらい、という感じです。

その次の段階として、見る人には単純に楽しんでほしいと思います。たとえば、山の隅々までよく見てほしい。下に写り込んだテントと比較するといかに山が大きいかがわかるし、アクシデントでスタックした車が写り込んでいるのも見える。見てほしいからこそ、自分が気になるところを残したくない。今回の「BoB」では制作にあたっていろいろサポートをいただけるので、変化球ではなくストレートを投げるつもりで、思いっきりやらせてもらいました。作品って不思議なもので、できた後も変わるんです。見てくれる人それぞれの気持ちによって、見え方がすごく変わる。そういう意味で、今後、つくったときよりもよくなっていってくれればうれしいです。

――「BoB」の受賞者として、東京ミッドタウンの取り組みをどのように考えていますか?

「TOKYO MIDTOWN AWARD」と「BoB」、2回も大きなチャンスをもらえたのは本当にありがたいです。アワードを何年も続けているということが素晴らしいですよね。「BoB」では恒久設置という前提があるだけに、どれだけ仕上げをきっちりつくるか、単純に見え方を考える比重が増えたので、そういう意味でとてもトレーニングされました。続けていくのは大変なことだと思いますが、こうした事業はこれからも継続してほしいです。

――最後に、今後の活動について聞かせてください。

僕はあらかじめ伝えたいことがあってつくっているわけではなくて、「どうなるかわからないけどやっておきたい」という思いで活動を続けてきました。アイデアを思いついたときと、思いついたアイデアを超えるものが実現したときがいちばんおもしろいし、うれしい。これからもその2つが叶えられるよう、制作を続けていけたらと思います。

石山和広 アトリエにて

「東京ミッドタウンでの恒久設置は不思議な縁を感じています。2010年に『TOKYO MIDTOWN AWARD』を受賞したこともあり、翌年、秀桜基金を留学賞を得ることができました。その奨学金によって数年間断続的にアジアを周遊し、旅の後半に訪れた場所から今回の被写体であるこの山を見出し、今回の恒久設置に繋がりました。」と、本作ついての思いを語る石山さん。いよいよ、3月29日(金)からミッドタウン・タワーB1に恒久設置される。320cm×320cmという、迫力のあるサイズの作品は、きっと行き交う人々が足を止めることだろう。ぜひ、じっくり隅々までご覧いただきたい。

構成・文:伊藤良平 撮影:志鎌康平 編集:瀬尾陽(JDN)

TOKYO MIDTOWN AWARD

才能あるデザイナーやアーティストとの出会い、応援、コラボレーションを目指す、デザインとアートのコンペティション「TOKYO MIDTOWN AWARD」。東京ミッドタウンが主催となり、毎年デザインコンペとアートコンペの2部門で開催している。今回のデザインコンペの募集期間は6月21日から7月22日まで、アートコンペは5月13日から6月3日まで募集を受け付ける。

今回のデザインコンペのテーマは「THE NEXT STANDARD」。SDGs(持続可能な開発目標)、エシカル、Upcycle、使い捨てプラスチックの禁止など、いま、くらしをとりまく環境への意識の変化が求められている。これから少し先の未来の「あたりまえ」や「新しいスタンダード」になるようなデザインを募集。

アートコンペのテーマは、例年と同様に「応募者が自由に設定」することとなっており、東京ミッドタウンという場所を活かしたサイトスペシフィックな作品を募集する。

■デザインコンペ
【応募期間】
2019年6月21日(金)~7月22日(月)24:00
【応募方法】
公式ホームページのWebフォームより応募
※1次審査通過者はプレゼンテーション審査を実施
【審査員】
石上純也、伊藤直樹、えぐちりか、川村元気、中村勇吾
【賞金】
・グランプリ(1点)賞金100万円、「ミラノサローネ国際家具見本市」開催中にイタリア・ミラノへご招待、トロフィー
・優秀賞(3点)賞金30万円、トロフィー
・ファイナリスト(6点)賞金5万円
※実現化(商品化・イベント化など)のサポートを提供
※該当なしの場合あり

■アートコンペ
【応募期間】
2019年5月13日(月)~6月3日(月)必着
【応募方法】
公式ホームページのエントリーフォームに登録し、提出物を下記提出先まで郵送または宅配便にて送付
※登録時に発行の「登録番号」を応募用紙に記入すること
※1次審査通過者はプレゼンテーションおよび模型審査を実施
※2次審査通過者は実物審査を実施
【審査員】
大巻伸嗣、金島隆弘、川上典李子、クワクボリョウタ、鈴木康広
【賞金】
・グランプリ(1点)賞金100万円、University of Hawai’iのアートプログラムに招聘、トロフィー
・準グランプリ(1点)賞金50万円、トロフィー
・優秀賞(4点)賞金10万円、トロフィー
※入選者に制作補助金として100万円を支給
※該当なしの場合あり
※提出物などの詳細は、公式ホームページを参照

http://www.tokyo-midtown.com/jp/award