先端テクノロジーを用いて示す新しい弔いのカタチ-市原えつこインタビュー

先端テクノロジーを用いて示す新しい弔いのカタチ-市原えつこインタビュー
センサーがつけられた大根をさすると艶めかしい喘ぎ声が響き渡る「セクハラ・インターフェース」や、秋田で200年以上続いてきた年中行事・ナマハゲを都市部に実装する「都市のナマハゲ」などで知られる市原えつこさん。古くから伝承されてきた奇祭から日本的エロスが電気仕掛けで表現された秘宝館まで、日本独自の風習や信仰、風俗に目を向け、テクノロジーの力を用いて現代にアップデートするプロジェクトの数々で注目を集めている気鋭のアーティストだ。先日、故人の特徴を人型ロボットに憑依させることで新しい弔いの形を示した「デジタルシャーマン・プロジェクト」で、[第20回]文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門 優秀賞を受賞した彼女にインタビューを行った。

祖母の死がきっかけで生まれた「デジタルシャーマン・プロジェクト」

「デジタルシャーマン・プロジェクト」は、故人の顔や身体、声、仕草などの特徴を、ロボットに憑依させるようにインストールすることでその人らしさを体現し、仏教の世界で死者が現世にとどまるとされる死後49日間だけご遺族が一緒に過ごせるという作品です。

2015年に私の祖母が亡くなったのですが、お葬式で遺体が火葬され、骨だけになった姿を親族のみんなが見て泣くという一連の弔いのプロセスを経て、身近な人の死で混乱していた自分の心が整理されたという経験をしました。その時に、弔いというのは人間にとって必要なものだということを実感し、当時働いていたYahoo! JAPANの仕事で関わっていた人型ロボットのPepperを使い、新しい弔いの形がつくれないかと考えたんです。

過去にも、東京都現代美術館の作品プランのコンテストで、脳波で祈祷ができる企画で準グランプリをいただいたり、性器崇拝への興味から生まれた「セクハラ・インターフェース」を制作してきたように、古くから伝わる土着的な風習や信仰、文化に興味を持っていました。

私は大学進学を機に上京したのですが、その後改めて地方に足を運んでみると、熱海の秘宝館や愛知の桃太郎神社など衝撃的なローカル文化との出会いがたくさんありました。メディアアートには洗練されたアプローチの作品が多いのですが、一方で熱海の秘宝館などでは非常にナンセンスなテクノロジーの使われ方がされていて、こうしたものこそが日本のメディアアートと言えるのではないかと考えるようになりました。

また、私が関心を寄せていた呪術的なものというのは、そこにないものを引き寄せるという側面があり、電話やホログラム、VRなどのように、ここにいないはずの人を出現させる作用があるテクノロジーとの親和性も高いと思っていました。そんな折に和田永さんの「Braun Tube Jazz Band」(ブラウン管テレビを鍵盤打楽器として演奏するプロジェクト/パフォーマンス ※[第13回]文化庁メディア芸術祭 アート部門 優秀賞)という作品を見て、雷に打たれたかのような衝撃を受け、自分もこういうものをつくりたいと思うようになりました。

市原えつこ アーティスト、妄想監督。1988年、愛知県生まれ。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系卒業。日本的な文化・習慣・信仰を独自の観点で読み解き、テクノロジーを用いて新しい切り口を示す作品を制作する。おもな作品に、大根が艶かしく喘ぐデバイス《セクハラ・インターフェース》、虚構の美女と触れ合えるシステム《妄想と現実を代替するシステムSRxSI》、家庭用ロボットに死者の痕跡を宿らせ49日間共生できる《デジタルシャーマン・プロジェクト》などがある

市原えつこ
アーティスト、妄想監督。1988年、愛知県生まれ。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系卒業。日本的な文化・習慣・信仰を独自の観点で読み解き、テクノロジーを用いて新しい切り口を示す作品を制作する。おもな作品に、大根が艶かしく喘ぐデバイス《セクハラ・インターフェース》、虚構の美女と触れ合えるシステム《妄想と現実を代替するシステムSRxSI》、家庭用ロボットに死者の痕跡を宿らせ49日間共生できる《デジタルシャーマン・プロジェクト》などがある

現代社会からこぼれ落ちたものをカバーしたい

「デジタルシャーマン・プロジェクト」の制作過程で友人の住職と話をした時に、近年は都市部を中心に葬儀が簡略化される傾向が強まっていることを知りました。そして、親族を簡易的に葬ってしまった人ほど、自分の死が迫った時に精神不安に陥りやすいんだそうです。この作品は、既存の葬儀や弔いに対する問題意識から生まれたわけではないですが、このように社会の構造や時代の変化によって淘汰されたり、こぼれ落ちてしまったものをカバーできないかという思いは持っていました。

当初は、故人のSNSの投稿を解析して、言葉によってその人らしさを表現するチャットボットのようなものも構想していたのですが、いざロボットに喋らせてみた時に強烈な“コレジャナイ感”を味わいました(笑)。その時に、仕草や気配にこそその人らしさが宿るのだと気づいたんです。

今回のように、最初に漠然と思い描いていた構想と最終的なアウトプットが大きく変わることはよくあります。専門家と話したり、旅行をしたりしてある程度リサーチができたら、夏休みの工作レベルのプロトタイプをつくり、そこから軌道修正をしていくのですが、ぼんやりとしたテーマをもとにつくっていく過程は、木の塊から形を探っていく彫刻的な作業と言えるかもしれません。

ロボットに憑依させる人のデータをつくる工程で、1時間ほどその人の声を録音するのですが、その時に「メッセージを残したい人はいるか?」など色々な話を聞くんです。さまざまな人にアンケートをしてみると、身内が亡くなった時の話など、それぞれが死にまつわる豊かな体験を持っているんですね。「死」や「性」の話というのは普段あまり語られないものですが、あまりにタブー視され過ぎてしまうことはヘルシーではないと思うし、こういう話がもう少し共有されることで、生きやすくなる人も増えるんじゃないかと感じています。

非合理的な存在の中にある合理性に光を当てる

土着的な信仰や奇祭というのは一見非合理に思えますが、実はとても理にかなっているものが多いんです。以前にナマハゲを題材に作品をつくったのですが、得体の知れない存在に思えるナマハゲには、地域を監視して治安を守ったり、子どものしつけをしたりと、実は地域コミュニティを維持するという重要な役割があるんです。

こうした非合理的なものの中にある合理性に目を向け、テクノロジーを使って現代的な形にアップデートすることで、現代人にとって今後必要になるかもしれないものや、心の支えになるようなものを表現したいという思いがあります。

「デジタルシャーマン・プロジェクト」に関しても、現代人の心の備えになるようなものにできるといいなと考えています。幸いなことに、協力してくださった方で本当に亡くなった人はまだいませんが(笑)、いずれは実際に使ってもらえるように事業化の可能性を探っているところです。

この作品は、文化庁メディア芸術祭のエンターテインメント部門で優秀賞をいただきましたが、私はもともと一点もののアート作品などよりも、複製されて色んな所に広がっていくエンターテインメントが好きなんです。例えば、メディアアーティストの八谷和彦さんは、会社員時代の経験を活かして作品を制作するとともに、「ポストペット」のようなブームを巻き起こしたツールも開発されていて、とてもバランス感覚が絶妙な方だと尊敬しています。

「デジタルシャーマン・プロジェクト」がどこまで広がるかはわかりませんが、テレビなどで紹介されると高齢者の方からの反応も良く、また今後Pepperがもっと普及すれば、故人のデータやプログラムをインストールするだけで誰もが使えるので、量産の可能性はあるのかなと思っています。

私は飽きっぽい性格なので、今後もさまざまな仕事と並行して作品をつくっていくというスタイルを続けていくと思います。常に色々な関心があるのですが、特に最近は金融や株式投資に興味を持っています。金融や貨幣システムは人間にとってセンシティブな題材なので、何かの機会に自分の作品とつなげられたらと考えているところです。

取材・文:原田優輝 撮影:後藤武浩

市原えつこ
http://etsuko-ichihara.com/

[第20回]文化庁メディア芸術祭 受賞作品展
多様な表現形態を含む受賞作品と、功労賞受賞者の功績を一堂に展示するとともに、シンポジウムやトークイベント、ワークショップ等の関連イベントを実施。国内外の多彩なクリエイターやアーティストが集い、“時代(いま)を映す”メディア芸術作品を体験できる貴重な13日間。

会期:2017年9月16日(土)~28日(木)
時間:11:00~18:00 ※16(土)・17(日)・22(金)・23(土)は20:00まで
会場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 、東京オペラシティ アートギャラリー ほか
入場料:無料
主催:文化庁メディア芸術祭実行委員会
http://festival.j-mediaarts.jp/

[第21回]文化庁メディア芸術祭
プロ、アマチュア、自主制作、商業作品を問わず、インタラクティブアート、映像、ウェブ、ゲーム、アニメーション、マンガをはじめとするメディア芸術の広範な表現による多彩な作品を募集。

募集期間:2017年8月1日(火)~ 10月5日(木) 日本時間 18:00 必着
▼募集要項
http://compe.japandesign.ne.jp/media-geijutsu-2017/